表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史還元の亡国騎士  作者: mask
南部動乱
33/68

〈奪還〉

マリーが失ったファラス最強の騎兵部隊〈百騎兵〉の過去を変える戦い。だが南部の戦いは陰謀が渦巻いていた。

 南から迫っていた入道雲が戦場を不退の長城をまるで夜明け前のように薄闇で覆っていた。

 突然の豪雨により、ファラス、ガイナス両軍の戦闘音は消え、激しい雨音が戦場を支配する。

「それじゃあ、軍議を始めるわ」

 マリーの一声に不退の長城に参戦した二十人ほどの主要な騎士たちが頷く。彼女たちが居るのはシュテルツ家の屋敷の一室だ。そこで円卓に不退の長城の構造図を広げ、皆で囲う。

「不退の長城は南北に八十キロの長大な壁が自慢の城よ。それと九つの拠点」

 マリーはユトラの港からアルレリッタ屋敷砦まで順に指差していく。

「だけど現在までに無事なのは第三砦、シュテルツ屋敷砦、第四砦だけ。そして外の豪雨のため敵の攻撃は鎮静化されている」

 マリーの言葉を肯定するかのように雷鳴が遠くで鳴り響く。

「私たちは、これを好機と捉えて不退の長城を奪還する」

 マリーが周りの騎士たちを見回すと、強い頷きが応える。

「まず奪還すべきは第三砦より南の第二砦」

「その理由は?」

 リーシアが即、問いかける。

「不退の長城は南北に長い。そのため進めば進むほど中心である、この砦から離れて部隊が伸びてしまう。そこに中入れでもされたら堪ったもんじゃないからよ」

 マリーは地図を指差していき、続ける。

「この豪雨で西の本隊が動かないと仮定すると、私たちは二正面作戦をすることになる。北と南にね。だけどさっき言ったように部隊をなるべく伸ばしたくない。そこで片方が南を攻めて、もう片方が防衛に当たるようにしたいの」

