白き民
白髪の一族と赤髪の一族との戦争が終結して二年。
白髪の一族は南の地の街でひっそりと暮らしていた。
「ダモンさん、準備できましたか?」
「ああ、今行く!」
そこでダモンとアイシアも過ごしている。
「本当に戦争は終わったんですね」
目的地への道中、道を行き交う穏やかな民の姿を見てアイシアは微笑む。
戦争で白髪の一族は半分以上も亡くなってしまったが、それを感じさせないほど活気もある。
「そうだ。俺たちは逃げ切った」
あの日、ダモンたちは船で救出されてこの地に来た。そして大陸西側は白髪の一族のために戦争に介入して赤髪の一族の土地を西から脅かし、それに根負けした赤髪の一族は大陸西側との戦のために白髪の一族と停戦。その後、条件付きで戦争を終えた。
それは白髪の一族から奪った土地を赤髪の一族の物とする代わりに白髪の一族の者を生死問わず丁重に送ってもらうことだ。
これによって多くの戦死した仲間が凱旋を果たして家族のもとに戻り、英霊として静かに眠っている。ダモンの師であり、アイシアの父であるガルシアも、だ。
だが、その中にレティシアは居なかった。
捕虜にもなっておらず、ダモンたち捜索隊が戦場とその周辺を捜したが、痕跡は何一つ残っていなかった。
ただ一つ。
赤髪の一族の将が語った。
鬼のように強い一人の女兵士が自分の首を刎ねる瞬間に目の前から消えた、と。
「先生!」
子供たちがアイシアに駆け寄ってくる。
「おはよう。学校で待ってて良かったのに」
「だって先生に早く会いたかったんだもん!」
子供たちは嬉しそうに笑い、アイシアも微笑み返す。
アイシアはこの土地で夢であった教師になり、子供たちに勉強を教えている。
「じゃあ行ってきます、ダモンさん」
アイシアが学校へ向かうためにダモンに別れを告げる。
「先生、チューしないの?」
子供の一人がアイシアをからかう。
「しません! もう、何処で覚えてきたんですか……」
恥ずかしげに嘆息するアイシア。
彼女の左手の薬指には銀色の輝きがある。
ダモンとアイシアが名実共に結ばれた証。
「ダモン殿、領主様がお呼びです」
ダモンが呼ばれたのは街で唯一の屋敷。ここは白髪の一族の政治の場であり、その一室に座すのは領主である。
「体調はどうだ?」
「死にはしない程度には良いよ」
部屋に飾られたボロボロの軍旗。
それを背にダモンに微笑んだのは目を白い布で覆ったマルシア。
「まったく、病人に領主をやらせるなんて世も末だね」
「政治が分かるのがお前ぐらいなんだ。頼むぞ。それで用ってなんだ?」
「子供は何時になるんだい?」
「お前な~。呼び出してそれか?」
「大事なことだよ。私もいつまで持つか分からないし、母さんは俗世を離れた。アイシアにはこんな重荷は背負わせたくないしね。それに妹の子供を見たい」
「そのうちにな。早く本題に入ってくれ」
「せっかちだな。先の短い私の話に付き合ってくれても良いだろう。まあ、良いか」
マルシアは口許を引き締める。
「大陸西側と赤髪の一族の戦が激化している。その均衡を破るために私たちの国も南から侵攻することになった。それにともない私たちからも少ない手勢と軍事顧問の参戦要求が来ている」
「その軍事顧問に俺というわけか」
「いやなら断ってくれて構わない。戦の仕方は私も知ってるから」
「それこそダメだろ。この街はお前が治めないと」
「アイシアには何て伝えるんだい?」
「相談するさ」
「そうかい。せいぜい頑張りたまえ」




