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歴史還元の亡国騎士  作者: mask
血と火薬に塗れし乙女
10/68

〈黄金の抗弾〉

次話、投稿しました。

 アークたちがミリタ大平原で戦っている頃。

 ガイナス軍に包囲された砦の壁上ではマスケットが火を噴いていた。 銃弾は次々と敵兵を穿っていく。

 金色長髪の少女だ。その精度はマスケットでは不可能に近いものだった。

「敵が多い!」

 砦に迫るガイナス兵を次々に討ち果たしていく。しかし、マスケットには弱点がある。それは――

「速く込めて!」

次を撃つまでに時間がかかることだ。

そこで兵二人に弾を込めさせ途絶えることがないように撃っていくが、それでも敵の数が多く追いつかない。

 焦りを見せる彼女に後ろの階段を駆け上がってきた兵士が息を切らしながら言葉を吐き出す。

「マリー様! 南門側の攻勢が厳しいもよう。お助けください!」

「……分かったわ。ここを頼むわよ」

 金色長髪の少女――マリー・シュテルツは兵士の懇願に五メートルもある壁上から着地する。その衝撃で足の骨にヒビがはいったかもしれないが、顧みず馬に跨る。そして、南門へ向け奔らせた。

 マリーが馬を奔らせる砦内は血と火薬のにおいに満ちていた。横目に見ると、包帯を巻かれ朽ちている兵士が何人も横たわっていた。彼らは傷を負った後、十分な治療も体力を補うための食料もなく、骸になってしまったのだ。マリー自身も頭に傷を負い、包帯を巻いている。だが、休むことはできない。この砦に彼女以外に将が居ないのだ。自分が倒れればすぐに砦の兵たちは浮足立ってしまう。それを理解している彼女は無理をしてでも戦わなくてはならないのだ。

 やっとのことで南門に着くと、すでに自軍の兵が壁上でガイナス兵と戦っていた。

 マリーは馬に括り付けていたライフルド・マスケット――将来的に銃の歴史を大きく変えるが、この時代には普及しなかった銃口に施条を施した銃を掴み、腰帯の鞘から錐のような細くとがったナイフを銃口の下に取り付け、腰帯のポーチから紙製薬莢とドングリ型の弾を取り出し、カルカ――弾を込めるための棒で込める。

 そして、壁上の敵に向け引き金を引いた。

 弾丸はガイナス兵の頭を穿ち、壁上から落下させた。それを見ていたファラス兵は、驚きに目を見開き、そして歓喜した。

「マリー様がいらしたぞ! 野郎ども保ちこたえろ!」

ファラス兵が鬨の声をあげ、それにガイナス兵が怯んだ。

――今だ。

マリーは石段を駆けあがる。

「貴様、ファラスの将か!」

 段上からガイナス兵が槍を突きだしてくる。マリーは足を止めず、弾を込めていない銃でそれを叩き落とす。そのままの勢いで体当たり。仰向けに倒れたところに銃に取り付けた錐状のナイフで突き刺した。

「はあぁぁああッ!!」

 苦悶に顔を歪ませながら引き抜こうとするガイナス兵に負けじとマリーは体重をかけて押し込んだ。

 ガイナス兵の手が銃から離れても、マリーはゆっくり五つ数えてから抜いた。

ナイフはガイナス兵の背まで貫いていたようで血は壁上に広がった。ナイフに付いた血は払うことで拭う。

壁に新たな雲梯が掛けられたのを認めると、マリーは銃に弾を込める。そして雄叫びをあげながら登ってきたガイナス兵の強固そうな兜を被った頭ではなく胸を狙って撃ち、落とした。すかさずファラス兵が雲梯を斧で壊す。

「マリー様、お見事です」

 斧を担いだ兵士が相好を崩す。マリーは微笑みを返すが、すぐに顔を引き締める。

「損害は?」

「ひでぇもんです。かなりやられました」

 話している間にも次々と雲梯が掛けられていく。弩兵が叫ぶ。

「マリー様、このままでは持ち堪えられません!」

 弩兵の言葉どおり、抑えきれず敵兵の何人かは壁上に来てしまっている。自軍の兵たちはそれらを階段で抑えている。彼らが抜けられてしまったら、下まで降り、門を開けられてしまう。そうしたらファラスは負けだ。