「結局、南を攻める理由は?」

 アークが返す。

「ここよ」

 マリーは、これから攻める第二砦を指した指をスーっと南に動かし、ある一点で止めた。

「私たちが目指すのはユトラの港。ここを取り戻せば海軍戦力を投入できて今後の戦に有利になるわ」

「でも遠くないか?」

 アークは当たり前の質問をする。

 不退の長城は南北八十キロ。南だけだとしても四十キロある。これを戦いながら踏破するなど困難だ。

「普通ならそうね。でも不退の長城は普通じゃない」

 マリーは円卓にもう一つ地図を広げる。いや、それは不退の長城の設計図だった。

「本当ならシュテルツ家と家臣しか知らないんだけど、今回は特別。ほら見て」

 設計図はどうやら横から見た骨組みを縮図で表しているようだった。だが、おかしな点があった。

「城の下にあるのは何だ?」

 リーシアの問いかけは周りの皆が気になったことだ。

 設計図の骨組みの下ーー地面を表す斜線の層と層の間に横に伸びだ空白があったのだ。

「これは脱出用の抜け道か?」

 城には敵襲に備えて重要人物を外に逃がすため地下道が造られることがある。

 マリーは首を振る。

「本来ならそうでしょ。でも、この城は"不退"。逃げるためじゃなく。地下から敵を襲撃するために造られたのよ。だから、この地下道は九つの拠点全てに繋がっている」

 マリーの言う通り九つの拠点の下には縦穴が設計図に描かれていた。

「じゃあ!?」

 ハッとしたアークにマリーは不敵に返す。

「見せてやろうじゃない。私たちの底力!」


「ここから行くわ」

 マリーに案内されたのはシュテルツ屋敷の草が生い茂る庭だった。

 マリーの指示を受けた二人の近衛が地面を探り、何かを見つけると力を込めて持ち上げた。

 張り、絡んでいた根がバリバリと音を発てる。そして現れたのは地下へと続く階段だった。

「ここから地下へと進む奇襲部隊と地上で敵の注意を引く陽動部隊で動くわ。奇襲部隊は少数精鋭。アークとリーシア、頼めるかしら?」

「俺たちで良いのか?」

「不退の長城の構造を知っているマリーが指揮を執ったほうが良いと思うが」

 二人の確かな意見にマリーは微笑む。

「そうかもしれない。だけど奇襲部隊は敵と偶発的な白兵戦が予想される。武術が得意じゃない私じゃ無理なの」

 それに、とマリーは付け加える。

「奇襲部隊が成功しないと私たちの策は成り立たない。だから信頼できる二人に頼みたいの」

 マリーのどこか恥ずかしげで、それでも気持ちの籠った言葉にアークとリーシアは互いを見合って、思わず笑ってしまった。

「何で笑うのよ!?」

 マリーは唇を尖らせる。

「いや、すまない。君には似合わないと思ってな」

「確かに。しおらしいのはマリーじゃない。マリーは自信に満ちてないと」

「あなたたちね~」

 マリーは呆れて首を振る。だが、すぐに苦笑した。

「そうね。私らしくなかったわ」

 マリーは両手を腰に当てた。

「死ぬんじゃないわよ!」

 マリーの声にアークとリーシアは応えた。

「では、こっちです」

 マリーが部隊を引き連れて庭を去ると、蜂蜜色長髪の少女が自分に注意を向けさせた。

「君は、確かーー」

「姉であるイリーダの従騎士、ネルシーです」

 ネルシーは微笑み、一礼した。

「地下道は私が案内します。付いてきてください」

 アークとリーシアは部隊から腕っぷしの強そうな兵士たちを選抜し、二人合わせて計二百の数に纏める。

「何も見えませんね」

 ルナがポツリと漏らす。

「地下道は狭いのか?」

「いえ、かなり広い部類に入ると思います。この城の地下道は先ほどマリ姐から聞いたと思いますが、逃げるためじゃなく地下からの戦力投入を考えられて造られましたから」

 アークの問いにランプを掲げて先に地下へと進むネルシー。アークとリーシアも同じくランプを掲げて部隊を引き連れる。

 階段は少しずつ弧を描き、アークたちは右腕を右の壁に擦り合わせるように降りた。どうやら螺旋階段らしい。だがランプの明かりだけでは地下の暗闇は照らされることがなく、ついには外の日光が螺旋階段に遮られて自分の周りだけを照らすランプと右腕に触れる壁だけが頼りになっていた。

 まるで地獄にでも誘われているのではないかと思うほど地下への階段は深く、二百名の将兵は緊張で顔や身体、言葉まで強張らせて降り続けた。

「でも意外でした」

 先頭のネルシーから言葉が少し響く。

「マリ姐が赤髪の方と仲良しなんて」

「それは私のことか?」

 リーシアが鋭く反応する。

「そうですね。マリ姐が赤髪の一族を嫌いなのは知っていますか?」

「ああ。初めて会ったときに」

 クラム砦から救助されたマリーが先に風呂から出たリーシアと脱衣所で互いの姿をハッキリと見たときだった。マリーはリーシアを拒絶した。純粋な憎しみで。

 理由はまだ教えてもらっていない。だがマリーは話してくれるだろうか? それ以上に過去を語らせることによって今以上に傷つけてしまうのではないか、と考えてしまう。リーシアは今の心地よい関係を壊したくなかったのだ。

