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歌姫ギルと海の獣達  作者: 青樹加奈
第三章 魔女
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魂戻りの術

 返事がない。どうなっているのだろう。やきもきしながら待っていると、やっとお婆人形が顔を出した。


「ピュール、心配したのよ。どうなってるの?」

「あたしは大丈夫。ちょっと待ってて」


 ピュールがグンダグンダの魂の入った私の体を背中に背負って降りてきた。


「あんたの体を持って来たよ。それとね、レオンに見つかった。話があるって。今、降りてくるよ」

「ええええ!」


 ピュールの言った通り、レオンが縄梯子で降りて来た。ランタンを持っている。上から兵士達が見ている。


「ギル、話は聞いた。今、君の体に入っているのはグンダグンダという魔女なんだって?」


 私は首を上下に動かした。良かった。私の体に魔女が入ってるって、レオンにわかって貰えて本当に良かった。


「やはりな。君にしては様子がおかしかったんだ。一頭、親しげなスフェーンもいたしな」


 レオンの顔から笑みがこぼれる。


「ピュール、ありがとう。レオンに説明してくれたのね」

「ああ、この体だと人の言葉もスフェーンの言葉もわかるんだ。部屋に入ってあんたの体を持ち上げようとしたら、テーブルにぶつかってさ。そしたらレオンが入ってきて捕まったのさ。で、事情を話した」


 ピュールは人の言葉を話している。キイルが何と言ってるのか聞いてきた。口早に説明する。


「それで、海の上でどうやって魂戻りの術をかけるの?」

「ヤドカリのハサミの上にあんたの体を乗せるのさ。人間一人くらい楽に乗るからね。でもね、問題はグンダグンダなんだよ。こいつをヤドカリの体に戻したらきっと怒って暴れると思うんだ。あの大きさだろ。こんな船ぐらい、木っ端みじんだよ。だから、出来るだけ船から遠くに離しておきたいんだ。船を壊されたら困るだろ」

「ギル、俺としてはこの船の上で魂戻りの術をかけて貰いたい。だが、船が壊されたら困る。ピュールは元に戻ったら最速で逃げると、約束してくれた。俺は君の側について居たいが、俺の体は重そうで早く泳げないだろうというんだ」

「ピュール。レオンにわかってるって言って」


 お婆人形がこっくりと頷いて、レオンに私の気持ちを伝えてくれた。


「レオン、大丈夫さ、あたしにまかせときなって。人になってる時、あんたには世話になったからな。こういっちゃあなんだけど、あたしが本気だして泳いだら誰も追いつけないんだよ。だから、安心してまかせてよ」


 グンダグンダがうめき声を上げた。


「早くしないと睡眠薬が切れる。レオン、船に戻って出来るだけ離れててくれ。あたしは、ヤドカリの体を、海の深い所の真上に持って行くよ。あそこで落としたら、這い上がれないからさ」

「わかった、頼んだぞ!」


 レオンが船に戻った。船は帆を上げてどんどん遠ざかっていく。私達も船と反対方向へ向った。お化けイカが出て来た深い海の真上に行く。グンダグンダのうめき声の回数が多くなっている。早くしないと目を覚ましてしまう。


「さ、始めるよ。あんた、元に戻ったらこの薬をスフェーンのあたしに飲ませてね。気付け薬だから。これを飲めば、目が覚めて早く泳げるんだ」


 ピュールはモイアシルにヤドカリの体をしっかりと支えさせた。ハサミの上に私の体を横たえる。私はピュールが渡してくれたリツと睡眠薬を飲んで、私の体の側に寄った。

 ピュールもリツを飲んだ。魂戻しの術をかけ始める。グンダグンダの記憶から学んだのだろう。でも、初めてでうまく行くのだろうか?


「スフェーンの体に入りし、人の御霊よ。ギルベルタの魂よ出よ!」


 私はスフェーンの体から出ていた。うまくいった。ピュール、ありがとう。


「人の体に入りし、グンダグンダの御霊よ。出よ!」


 私の体からグンダグンダの真っ黒な魂が出て来た。私は空っぽになった体にさっと入った。気を失いそうな意識の中で、ピュールが私に気付け薬をを飲ませてくれる。

 はっとして目がさめた。私は自分の体に戻っていた。

 真っ黒なグンダグンダの魂がふわふわと空中を彷徨っている。ピュールの体に近づいた。


「モイアシル、あたしの体をゆっくり落とせ!」


 ピュールがモイアシルに命じる。ヤドカリの体がゆっくり落ちて行く。ピュールの魂がお婆人形から飛び出た。スフェーンの体に入ろうとしていたグンダグンダの真っ黒な魂を押しのけて、自分の体に飛び込む。間一髪だった。

 私は気付け薬をピュールの口に注ぎ込んだ。ピュールが頭を降った。


「やった、戻った」


 私は人の体に戻っても、何故か、スフェーンの言葉がわかった。

 巨大ヤドカリの体がどんどん落ちて行く。腰まで水に浸かった。ドレスが水を吸って重い。持っていた短剣でドレスを裂いた。下着だけになってピュールに股がろうとしたが、ピュールの様子が変だ。


「ごめん、あたし、なんだか、クラクラする。キイルに運んで貰って」


 私はキイルに股がった。キイルが力強く泳ぎだす。ピュールが遅れてついてきた。


「ピュール、大丈夫?」

「ああ、だんだんはっきりしてきた」


 後ろの方で、バシャバシャと水を叩く音がする。黒い魂がお婆人形に入ったようだ。


「スフェーンめ! よくも、元に戻したな! げほっ、きさま、殺してやる。覚えてろ」


 お婆人形が悪態をついている。ごぼごぼと水の中に沈みながらわめく。が、やがて何も聞こえなくなった。

 良かった。深い海に落とせば、水の重さでグンダグンダを潰せるだろう。

 と思ってほっとしていたら、ザザザーッと海の中から巨大ヤドカリが飛び出したきた。

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