12.王城図書室
街の図書館に行こうと思っていたが、奴隷契約やら何やらですっかり遅くなってしまった。行って行けないこともないが、今日はまだ行ったことのない王城の図書室に行ってみることにした。
屋敷を出て隣の王城へ歩いていく。門番に、名前を告げると何のチェックもなく通してくれた。こんなセキュリティで大丈夫かと思ったが、ヤヨイがしっかり根回ししてくれていたんだろう。素性とか聞かれても困るしね。
場内をアズキの案内で歩いていく。
「アズキは、王城に詳しいの? 」
「ヤヨイ様のお世話になってから詳しくなりました。それ以前では、数回訪れただけで決まった部屋以外には行きませんでしたから」
アズキも王城に入れるような貴族だったんだな。魔虫の大繁殖のせいで没落しちゃったけど。話しているうちに図書室に着いた。図書室の前で見知った人に出会った。以前王様と共に話をした第五王子のシンゴ君だった。
「ご無沙汰しております。トモマサ様。本日は、図書室に御用とのこと。案内を仰せつかりましたので何なりと申し付けください」
「こんにちは。シンゴ王子。王子自ら案内とは恐縮してしまうね。司書の方でもよかったのに」
イケメン王子の案内なんて、肩が凝りそうだ。俺は、ちょっとひきつった顔で話していた。
「申し訳ありません。トモマサ様。司書ですと、トモマサ様の正体に気付かれる可能性がございますので、私でご了承賜りたく、お願い申し上げます」
なるほど、しょうがないね。
「分かりました。シンゴ王子。ただ一つ、その話し方何とかなりませんかね。王子がそんなに低姿勢では、余計怪しまれますよ?私の立場は、一貴族の跡取りですからね」
「了承しました。ではないですね。え~、分かったよ。それなら、いっそのこと友達になろう。友達同士なら大概のことは悪ふざけとして見られるし、カモフラージュにはもってこいでは? 」
対外的には、それはいい案に思える。だけど、俺とイケメン王子が友達~?リアルではあり得ない設定だけに及び腰になってしまう。
でも、まあ、ふりだしな。
「友達 (のふり)でいいですよ。さあ、図書室を見せてください」
友達なのだからため口でもと思うのだが、やはり王子には出来ませんでした。
「分かったよ。トモマサ。どんな本が見たい?どんな本の場所にでも案内するよ」
対して、シンゴ王子は、完全にため口だった。本当に演技かと思うほどに。まぁ、良いんだけどね。
王城の図書室の蔵書量は、圧巻の一言だった。ただ、ほとんどの本は、俺には必要ない本だった。過去の財務統計や貴族の趣味一覧なんて一生読まないから。必要な人には、大事なんだろうけど。
一通り、本棚を見終わったところで、シンゴ王子にお茶に誘われた。2時間ぐらい歩きまわったので疲れてたので大変ありがたい申し出だった。後ろを見ると、アズキは全く疲れたそぶりを見せていな様子だった。そんなアズキを見てひそかに心に決めた。体力をつけるために運動しようと。
休憩に訪れたテラスでは、一人の少女が座っていた。こちらに来てから始めて見る、金髪碧眼の美少女だった。黄金色に輝くドレスを上品に着こなしている美少女だ。シンゴ王子が如才なく紹介してくれた。シンゴ王子の双子の妹でアシダ エカチェリーナ、年はもちろん12歳だ。白人系の人は成長が早いのでとてもそうは見えないけど。
「初めまして。アシダ エカチェリーナと申します。カーチャとお呼びください、トモマサ様。トモマサ様のことは、父や兄からお噂は聞いております。お会いできて光栄ですわ」
立ち上がって、ドレスのスカートをチョンとつかんでお辞儀をする。令嬢特有のあいさつに俺は見とれてしまった。
「は、はじめまして。トモマサです。こちらは、メイドのアズキです」
「ご無沙汰しております。エカチェリーナ様」
アズキ、知り合いだったようだ。
「アズキさん、以前のようにカーチャとお呼びくださいな」
「私は、奴隷となった身、王女様にとてもそのような失礼なことはできません」
「そのような事、全く気にしませんのに」
「カーチャ、無理はいけないよ。アズキさんは、いろいろ難しい立場なんだ。知ってるだろう? 」
シンゴ王子のとりなしにカーチャ王女は退いてくれたようだ。
「しかし、カーチャ王女は珍しい髪の色をしておりますね。シンゴ王子は、普通に黒髪なのに」
「ああ、それはですね。私たちの母上は、隣国、カラフト共和国の出身でしてね。友好の証として嫁いできたのですよ。その母上の特徴がカーチャには出たのですが、私は、父上に似たため黒髪黒目になったんですよ」
そうか、二人はハーフなのか。納得である。よく見ると、顔つきは二人とも似ていてとても整っていた。
自己紹介の済んだところで、お茶が運ばれてきたのだが、アズキはずっと俺の後ろに立ったままであった。立場上は、座るわけにはいかないのだろうが、俺としては全く寛げない。俺とシンゴ王子とカーチャ王女、3人で許可するので座ってくれと頼んでようやく座ってくれた。
座ってしまうと、口調は堅いままだがカーチャ王女と楽しげに話しをしていた。奴隷になって変なところが面倒くさくなった。俺としては、普通にしてほしいのだが、無理なのだろうか?帰ったら話し合わないとな。