「勘違いだけはしないでくださいね」

 ネルシーは振り返らない。だが言葉には熱を感じる。

「マリ姐は他の偏見者たちと違う。あなたたち赤髪の一族を恨む理由が有るから」

「それは重々承知だ。当事者である私がマリーは好意が持てると思っているからな」

 リーシアが微笑むと、ネルシーは、そうですか、と話題を打ち切った。しかし、どこか雰囲気が和らいだように感じた。

「着きました」

 螺旋階段を下ったのは十分にも満たなかっただろう。だが、ようやく到着したと感じた地下道はランプだけでは天も壁も分からず、乾いた冷たく、薄い空気が不気味だった。

「一度、部隊を纏めましょう。馬車が擦れ違える幅はあるので縦に四列で進みます」

 ネルシーの提案にアークとリーシアはランプを出来るだけ高く掲げて部隊を整列させた。これには十分以上はかかっただろうか? 暗闇のせいで時間の感覚さえ狂い出す。

 部隊を纏めて再びネルシーの先導で進み始める。石畳の確かな固さを感じて。

「ここから十キロの行軍です。休憩は多くとれません。雨が上がってしまっては元も子もないので」

 ネルシーの言葉に将兵たちは口を固く結ぶ。十キロの行軍は軽装の歩兵である彼らですら三、四時間は掛かる。休憩を入れればもっとだ。休憩を最低限で、その後に戦闘を行うのは骨が折れる。それも雨が止む前までにという天運つきだ。

「ご安心ください。マリ姐たちが地上で敵を引き付けて時間稼ぎをしてくれます。ですが急ぎましょう。私たちの速さに作戦は懸かっています」

 ネルシーの言葉に将兵たちは覚悟を決めて頷いた。


「本当に酷い雨ね」

「はい。薄暗く、視界も狭い」

 アークたちを見送って半刻ほど、灰色の雲から大量に降り注ぐ喧しい雨は外套をぐっしょりと重く濡らす。何度も打ち付けられては頬に垂れる雫を払うのも煩わしくなる。そんな中にでマリーとイリーダは第三砦の壁上に居た。

 豪雨と薄闇が彼女たちから視界や音、身体の熱を奪っていく。遠くを見ると、第二砦の陰を何とか視認できるほどだ。あそこではガイナス軍の守備兵が自分達を見返しているのだろうか?

「弓は使える?」

「はい。弦に油を塗っておきましたので」

 マリーはイリーダの即答に満足げに笑う。

「この雨で決着をつけなくちゃ」

「そうですね」

 イリーダは第二砦のさらに南に目を向ける。

「猶予は夕刻まででしょうか? 雲のせいで定かではありませんが」

 下で声が上がる。部隊が動いたのだ。

「先頭は破城槌と長槍部隊。壁上を弓兵部隊が手筈通り進みます」

「まさか破城槌なんて古臭い物を使う日が来るなんてね」

 大砲が使えない今、前世紀の怪物がゆっくりと車輪を転がしながら壁に挟まれた道を進む。その両隣と後ろに従うのは長槍の軽装歩兵、数は六千。彼らを挟み守るように壁上で追随するのは盾兵と長槍兵を先頭にした弓兵部隊五百ずつ計千。残りの一万ほどは別の役割がある。

