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10.アズキの事情

「それじゃ、本日の最後に、魔法を試してみましょう。魔素のコントロールも安定してきましたし、そろそろ使えると思いますよ」


一月ほどたったころの授業の終わりに、突然カリン先生が言い出した。


「そうですね。火魔法は、失敗すると危ないので、水魔法で行きましょう。水球を作ってみてください。まずは、私がやって見せます。……『水球ウォーターボール』」


カリン先生の目の前に、水球が出来て浮いていた。


「浮かせるには、別の命令を与えないといけません。ですので、トモマサ君は、とりあえず水球だけを作ってみてください。くれぐれも魔素量には気を付けてください」


そういわれて、俺は、命令を考えていく。元からある物質を使うと少ない魔素で実行できるらしいので、空気中の水蒸気を液化して集めることにする。魔素は、握りこぶしぐらいを使おう。

カリン先生をまねて、呪文を唱えてみる。


「……『水球ウォーターボール』」


その瞬間、世界が闇に閉ざされた。いや、そんな事にはならない何のゲームだ。ただ、大量の水が現れ頭上から降り注いだだけだ。屋敷の広い庭全体が水浸しである。カリン先生は、唖然としている。


「こ、この水量……トモマサ君、どれぐらいの魔素を使ったんですか? 」


「えー、握りこぶしぐらいでしたが、普通にやっても面白くないので、空気中の水蒸気を集めてみました。えへ」


ちょっと可愛く言ってみた。カリン先生は、物凄く驚ていた。俺の可愛さにではなく、話の内容に。


「そうか。そうですね。確かに元からある水蒸気を使えば少ない魔素でたくさんの水を出現させられます。私もまだまだ発想が貧困と言うことですね」


腕組みしながら、ぶつぶつ言ってる。そんなカリン先生を見て俺は気が付いた。これまで、ローブでよくわからなかったが、ずぶ濡れでローブが体に張り付いた今ならよく分かる。立派なものをお持ちであった。アズキよりは小さそうだが、腕組みによりかなり強調されている。そう胸が。思わず視線が釘付けになってしまう。カリン先生が、俺の視線に気づいたのか、「きゃぁ」と言って胸を隠した。小さな手では隠しきれてないが。


「み、見ないでください。せっかく胸がばれないようにだぶだぶローブで隠してたのに余計に強調されてますぅ~。前も講師派遣で行った先で男子生徒が胸しか見なくなったので対策してたのに~」


そうか、隠してたのか。まぁ、生徒側が座って先生が立つ位置になると、目の前があの胸になるな。目線が行ってしまう男子生徒の気持ちがよくわかる。しかし、ここは、ちゃんと言っとかないといけない。


「カリン先生、僕は、アズキの胸で見慣れてますので、その程度の巨乳では驚きませんよ」


「はぁ、トモマサ君、何のフォローにもなってないですよ? 」


あれ?おかしいな。とりあえず着替えないとな。カリン先生には、風呂にでも入ってもらうかな。メイドを呼んでお願いした。俺は、すぐに来たアズキに着替えを用意してもらった。


~~~


夕食に向かうと、ヤヨイとカリン先生が座っていた。


「トモマサ、カリン先生も一緒に食事していってもらうことにした。さぁ、トモマサも座って」


突然、ヤヨイに呼び捨てにされて、びっくりした。カリン先生がいるので余所行きになってることにしばらくして気づいた。確かに、「父さん」とは、呼べないわな。


「カリン先生、先ほどは失礼しました。体を温めて風邪などひかぬようお気を付けください」


俺もよそ行きの感じで話しかける。


「いや、気にしなくて良いですよ。初めての魔法に失敗はつきものですから。それに威力という面では申し分のない結果でしたしね。日々の訓練の賜物ですよ」


「ありがとうございます」


褒められたので、素直に礼を言っておく。謝ったのは、どちらかというと胸を見た件なのだが、そちらもあまり気にしていないようだ。ヤヨイとカリン先生の間で、魔法談議に花が咲いている。俺は、適当に相槌を打ちながら食事を楽しんだ。食事が終わるころには、ローブも乾いたようで着替えてから帰っていった。夜も遅いし、馬車で送るそうだ。俺は、玄関で馬車を見送った。


風呂に入って、部屋で魔素の把握とコントロールの訓練をしていると、そこに、アズキがやってきた。いつもの匂いタイムである。


「ねぇ、アズキ。耳とか尻尾とか触っても良い? 」


やられっ放しも嫌なので聞いてみた。飼っていた犬も当然いなくなったので、色々もふもふしたい欲求が膨らんで来たのだ。


「あ、あ、あ、あの、ト、トモマサ様なら構いません。どうぞ」


顔を真っ赤にしながら耳を出されたので、触ってみる。うん、犬の耳だ。あぁ、久しぶりの犬耳だ。癒される~。尻尾はどうかなぁ。そっと、尻尾も触ってみる。アズキが、びくぅとして硬直していたが、しばらく触ってると緊張がほぐれたのか匂いを嗅ぎだした。満足した俺が手を放すと、アズキも満足したのか俺から離れた。アズキの顔が真っ赤だった。


「アズキ、ありがとう。すごく気持ちよかったよ」


「トモマサ様に喜んでいただいて私もうれしいです。それでは、おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


そういうと、アズキは部屋を出て行った。


~~~


「トモマサ様に耳と尻尾を触ってもらえました」


自分の部屋に帰ったアズキは、一人悶々としていた。

犬獣人にとっては、耳と尻尾を触るということは、プロポーズと同じこと。知らぬこととはいえトモマサは、しっかり結婚を申し込んだことになっていた。


「幸せでした。こんなに幸せでよいのでしょうか?大罪人の子である私が。……ヤヨイ様は、私の将来のことを考えてくださってますが、やはり責任は取らないといけません。血の繋がりは断てないのですから」