シンゴ王子とは、来年受験する魔法学園の話をした。丹波連合王国一の魔法学校で全国から受験生が来るらしい。受験は12歳から18歳まで出来て、通常カリキュラムなら3年で卒業できるようだ。ただ、飛び級のシステムもあり、過去数名、1年程で卒業した人もいるようだ。また、逆に試験に落ち進級できず何年も学園に残る人もいるらしい。
「世の中には、天才がいるんですね」
「そうだね。その1年で卒業した人は、帰挟者だったようですよ。トモマサ君も1年で卒業出来るんじゃないかな? 」
いや、無理じゃないかな?その人は、きっと21世紀でも能力の高い人だったに違いない。田舎で農業しているような俺とは違うと思う。
「同じ帰狭者でも、頭の出来が違う人だよきっと。俺は、田舎でのんびり農業していただけだから、飛び級なんて難しいと思うよ」
「またまた、謙遜して。伝承では、賢人って伝えられてるからね〜。信じられないよ」
賢人って、また、どんな伝承残してるんだ。ああ、ヤヨイのにやにや顔が浮かんで来る。
「シンゴ王子、俺は本当に21世紀では普通の人だから、伝承は、きっとヤヨイあたりが誇張に誇張を重ねて作っただけだからきっと」
俺は、必死に説明した。来年から一緒に学校に通うのに変に期待されても困るから。
「なるほど、分かったよ。伝承は別物だと思っておくことにするよ。素のトモマサ君と友達になりたいしね」
流石イケメン王子。キザなこと言っても違和感がないな。でもこれで、変な理想を押し付けられなくていい。
他にも海外の事情について聞いた。ハーフなら図書館にはない生の情報が得られるかと思って。
シンゴ王子の話では、隣の大陸では領土争いで戦争ばかりしているが、他は比較的平和らしい。しかし、隣の大陸は、魔物が闊歩するこの世界でも戦争してるのか。1000年経っても民族性は変わらないんだな。困った人達だなほんと。
「ところで、海外って行けるの? 」
「近くの国は、船でいけるよ。あと、転送魔法かな。でも、遠くの国に行けるほどの魔素を持った人は少ないので外交官以外が行く事は滅多にないけど。トモマサ君は、どこかの国に行きたいのかい? 」
「いつか行けたらいいなぁとは思う。けど、まずは国内を見て回りたいかな。きっと色々変わってるだろうし」
でも、その前に、自分の身の振り方を考えないとね。このままじゃ、ヤヨイのヒモだから。旅行が出来るぐらい稼げるように頑張って勉強しよう。
後は、街の流行など、たわいない話をして屋敷に帰った。
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翌日も朝からアズキの匂い嗅ぎで目がさめるが、まだまだ眠い。
昨晩は、アズキと部屋で話をしていたら寝るのが遅くなったためだ。本当に話していただけだ、ナニもしていない、匂いはかがれたが。でもおかげで、なるべく奴隷を意識せずに生活してほしいという、俺の要望を理解してくれたようだった。たったそれだけのことなのに長い長い話になったのは、ただただアズキが頑固だったからだ。「罪を償わないといけません」と言ってなかなか譲らなかったけど、最後は、俺の、主人の心からのお願いとして頼み込んでようやくなのだから、頑固すぎるだろう。
「アズキ、もういいか? 」
「おはようございます。トモマサ様。今日も朝の元気頂きました」
昨晩遅くにかなり匂いを嗅いだはずなのに、朝からフルコースで嗅いでいたようだ。ちゃんと寝てるのか心配になる。
朝食に向かうと、今日は珍しく洋風朝食だった。パンにポタージュスープにベーコン目玉焼きに野菜サラダ。ヤヨイも来たので一緒に食べ始めた。王城の図書室や、その後出会ったカーチャ王女のことなどを話していく。
「カーチャ王女は回復魔法が上手なのよ。来年から魔法学園に通うから仲良くしてあげてね。……嫁候補だし」
食べるのに夢中で、例によって最後の方は良く聞こえなかった。
「そうか学園で一緒か。アズキとも仲良さそうだし、楽しみだな」
俺とずっと一緒にいるアズキもたまには友達と遊びたいだろう。カーチャ王女は、ちょうどいいんじゃないかと思う。よしよし。
「ところで、ヤヨイ。俺、体鍛えようかと思うんだけど、何処かにいいランニングコース無い? 」
「父さん、21世紀じゃないんだから、ランニングなんてしてる人いないわよ。やるなら剣術か体術ね。だけど、貴族なら剣術かな?昔、剣道やってたんだし得意じゃないの剣術」
「剣道は、高校の授業でやってただけだから、得意ってほどじゃないよ。でも、剣術か。魔物のいる世界なら、武器の扱いを知ることも必要か。やってみるか。ヤヨイの警護の人で誰か得意な人紹介してよ」
「分かったわ。(嫁候補を)探しておくわ。ちなみに、体術ならアズキに習いなさいな。あの子、かなりの柔術士よ」
ヤヨイ、次は美少女剣士 (嫁候補)を探すようだ。剣士に柔術士、魔法の先生に回復魔法使い。段々とバランスの取れたパーティーに成って行きそうだ。ヤヨイ、何を目指しているのか?ただ嫁を増やしたいだけなのか。トモマサは自分の意志で進んでいると思っているようだが、知らない所で練られた計画が順調に進んでいるようだった。