「私たち騎兵の出番は歩兵の後よ。今はただ好機を待ちましょう」

 マリーは地下へと送った部隊に思いを馳せる。

「頼んだわよ、皆」


「ここを上がれば出口です」

 第二砦の真下で二十分ほどの休憩を取っていた将兵たちにネルシーは言った。

 アークたち将兵は行軍を空気の薄い地下で三時間掛けて成功させた。歩き通しだったが、部隊を先導していたネルシーのおかげで脱落者は出なかった。

 将兵たちは重くなってしまった腰を上げて身体をほぐし、息を整える。

「先に二十名だけ階段を上がりましょう。上は武器庫になっていますので、そこを制圧した後で全部隊による奇襲を開始します」

 ネルシーは先に行きます、と螺旋階段を上る。

「気分はどうだ?」

「……大丈夫です。外に出れば良くなります」

 アークの問い掛けに疲労の表情を隠してルナは微笑む。

「そうか。ならルナも付いてきてくれ」

 はい、とルナが頷くとアークは彼女の手を引いて、リーシアと少数の兵士を従えて螺旋階段を上った。上った先にはランプをぐるぐると回して、自分の居場所を示すネルシー。

「今のところ武器庫の中には敵兵は居ません。手筈通り制圧しましょう」

 ネルシーが天の板を薄く開き、再び外を確認すると板を外して外へと出た。アークたちも続く。

 数時間ぶりの外は寒く湿っていてカビ臭かった。空気は澱んでいて管理の悪い槍や弓、梯子や何かの木箱が乱雑に置かれていた。

「ここは使われなくなった武器を保管しています。私たちも滅多に利用しないので地下道の隠れ蓑としては良いんですよ」

 ネルシーは小声で微笑む。  

「俺たち、こんなところで突っ立ってて良いのか?」

 豪雨の音でも男の声がハッキリと聞こえた。

「仕方ねえだろ。ここを守れって命令されてから上からの音沙汰なしだ」

「でもよ。ファラスの奴らが攻めて来たって周りが騒いでたじゃんか」

「良いんじゃねえのか。こっちのほうが楽だし」

「違いねえ」

 二人の男が笑う。どうやら武器庫の外には守備兵が居るらしい

「どうするんだ?」

 リーシアがネルシーに小声で問い掛ける。

「倒しましょう。速やかに」

 ネルシーが壁にピッタリと背を張り付けて外を探る。そして武器庫の扉を指差した。

 リーシアが武器庫の木製の扉に耳を当てる。

「この裏に居る」

 アークたちは各々の武器を手に取り、リーシアに頷く。リーシアも頷き返し、扉に向き直る。

「行くぞ」

 リーシアは一度、深呼吸をすると足を高く上げて扉に後ろ蹴りを放った。

 扉がガイナス兵ごと吹き飛ばされる。

「何だ! お前たちは!?」

 狼狽するもう一人のガイナス兵にアークが突撃して斬り伏せた。

「敵だあああああ!?」

 一瞬の惨状を目の当たりにしていた三人目のガイナス兵。味方に報せるため駆け出す。

 しまった!? とアークが声を上げる前に矢がガイナス兵の背に吸い込まれた。

「一件落着」

 ふう、と息を漏らしたネルシーは弓の余韻を解いた。

「さあ行きましょう。目指すは北の扉。マリ姐たちと挟撃します」

 雷鳴が轟く中、アークたちはネルシーに従い、北を目指す。

 いりくんだ第二砦の中では建物の陰から飛び出しての不意遭遇戦が始まった。

「ファラス兵だと!?」

「どこから沸いて出た!?」

 巡回していたガイナス兵と遭遇しては得物で斬りつけたり、体当たりで押し倒して先手を取る。

「進めええええ!」

 アークは刃を敵に押し付けて声を上げる。彼に応えるように二百人の精鋭が続々と敵を討っていく。

「門まであと少しです!」

 ネルシーの声に混じって怒号と剣檄の音が聞こえてくる。

「ぐあッ!?」

 奇襲の成功により、統率が執れずに逃げたガイナス兵を追った味方のファラス兵が矢に射たれる。

「しっかりしてください!?」

 倒れた味方を家屋の壁の陰まで引きずるルナ。

「門の守備は整っていましたか!?」

 壁の陰から顔を出したルナは歯噛みする。

「出てこい、ファラス兵共!」

 重装歩兵と弓兵に囲まれた敵指揮官が吼える。

「目当ては、この門であろう! 潔く勝負せい!」

 敵指揮官自らルナの居る家屋に弓を引く。

「どうした?」