夜が更けていくが、答えは出ない。


「やはりトモマサ様には、すべてをお話ししなければなりません。このプロポーズを今は受けるわけにはいかないことを。明日朝に話をしましょう。返事を遅らせても良いことはありませんから」


やってしまったトモマサ。明日には、覚えのない結婚を断られることになるだろう。もっとも、世間一般から見たら申し込んだのはトモマサの方からである。犬獣人の風習を知っていればだが。


そして、すぐに朝は来る。


~~~


 朝目覚めると、いつものようにアズキが匂いを嗅いでいた。


「おはよう」


「おはようございます。トモマサ様」


アズキは、今日も元気そうだ。匂いタイムも順序から言って終わりに近そうだ。まだ少し眠いので黙って微睡んでいると、すっと離れて行った。終わったようだ。俺は、起き上がって伸びをする。


「トモマサ様、少しお時間をいただきたいのですが、よろしいでしょうか? 」


改まってなんだ?加齢臭でもしてたか?子供の体だ、その心配はないはずだ。他には何も思いつかないので、普通に返事した。


「いいよ。今日は授業も休みだし、図書館に行こうかと思ってる以外は予定はないよ。何するの? 」


「ありがとうございます。でしたら、朝食後すぐにでも少し話を聞いていただきたくて」


「分かった」そう言って着替えていく、最近は、アズキが部屋に居ても意識しなくなっていた。あれだけ、体中の匂いを嗅がれてるんだ。少しぐらい裸を見られてもなんとも思わなくなってしまった。慣れって、恐ろしい。


朝食後、部屋に戻って待っている。話をするんだから、ベットではなくソファに座って待っていた。しばらくすると、お茶と菓子を持ってアズキがやってきた。お茶を入れて向かいに座る。少し緊張してるようだ。尻尾がピンと立っている。


「トモマサ様に、私の全てを知っていただきたくてお時間頂きました。しばらくお付き合いください」


全てか。これが夜なら興奮するが、朝だしなぁ。何が聞けるのやら。


「実は私、大罪人の娘なんです」


そういって話が始まった。大罪人ってなんだ。と思ったが、まじめな話みたいなので腰を折らずに話を聞いた。

アズキの父親(ヤヨイの孫の妻の兄弟の子孫ぐらいの遠縁に当たるらしい。)が科学の復興を目指したのが大罪の原因らしい。

科学の復興は魔虫の大繁殖につながるため、丹波連合王国では禁止されている。代わりに魔法があるから良いじゃないかと思うのだが、魔素量が少なくて貧困に陥る人もおり万能なものではないということだ。そのため、稀に科学の復興を目指す人が出るのだそうだ。困ってる人を助けるために始めることなので実直な人が多く、周りの人も中々に気付かない。気付いた時には手遅れで魔虫の大繁殖を引き起こしてしまうらしい。


「父は大きな街の領主で、とても誠実な人だと言われてました。街のスラムの対策として、個人的に科学の研究を行っていたようでした。ですが、それが大きな間違いだだったのです。4年前、魔虫の大繁殖が発生しました。どのような研究をしていたのかは誰にもわかってません。何せ、研究室のあった屋敷の周り数十キロ内には、人工物は何も残ってませんでしたから。……そして、父は研究の責任を取って、母は父を止められなかった責任を取って処刑されました。未成年の私の罪は、成人するまで罪の確定を保留されています。成人後に、裁判が行われ判断がなされると聞いています」


なぜ、アズキにまで罪に問われるのかわからないと聞くと、大罪認定されると個人ではなく家族での連帯責任となると教えてくれた。科学の復興を目指す人が、貧困の対策にと弱者救済を考える人であることが多く、そういった人の抑止力にするために考えられた法であるとのことだった。


「アズキは、何も知らなかったのだろ? 」


「はい、父は、完全に隠れて研究を行ってました。母ですら、何も知らなかったようです。それでも、家族であれば罪に問うのが大罪の決まりなのです。未成年の子供は、罪に問われないことも多かったようですが、父の起こした大繁殖は規模が大きく街一つ消えてしまった為、私も裁判が行われることになったようです」


俺は、何だか腹が立ってきた。何だこの法。21世紀には考えられない法だな。


「アズキも処刑されるのか? 」


「裁判結果次第ですが、私の立場だと大体が奴隷落ちみたいです。被害を被った人たちへの謝罪を込めて死ぬまで働かせられるようです」


なんてひどい世の中なんだ。親の罪を子供にまで被せるなんて。


「誰がこんな法作ったんだ?妻か?娘か?ヤヨイに文句言って、法を変えさせよう」


「ヤヨイ様も未成年の罪を問わないように変更しようとしたようです。ですが、多数の反対に合い、変更案は却下されたそうです。ヤヨイ様には、本当に感謝しています。今でも、法の変更を試みておられるようですが、反対する勢力があり難しいようです。それでも、罪に問われるかもしれない私を引き取ってくださって何不自由のない生活をさせてもらってます。これ以上の無理はとても言えません」


そうか、ヤヨイも頑張ってんだな。どうしようもないのか?俺がしゃしゃり出たら変えられるか?『建国の父』なら行けるんじゃないのか?一度、ヤヨイと相談だな。


「ですので、大変うれしいのですが、トモマサ様からのプロポーズを受けることは出来ません」


「は?プロポーズ? 」


アズキの突然の発言に、俺は固まってしまった。


「はい!昨晩、犬獣人の特徴を撫でていただきました。本来ならば、その時点でプロポーズを受け入れたことになるのですが……申し訳ありません」


「な、なんですと! 」


俺の悲痛な言葉が部屋に響いた。

いつもありがとうございます

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