 マリーは再び弾を込め、壁上を駆ける。

「女だ、捕まえろ!」

 下卑た笑いを浮かべるガイナス兵に、マリーは吐き気がした。しかし、冷静に分析する。敵は三人、得物は手斧が二、剣が一だ。

「死にたくなければ退け」

 マリーは地を這う虫を見るような瞳で彼らを見据えたが、ガイナス兵は嘲笑した。虚勢を張っているように思っているのだろう。ならば、とマリーは石の道を蹴った。

 まずは油断していた剣の兵だ。肉薄し、ナイフで腹部を貫く。痛みに叫ぶところを拳で鼻頭らを殴る。倒れたところで銃を引き抜き、手斧兵の二人に切っ先を向ける。目の前で仲間を屠られた手斧兵は唖然としていたが、顔を真っ赤にして向かってきた。それにマリーは、片方は胸を撃ち抜き、片方は手斧を振り上げる腕を貫き、悲鳴を上げているところにブーツの蹴りを喰らわせた。

 それぞれに止めを刺したとき、轟音が鳴り響いた。音の方を振り返ると、彼女が先程まで戦っていた西門が土煙を上げていた。

「嘘……」

 そう口に出ていた。だが、頭のどこかでは思っていたことだった。ガイナス軍は五日経っても落ちないことに痺れを切らし、とうとう大砲を持ち出してきたのだ。

 鬨の声があがる。門が破壊されたことにより敵が勢いづいてしまった。気づくとガイナス兵が西門に向かっていた。ここを諦め西門から一気に蹂躙する気だ。

 階段を駆け下り、馬に跨る。

「皆、西門を助けに行くわよ――!?」

 銃声が響く。しかし、マリーは悲観しない。なぜならこの銃声は自軍の兵が諦めずに抗っている証拠だ。

 マリーの心に温かいものが満ちた。

「この砦を守り抜くぞ!」

 銃を掲げて声をあげると、兵たちも己が得物を掲げ叫んだ。銃声も彼女に応えるように鳴り響く。

――そして銃声は夜の帳が下りるまで鳴り響き続けたのだった。



「どういうことだ!なぜ砦が落とせないのだ」

 中年のガイナス将は苛立ち気に机を蹴った。それに部下は肩を縮こませる。

「門の破壊には成功しましたがファラス軍の抵抗が激しく、死傷者も増え撤退いたしました。総計で被害は二割……」

 ガイナス将は部下の報告を聞き、酒で上気していた顔を茹で蛸のように真っ赤にした。

「二割だと……? 軟弱なファラスが守るあのような砦に二割も損害が出るわけがないだろ!」

「し、しかしファラスもだいぶ疲弊しています。あ、あ、明日には落とせます」

 部下がひきつった笑いを浮かべると、ガイナス将は青筋を立て手に持っていた酒壜を部下に投げつけた。部下は服を濡らし、逃げるように本幕を出ていった。

 ガイナス将は椅子にドカッと座ると頭を抱えた。今後について考えるためだ。

 ここを攻めたのはファラス侵攻軍総大将から火薬や武器を奪取して来いと命令されたからだ。そこで自兵四千を連れて一夜で落とすはずであった。――だが先に仕掛けてきたのはファラスの兵だった。ガイナスが野営を始めてから間もないところに夜襲を仕掛けてきたのだ。五百の兵を率いていた金髪の女将をガイナス将は目に焼き付け記憶している。ガイナス将は覚悟を決めて剣を抜いたが、女将はガイナス将と対峙することなく横を奔りぬけたのだ。あのときはただ呆然としていたが、今では屈辱で腹立たしく思う。

 完璧な夜襲を受けてもガイナスが退かなかったのは兵のほとんどが無事だったのだ。だが代わりに攻城兵器がことごとく破壊されていた。ファラスの狙いは最初からガイナス兵ではなかったのだ。そのため四日間、兵器なしで強襲していた。二日目には夜襲も行った。それでも砦は落ちることなく四日目の今日にミリタ大平原に陣を構えている本隊から新たな兵器として大砲が来たのだ。砦の規模に対して大袈裟かもしれないが、お陰で砦を落とす足掛かりになったが五日も包囲、強襲していたのでミリタ平原の結果は未だに知らない。伝令がそろそろ来てもいい頃合いだが――