 ルナのもとにアークが駆けつける。

「門は頑強に固められて突破出来そうにありません」

「相手は三百、壁上の弓兵も厄介だな」

「だが二百名で突撃すれば何とかなるのではないか?」

 二人にリーシアも加わる。

「確かに。でも犠牲は少なくしたい」

「なら私が一仕事してきましょう」

 最後に加わったネルシーが近くの家屋に入り、二階の窓から出たと思うと軽々と屋根へ上がっていく。

「距離は良し、視界は最悪、風はもっと最悪」

 でも、とネルシーは矢を引き絞り、微笑む。

「私は外さない」

 ネルシーの指から離れた矢はビュンと音を立てて風を纏いながら飛んだ。そしてーー

「指揮官討ち取ったり」

 二百メートル離れた敵指揮官は胸に矢が刺さり、地に倒れた。

「さあて、まだまだいきますよ」

 ネルシーは暗闇や豪雨、不安定な強風などの天候さえも味方に付けて矢を射った。敵の弓兵は次々と討たれていく。

「重装歩兵のほうは任せました!」

「分かった!」

 ネルシーの援護を受けてアークたちは突撃する。

「迎え撃て!」

 何とか態勢を整えた重装歩兵が長槍を構える。

「放てええ!」

 壁上からも雨に混じり、無数の矢が降り注ぐ。

「くそッ!? 近づけない!」

 アークたちは再び壁に隠れることを余儀なくされる。

「せめて壁上の弓兵の注意が逸れれば」

 リーシアが呟いたとき、それに応えるように弓兵が背を向けた。

 刹那ーー

「うおおおおおぉぉおおおおおお!!!」

 鬨の声が大音声で上がり、ズンと重低音で門を揺さぶった。

「まさか外の部隊が殺られたのか!?」

 第二砦壁上の兵士たちは慌てて砦の縁から下を伺った。そして見た。

 破城槌が砦の門を破ろうとしている光景を。

「破城槌を止めろ!?」

 第二砦壁上の弓兵は破城槌を扱っているファラス兵を狙った。だが自らが肩を射たれて落下する。

「砦の敵を見逃すな!」

 ファラスの歩兵部隊に追随していた両壁のファラス弓兵が仲間を狙うガイナス兵を討ち取っていく。

 彼らを討ち取るため第二砦壁上のガイナス兵たちが両壁上でファラスの盾兵、長槍兵と交戦する。

「敵が扉を破るぞ!? 押さえるんだ!」

「何言ってる!? 目の前にファラス兵が来てるんだぞ!?」

「後ろの扉が破られたら意味がないだろ!?」

 門を守っていた重装歩兵たちは挟撃されたことで大混乱に陥って長槍の穂先が全員明後日の方向に向いていた。

「今だ!」

 アークが声を上げて部隊は再突撃した。今度は容易く間合いに入り込めて身重な重装歩兵たちを地に倒した。

「急げ! 扉が破られるぞ!」

 アークたちの襲撃に今更気づいた第二砦の守備部隊が駆けてくる。

「もう遅い」

 アークは笑うと次には顔を引き締め吼えた。

「開もおおおおん!」

 ファラス兵により閂が外された扉は勢いよく開け放たれファラス軍主力が津波のように第二砦に突撃した。

 扉の防衛に間に合わなかった守備部隊はファラス軍によって、ことごとく瓦解した。潰走したガイナス兵たちはファラス兵に討たれるか、第一砦に逃亡した。

「勝鬨だあああ!」

 第二砦奪還を果たしたファラス軍が続々と声をあげる。

「喜ぶのは早いわ。まだ作戦は続いてる」

 騎兵部隊を引き連れたマリーが周りの兵士を諌める。

「雨が弱くなってきたわ。急がないと」

 マリーは天を仰ぐ。

「別動隊は?」

「現在、第一砦の地下を抜けてユトラの港に向かっています」

 偵察の報告にマリーは安堵する。

「それなら四時間ほどでユトラの港に着くわね」

「間に合いますか、お嬢?」

 不安げなイリーダにマリーは返す。

「間に合わせるのよ」

 マリーは作戦の成功を祈って南を見た。

「決戦は明朝。次の戦いで戦況を覆してみせる!」



 夜が訪れても分厚い雲のせいで空は濃い灰色だった。

 ついに喧しかった豪雨は止んだ。だが大地は暗く、両軍とも戦をするには都合が悪かった。

 第二砦の一軒の建物にファラスの主だった騎士たちが集まる。

「無事に第二砦は奪還出来ました。感謝します」

 マリーが周りの騎士に礼を述べて始める。

