白き騎士
翌朝、マルシアとアイシアは従者を引き連れて赤髪の一族の土地へと向かった。
「さあ、行くわよ」
甲冑を着たレティシアがダモンに言う。
「兜ぐらい付けたらどうだ?」
「やだ、髪が痛くなる」
「そうかよ」
ダモンは安全のため面が見える赤髪の一族式の兜を被る。鎧は動きやすい革鎧だ。そして使い慣れた朱槍を握る。
「二人が援軍を連れてくるまで堪えるぞ」
「分かってるよ」
レティシアは腰の剣を引き抜く。
「太鼓を鳴らせ! 戦の時間だ! 武器を取りなさい!」
打ち鳴らされる戦太鼓。
レティシアの声に俯いたり、蹲っていた白髪の一族の兵士たちが得物を手に顔を上げ、持ち場へと駆け出す。
「見張り、報告!」
街の壁に設置された櫓から兵士が叫ぶ。
「数は三千以上! 主力はいつも通り歩兵です!」
「弓兵、構え。放て!」
壁上の弓兵隊長の号令で矢が放たれる。
「駄目です! こちらの数が少なすぎる!?」
矢で射倒せた敵はせいぜい三十人ほど。白髪の一族の部隊のうち三割は弓兵だが、それでも二百に満たない。
敵の極東兵は猿叫をあげながら突撃してくる。矢に射たれても恐れずにだ。
「ダモン、出るわよ!」
「分かった。弓兵は斉射から変更! 自分たちの判断で敵を寄せ付けるな!」
頭上を敵味方の矢が行き交う。
レティシアは背に縛っていた向鎚を構える。
本来、人を殺す武器の金属を叩く柄の長い鍛冶師の道具。
「おおおおおお!」
だからこそ人間相手では殺傷力を増す。
レティシアは敵兵士の頭蓋骨を砕く。
金属の板を繋ぎ合わせただけの極東兵の鎧ではレティシアの攻撃を防げない。
次々と敵の骨を砕き、殴り飛ばし、骸へと変えていく。
「凄い!」
ダモンはレティシアの戦いぶりに圧倒されていた。
今も騎兵の馬の頭を下から打ち上げた。
「強い。彼女は強い!」
レティシアは前に進む。立ち止まることなどない。退くことなどない。
「……囲まれた」
レティシアが気付いたときには彼女は敵兵の槍に囲まれていた。
レティシアは向鎚を背に戻し、腰の剣を抜く。
丸く小さな楯と片手剣。
一人の少女騎士がそこに居た。
じりじりと敵兵が囲いを狭めていく。
レティシアは一度深呼吸すると正面の敵兵を見据える。
「行くわ!」
レティシアは駆ける。槍衾に突貫する。
突き出される槍。
レティシアは極限までしゃがみ、刺突よりも低く、速く。
「!?」
敵兵が驚く顔が見える。
レティシアの剣が両腕を刎ね飛ばす。
そこからは蹂躙だ。
驚きで動けない両隣の敵兵を剣と円楯で殴打する。
一度腰に剣を収めて、腰のナイフを投擲して息の根を止める。
背に縛っていたもう一つの得物。伐採用の斧で鎧ごと胴を切り裂く。
敵兵の矢が頬を掠める。落ちていた槍を握り力を込めて投げ、敵の弓兵を貫く。
「『天性の勇』」
ダモンは呟く。
何も恐れない神の使いの力。
大軍だろうと、血を流そうとも、死神に囁かれようとも戦い続ける諸刃の剣。
それでも彼女は美しい。
白き髪が血で穢れようとも赤い瞳は血よりも生き生きと輝く。
彼女こそ戦乙女。
戦士を戦場へと導く純潔の騎士
《白の伝説》の始まりだった。




