血に染まる白
雄叫びをあげて突撃してくる兵士の首を剣で跳ねる。
噴水のように噴き出した真っ赤な色素が少女の白く長い髪を紅に斑模様を描いて染めていく。
「これで最後、ね」
少女は頬の血を拭う。籠手で擦れて肌がヒリヒリするが疲労のせいでどうでもよくなっていた。
レティシアは戦場に立っていた。
戦争が起きた。
大陸西側の商人たちは大型船で海を渡ってやってくる。彼らは白髪の一族にとって良き貿易相手だ。
そんな彼らが白髪の一族の住む土地から海を渡って南東にある数々の島を手に入れたいと言ってきたのだ。そこでは大陸西側の人々が求める香辛料が大量に採れるらしく武力行使も辞さないほど島々は宝庫だった。
そこで白髪の一族もということで協力することになり、ガルシアが戦える男を二百人も率いて行ってしまった。
そのタイミングで白髪の一族の土地の東にある島国--極東が白髪の一族の土地に攻めてきたのだ。
父であるガルシアが居ない今、白髪の一族の大将になったのは齢十八になったレティシア。
そう。
白き少女たちがダモンと出会ってから四年が経っていた。
「無事か、レティシア!」
少年から青年へと成長したダモンがレティシアに駆け寄る。
「そっちこそ。さすが赤髪の一族。体力が有り余ってるじゃない」
「俺は元々兵士だ。だけど君は違う」
心配でダモンはレティシアの身体を支える。
「私だって、お父さんと同じ白髪の一族だもん。このぐらい大丈夫」
レティシアはダモンに笑ってみせる。だけど彼女の足がふらついていることにダモンは気付いている。
「港の守りは動ける人たちに任せよう。君は休むべきだ」
「まだ、戦えるよ?」
「君は十分戦っている。今は休まないと」
「……分かった」
ダモンの辛そうな瞳にレティシアは折れた。
「レティシアお姉ちゃん! ダモンさん!」
ダモンとレティシアを出迎えてくれたのは十六になったアイシア。
「ただいま、アイシア」
笑みを作るレティシアにアイシアは駆け寄る。
「大丈夫!? 怪我でもしたの!?」
「少し疲れただけ。お湯に浸かりたいな」
「お湯は沸いてるよ。ダモンさん、レティシアお姉ちゃんは私が連れていきます。ダモンさんも中でお休みください」
全身甲冑のレティシアの肩を取り、アイシアは身体に力を込めて家に入る。
ダモンも家に入る。
「苦しいか」
この家は街で一番大きな屋敷だが今は怪我人の男たちが床を埋め尽くしていた。彼らを女性陣が看ている。
包帯から滲む血の臭いにダモンの心臓がドクリと脈打つ。
「俺はここには居ない方が良いな」
ダモンは家を出て木陰で腰を下ろす。そこでゆっくりと瞳を閉じる。
「ダモンさん、ここに居たんですね!」
目を開けると安堵の表情のアイシアがダモンを見下ろしていた。
「捜しましたよ。家のベットで休んでください」
「それは怪我人に譲るよ。それで、レティシアは?」
「湯船に浸かってます。少しは休んでくれるでしょう」
アイシアはダモンの隣に座ると持っていたバスケットを漁る。
「サンドウィッチです、ダモンさん。時間があるときぐらい食べてください」
「ん? ああ、そういえば今朝から何も食べてなかったな」
ダモンは苦笑して遅めの昼食を頬張る。
「どうですか?」
「うん。美味しいよ。元気が出る」
「ふふ。良かったです」
ご飯もそうだがアイシアの笑顔にはいつも癒される。
「私たちどうなるんでしょうか?」
アイシアの笑顔が翳る。
現在、敵は街の東にある白髪の一族のキンカンの港を占拠し橋頭堡としている。ここから続々と極東兵が侵攻してくるため奪還しなければならない。だが、今でも五倍の軍勢を相手に街を防衛しているのだ。白髪の一族に余裕などなかった。ガルシアの部隊が戻ってこない限り、白髪の一族に勝ち目はない。
それでも少女の前で弱音を吐くわけにはいかなかった。
「大丈夫だ。俺が何とかする!」
ダモンは震えるアイシアの手を強く握った。