「そしてアークとリーシア、二人のおかげで奪還が成った。改めて礼を言わせて。本当にありがとう」

 マリーが微笑むとアークとリーシアも笑みで応えた。

「さて、一段落はつきましたが、まだ終わっていません。イリーダ、戦況を」

 はい、と応えるとイリーダは壁に地図を広げる。

「現在、我々は第二砦を取り戻し七千の兵で守備しています」

 第二砦を指で示す。

「そして先ほどの報告で別動隊一万がユトラの港の地下に到着しました」

「一万も動かしたのか!?」

 リーシアが驚く。

「ユトラの港自体は他の砦と違ってそこまで防衛に向いてるわけじゃないの。四千も居れば充分」

「じゃあ何で?」

 訊いてきたアークにマリーは向く。

「偵察の報告でユトラの港に軍艦が泊まっていることが分かったのよ」

「港なんだから船ぐらい泊まってるだろ? 軍艦なのは厄介だけどな」

 アークの言葉にマリーは首を振る。

「確かに軍艦があるのは厄介。でも私が気になるのは別のこと」

 マリーは一呼吸をおいて周りの騎士たちを見回す。

「私たちは何と戦っているの?」

「ガイナスだろ」

 当たり前のことを訊いてくるマリーに騎士たちは訝しがる。

「ガイナスは大陸国家。そしてガイナスには海がないのよ。なのに船を造り、動かすことが出来る。たったの一年でね」

「つまり?」

 もどかしくなって先を急かす。

「ガイナスには協力者が居る。それもファラスの海を知っている協力者が」

「マリー。君はファラス南部軍がガイナスと共に戦っていると言うのか?」

 意を決して訊いてきたリーシアにマリーは強く頷いた。

「もしかしたら事態は最悪かも」


 夜が明けて空も晴れた。昨晩の豪雨が残していった跡が露になる。

「時間だ」

 ファラスの兵士が床に向けて話すと床板が剥がれ、仲間が顔を出す。

 早朝で少し眠たそうだが地下から続々とファラス兵が地上に出る。

「これよりユトラの港奪還に移る」

 ファラス騎士が各々の兵士を鼓舞する。

「者共! かかれええええ!」

 鬨の声をあげたファラス軍一万がユトラの港で戦闘を開始した。


「出てきましたか」

 単眼鏡を覗いていた黒長髪の女性ーールージェマ・コーネリアはつまらなそうに呟いた。

「お姫さん、準備は整ったぜ」

 髪の毛を後ろでひっつめた無精髭の痩せた中年男が薄ら笑いで言った。

「そうですか。ご苦労様です」

 ルージェマは振り返らずに怪しく微笑む。

「全艦に伝えてください。ユトラの港を火の海にしてほしい、と」

 ルージェマの言葉に中年男の笑みが深まる。

「了解したぜ。お姫さん」


「攻めろ!」

「押しだせえええ!!」

「突撃いいいいいいい!!!」

 ユトラの港を奇襲したファラス軍は順調にユトラの港を解放していった。だがーー

「敵の攻撃が消極的だ」

 ユトラの港のガイナス兵は戦うより逃げることを選択している。まあ一万の部隊が攻めているのだから仕方ないかもしれないが。

「船がない?」

 桟橋が見えるところまで辿り着いた兵士が言った。

 偵察の報告だと今朝まで軍艦が停泊していたはずだった。

「ん?」

 戦火の音に混じって何かが聞こえた。

 半刻後ーー

 一万のファラス軍を巻き込んでユトラの港は壊滅した。


~ブルシュ家領地のとある城~

「お嬢様、本当によろしいので?」

 長身で切れ長の瞳のメイドが主である少女に問う。

「はい。今、不退の長城にはマリー様がファラスの援軍を率いて来ているんです。その人たちならきっとーー」

 ブルシュ家領主の妹である金長髪の少女ーーララ・ブルシュは意志の籠った瞳で自らが囚われている城の外を見た。

「兄を救ってくれます。そしてルージェマお姉さまのことも」

 メイドの変装をしたララは信頼におけるメイドーークレラと共に城から脱した。




南部の戦い二話目では役者が揃いました。

シュテルツ家のマリー、コーネリア家のルージェマ、そして初登場のブルシュ家のララ。

三人の想いと策謀が交差します。

三話目も早く届けたらな、と思っています。

以上maでした。mあた、aいましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