願いの丘
「わあ! 綺麗ですね!」
アイシアが感嘆の息を漏らす。
三姉妹とダモンは街の近くの丘に来ていた。
何故なら今日は『星誕祭』。
年に一度、闇の空が数え切れないほどの星に照らされて大地から混沌を消し去る白髪の一族にとって聖なる夜。
「夜空は良いね。目の負担が少ない」
目を覆う包帯を外したマルシアが微笑む。
「星なんていつでも見れるじゃん。街の屋台で遊ぼうよ」
すでに星空観賞に飽きが来ているレティシアは屋台で買った串焼きを頬張る。
「もう、レティシアお姉ちゃんはムードとかないの?」
「諦めなよ。姉さんには花より団子が似合う」
「食い意地がはってるって言ってんの!?」
「冗談だって」
レティシアにグリグリと拳で頭を擦られるマルシアは苦笑する。
「なあ、アイシア。星誕祭って何をする祭なんだ?」
「星に豊穣を願うんですよ。その年の星の数だけ神様から恵みを与えてもらえ、それを感謝して皆で夜通し騒ぐんですよ。今年は星の川も流れてますから秋は豊作ですね」
幼い顔で微笑むアイシア。彼女は未だに十二才。それでも美しかった。これから成長して更に女性としての魅力が増すだろう。
だが、ダモンは彼女の隣に自分の姿が見えなかった。
レティシアの隣にもマルシアの隣にも居なかった。
彼が居るべきは血塗られた大地で屍を踏みつける世界だ。
それが赤髪の一族の生き方だ。
でも、彼女たちと笑って生きていける未来があるのなら--
「ダモンさん、流れ星ですよ!」
アイシアの声にダモンは我に帰る。
「私は、いつか大船で海を渡って世界一周してやるんだから!」
唐突にレティシアが星空に向かって叫ぶ。
「傍で叫ばないでくれ、姉さん」
マルシアはレティシアに眉根を寄せる。
「何よ~。良いじゃない。流れ星に願えば望みは叶うんだから。ほら、マルシアも何かお願いしなさいよ」
「私かい? うーん、そうだね。ひとまずは一日でも長生きかな?」
「何それ。もっと大きなことをお願いしなさいよ」
「私にとっては欲深い願いなんだけど」
「大丈夫よ」
レティシアは笑う。
「マルシア、あなたは私より先には死なないわ」
「ダモンさんも流れ星にお願いしましたか?」
「ああ」
「何てお願いしたんですか?」
「内緒だ」
「え~! 教えてくださいよ」
頬膨らませたアイシアはクスリと笑った。
「では、私はダモンさんの願い事が叶うことをお願いしますね」
「アイシア、ダモン、冷えてきたから家に帰るわよ!」
「ああ、分かった。行こうか、アイシア」
ダモンは手を伸ばす。
「はい」
アイシアは恥ずかしげに手を取った。
この日の思い出を三姉妹とダモンは忘れない。
だが、願いを語った丘は後に消え去ることを彼らは知らない。