「失礼しますよ」

 伝令にしては無作法な入り方をしてきた兵の異質な衣装、妖美な姿にガイナス将は一瞬見惚れたが、誰かわかるとすぐに憮然とする。

「何故貴様がここに居る?」

「ただの使いっぱしりですよ」

 灰色短髪のユリマラが黒鋼の棺を背から下ろし、嫌々口を開く。

「命令です。今すぐに陣払いを済ませ本隊に合流せよ、だそうです」

 ユリマラはガイナス将の荷物を漁ると勝手に酒瓶を取り出し棺に仕舞った。ガイナス将は気づかずに反駁する。

「なぜ貴様の言葉に従わなければならない。従騎士の分際で我に命ずるな!」

「知りませんよ、私に言われても。私は伝令としてきただけですから」

 ユリマラは唇を尖らせて本幕を辞しようとする。しかし振り返り、手を振るう。その手に衝撃が奔る。

「女を背後から襲うなんて卑怯ですよ」

 ユリマラはさも楽しそうに笑う。

「上からの指示かは知らんが明日には砦は落とせる。それまでは我の部隊は動かんぞ!」

 ガイナス将は剣を持つ手に力を込めるが、刃を防ぐユリマラの腕は切り裂くことも払うこともできずに力負けしてガイナス将の剣は手許から飛ばされた。

「このことはなかったことにしますので、早めにお願いしますよ」

 ガイナス将に背を向ける。

「ああ、そうそう。一つ良いことを教えてあげます」

 ユリマラは顔だけを向け微笑む。その瞳は何かを見透かしているようだ。

「少数の部隊が向かってきています。お気をつけて」

 意味ありげな言葉を残しユリマラは闇に消えた。ガイナス将はユリマラの姿が見えなくなると、椅子を鷲掴みにして掲げ地面に叩きつけた。

「舐めるなよ、特戦めぇぇッ!!」



 夜を迎えたクラム砦は――明るかった。

 夜襲に備えてファラスは松明をいくつも門の周囲に灯した。門が破られた西側はより明るくした。そしてそれらの門を疲れ果てた兵士たちが守っていた。彼らは心身を休める暇もなく腹を満たすこともできぬまま闇の先を警戒し続ける。

「ご苦労様」

 金色長髪少女の慰労の微笑みに若い兵士は恥ずかしそうに笑う。

「お疲れ様です。西門は以上ありません」

 兵士の緊張で固い敬礼にマリーは苦笑する。

「私が見張るわ。あなたは休みなさい」

 マリーの言葉に、しかし、と兵士は渋るが、お辞儀してその場を去った。やはり疲労には勝てなかったのだろう。

「マリー様、少し――」

「明日の朝、降伏する」

 背後からの言葉を遮り、マリーは悲しい瞳でガイナスの陣を見た。声をかけた兵士は彼女が言うことが分かっていたかのように苦笑した。

「あなた様なら、そう言うと思いました」

 マリーは振り返る。〈百騎兵〉という若輩の彼女が創った今亡き部隊から付き従ってくれた男女兵士五名。

「まあ三年も付き合っていたら驚かないわよね」

 マリーは星のない曇り空を見上げる。そしてその灰色の空に思い出を映す。

 彼女の家系は大陸でも珍しい女流騎士であった。そういう理由から彼女も例外なく将来の騎士として教育された。幼き彼女には日々の訓練は厳しく感じられたが、彼女は最後まで諦めずに鍛錬を続けた。そんな時だった。

『お嬢』『マリ姐』

 マリーを呼ぶ二人の少女。武家から二人の姉妹が従者として家に来た。姉妹はマリーの黄色に近い金髪と違い、蜂蜜色であった。姉の方はマリーより四歳上で髪を短く切りそろえて凛とした空気を纏っていた。それとは対称的に妹はマリーの一つ下でヤンチャ、髪を肩まで伸ばしている。この姉妹が来てからマリーは既に従騎士として訓練を受けていた姉の教えの許、妹と一緒に訓練をした。

 その四年後、マリーは十四歳という異例の若さで騎士の位を賜り、姉妹とともに、自らが常時率いることができる近衛部隊として〈百騎兵〉を創設した。名前のとおり百の騎兵で構成された規模の小さなものだ。だが、たったの一年でその名声はファラス全土に伝わる――ファラスで王位継承に関わる勢力の内乱が起こったのだ。

