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歌姫ギルと海の獣達  作者: 青樹加奈
第三章 魔女
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海賊との戦い

 遠くにマルテス海軍の船が見える。海賊を追っているのだろう。

 追われている海賊は、風を帆に一杯に受けてこちらに迫ってくる。


「ギル、君はピュールに乗って逃げろ」

「いやよ。レオンの側にいる。やっと、やっと会えたのよ。離れたくない」


 私はレオンの胸に飛び込んだ。ぎゅっと抱きしめる。どうして、離れたり出来るだろう。


「お願い、側にいさせて。足手まといになったりしないから」


 レオンが私を抱き返した。


「俺も離したくない。わかった、俺の後ろにいるんだぞ。離れるなよ」


 レオンが甲板にいる兵士達に号令する。


「皆、矢の用意だ! 海賊船を惹き付けてから矢をいかける。日頃の訓練の成果をみせろ!」

「おおー!」


 兵士達はときの声があげ、戦闘態勢に入った。

 レオンが上甲板に駆け上がる。


「船長、風向きは?」

「北西から吹いています」

「信号係、『金のミツバチ』号に東に逃げろと伝えろ」


 海賊船がグングン近づいてくる。海賊の船長が大声でわめいている。大海賊パテロだろう。その横にガリタヤが仕留め損ねたタレンギ船長がいる。船を奪われ復讐に燃えているようだ。


「ブルムランドの王子! レオニード! ここで会ったが百年目だ。いいか、道を作るな。絶対に作るな。作ったら殺すぞ! おまえもおまえの婚約者も、皆殺しにしてやる。今まで通り船で荷を運搬しろ。俺達の獲物が少なくなるだろうが!」

「国の為、大勢の民衆の為に道を作るのだ。国が豊かになれば、お前達も海賊などしないで済むぞ」


 レオンが大声で海賊を説得しようとする。


「俺達は海賊以外にはなれねえのさ。海賊には海賊の掟がある。海の上が俺達の国。俺が国王様ってもんよ」


 がはははとあたりから笑いが起る。


「道が出来たら、俺達の国の国益を損なうのさ。わかったか。道を作るのをやめろ」


 海賊達が一斉に「道を作るな」と大声を上げる。


「お前達の脅しに屈すると思うのか。私は道を作る!」

「くそー、それが答えか! 野郎共、行きがけの駄賃だ。やっちまえ!」


 海賊達が雄叫びを上げた。

 レオンは右に舵を切るよう指示した。舵輪がグルグルと回る。海賊船の目の前で船は横腹を見せた。すき有りとばかりに海賊船が突っ込んで来る。

 船縁に隠れていた兵士達が一斉に立ち上がった。矢を海賊船に向って放つ。

 海賊船に集中攻撃だ。海賊達がバタバタと倒れて行く。


「帆を狙え!」


 兵士達が、一斉に帆に向って矢を放つ。だが届かない。レオンが強弓を取った。火矢をつがえる。  

 ヒュン!

 レオンの足下に矢が。タレンギ船長だ。レオンを狙ってる。もう一本飛んで来た。レオンを射殺そうとしている。

 レオンがキリキリと弦をひく。筋肉が大きく盛り上がった。帆に狙いを定める。船は海賊船の前を通り過ぎようとしている。最後のチャンスだ。火矢が放たれた。まっすぐに海賊船に向って飛んで行く。

 帆にあたった。

 海賊船の帆から火の手が上がった。

 海賊達が火を消そうと右往左往するが、帆は無惨にも焼け落ちて行く。船足がガクンと落ちる。

 火の粉が、私達の船「ハチタカ」号にも飛んで来た。凄い煙だ。

 海戦の場合、火矢で相手の帆を焼くのは有効な戦い方だときいた。だけど、火が自分の船に燃え移る可能性もあるという。今回のように風下に自分の船がある場合は特に危ないのだそうだ。

 だけどレオンは、敢えて火矢を放った。なにか勝算があるのだろうか?

 船は旋回して風向きと平行になった。


「今だ、帆をはれ!」


 レオンが号令する。

 巻き上げられていた帆が一斉に降りて来る。バンという音と共に帆が風を孕んだ。波頭をけって急速に走り出す。みるみる、海賊船から離れていく。海賊達の悪態が小さくなって、やがて聞こえなくなった。

 最初からレオンはたたんだ帆を一気に降ろして海賊船から逃れるつもりだったのだろう。

 振り返れば、マルテス海軍が海賊に追いついていた。海賊船を囲み、海賊達に投降を呼びかけている。  

 私達は船首を回して、北へ進路をとった。マルテス海軍が旗で信号を送ってきた。


「キョウリョク カンシャ スル」


 こちらも信号係が旗を振って応えた。


「ニンム スイコウ ヲ イノル」と。


 更に海軍から信号が届く。


「カイ ハ イカガ?」


 何の事だろう?


「テ ニ イレタ」


 最初、何の事かと思ったけれど、レオンは私の病を治す貝を探しに航海に出たのだった。その貝を手に入れられたかどうか、マルテス海軍は心配してくれていたのだろう。


「オメデトウ ゴザイマス」


 マルテス海軍から祝いの旗が上がった。






 翌日、丘の上にマルテス王国の宮殿が見えて来た時、私は懐かしくて涙が出た。

 長い旅だった。

 本当に長い旅だった。

 グンダグンダはやはり死んだのだろう、レオンの心配は杞憂に終わった。湾の手前でピュール達と別れた、いつもの入江で明日会う約束をして。


「忘れないでね。エビ、二樽だよ!」


 ピュールが念を押す。別れた後も二頭はピィーっと気孔をならして見送ってくれた。

 船は首都ステンシアの港へゆっくりと入っていった。商船『金のミツバチ』号が続く。

 表向き、私は要塞にいてレオンが取って来る「病を治す特別な貝」を待っている事になっている。私によく似た娘が身代わりを務めているのだ。

 私はレオンの従卒に変装して船を降りた。金髪を帽子の中に隠し、顔にスカーフを巻いている。

 港には、エルシオン王子が出迎えてくれた。


「無事の帰還、お喜び申し上げる」

「エルシオン王子、丁寧な挨拶、いたみいる。しかし、私は病床で待っているアップフェルト嬢にこの貝を届けたいのです。早く病いを治してやりたい。申し訳ないが宮殿への帰還の挨拶は、後日改めてさせて頂く」

「もちろんですとも。すぐに要塞に参りましょう」

 レオンとエルシオン王子が馬を並べて走る後ろから、私はついて行った。『金のミツバチ』号から降りたガリタヤ、そして数人の兵士達が続く。

 要塞への一本道、向うから誰かが来る。


「殿下!」


 ディレクだ。


「殿下、よくご無事で。お化けイカが出たという噂を聞きまして案じておりました」

「出迎えご苦労。だが、お前の任務はギルの護衛だ。ギルの側には今、誰がいる」

「マルコとマリーがおります。しかし、迎えに来るようにと言付けられたのは殿下では? 先程、小姓が来てそう言いましたよ」

「何! そんな言付けを頼んだ覚えはないぞ」

「え! では?」

「ギルがあぶない!」


 レオンが馬の腹を蹴った。全速力で走り出す。レオンは身代わりの娘さんを、あくまで私として扱うつもりだ。敵を欺くなら味方からというけれど、レオンは徹底している。私達も後に続いた。

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