 マリーたち百騎兵は先王の弟、現王叔父殿下側の勢力に属していた。百騎兵は平原を駆ければ敵陣を穿ち、山を駆ければ奇襲は絶対、とまで言われるほど戦果をファラス中に示した。だがガイナスが攻めてきたことにより変わってしまった。指揮系統がメリル王の下に統一されると、若輩で王叔父殿下の兵として戦っていたマリーは自らの意志で〈百騎兵〉を動かすことが出来なくなってしまった。しかも敵勢力であった指揮官の下に配属されてしまったのだ。それからというもの〈百騎兵〉は捨て駒のように使われる任務をこなし、戦い抜いてきた。だが戦の度に仲間は命を落としてしまった。子供のころから共に戦っていたあの姉妹も――。

「今では六騎兵か」

 自嘲気味に笑うマリー。そんな彼女を見て彼女と三年も共に戦った兵士たちは顔を見合わせ、意を決し、口を開く。

「我々が囮となってガイナスの陣に突撃します。マリー様は残っている兵を連れてお逃げください」

 兵士は強く懇願する。それに対し、マリーは目尻を吊り上げる。

「ふざけないで! 自分の命大事さに兵を捨てる訳ないでしょ」

 マリーは自分より背の高い兵士に詰め寄る。悲しき怒りで。

「あなた達は私の兵よ。勝手なことは許さないわ。私が敵陣まで行って皆の身の安全を保障してくるから安心しなさい。」

 マリーは先程までの怒りとは一変、五人の兵士一人一人の肩を叩いて快活に笑う。だが兵士たちは彼女の笑顔を見ても心は沈むばかりであった。こうなってしまっては頑として彼女は譲らない。大切な人を失うまいとして奪われた結果だ。兵士たちは背中を丸めて各々の持ち場に戻っていった。

「ごめん皆。あなた達を、百騎兵を存続させるためには最善だと思ったのよ。……二人とも、私もそっちに行くわ。怒らないでね?」

 マリーは独白する。いや、天国にいるのであろう姉妹に語った。

 背から松明の火とは違った光が射す。振り返ると砦から朝日が顔を覗かせていた。

 逝くか、と西門から出ようとしたとき、兵士が息を切らして走ってきた。

「どうしたの?」

 あまりの兵士の焦りようにマリーは目を見開く。兵士はなんとか息を整えようとしているが、それすらもどかしく感じ告げる。

「お、お急ぎ……南門にお越しください」

 兵士の様子に不安を覚えながらも馬に跨り向かう。

 南門に着くと兵士の何名かが松明を振り、騒いでいる。

「何事?」

 石段を駆け上がり騒いでいる兵士の一人に問う。

「マリー様、あれ、あれを!?」

 興奮気味の兵士から単眼鏡を借り覗く。

「んーん。ん?……ああぁッ!?」

 最初はガイナスの兵士たちが諍いで争っているのかと思った。だが喧嘩には明らかに規模が違う。そして掲げている旗は羽ばたく金鷲だった。

「嘘……本物よね。疲れて見えているわけじゃないわよね?」

 マリーは頬を抓り、再び単眼鏡を望む。それでも金鷲の旗は消えない。

「やったぁー! 皆、援軍よ。助けが来たのよ!!」

 マリーは少女にしては幼いほどはしゃぐ。周りの兵士たちも肩を抱き合ったり、拳を掲げて叫んだりしている。

砦内は歓喜に湧いた。このチャンスを潰さないためにマリーは動く。

「馬に乗れるものは付いてきなさい。出るわよ。門を開けなさい!」

 どうもmaskの長編を書いているmaです。

 歴史を戻すために抗い続ける騎士たちの物語。どうだったでしょうか?

後書きから読む派の人にはバレちゃいますが――

 新キャラの登場です!! 金髪青目です!! 金髪美少女は憧れですよね。ですがイラストがないので皆さんの想像にお任せします。

 そして新しい組織も出てきました! 覚えてください! 一悶着、二悶着あるかもしれません。

 あと異彩色の髪と瞳を持つ、あの子の秘密を少しずつ明かせていけたらなと思います。

 では――終わり!

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