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歌姫ギルと海の獣達  作者: 青樹加奈
第二章 スフェーン
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再び、小さな入江にて

 一人で魚を捕まえるのは難しい。小魚達はするすると逃げてしまう。私は逃げ後れたり弱っていた小魚を数匹食べた。

 群れを追い出される前にたくさん食べ溜めしておいて良かった。

 重い心をひきずって、私は約束の入江にやってきた。

 レオン達はまだきていない。入江をぐるぐる回りながら小魚を探す。とにかく、食べられる時に食べて置かなければいけない。

 オールが海面を叩く音が聞こえた。海の底でくるりと反転する。青い水の向うにボートの底が見える。波がキラキラと輝いている。太陽が眩しい。目がくらみそう。

 私は水面に顔を出した。

 ピュールが手を振る。ガリタヤとマリーだ。あれ? レオンがいない。


「レオンは?」


 私はピュールに聞いた。


「来ないよ」

「え? どうして?」

「さあね。それよりさ、昨日の続きをしようぜ。昨日習ったこと、ちゃんと覚えてるんだぜ。『私の名前はギルベルタ・フォン・アップフェルトです』」


 ピュールが覚えたての文章を話した。


「凄い、凄い」

「本当はね、ピュールですって言いたいんだけど、ギルベルタ以外いっちゃだめなんだって」


 ざざざーっとボートが岸に引き上げられる。


「ギル様、文字盤ですよ」とマリー。


 私達は昨日と同じように文字盤を使って話をし、ピュールに言葉を教えた。

 日が中天に来たので、マリーがお弁当を出した。ディレクとマルコ、ガリタヤがサンドイッチをつまむ。ピュールもサンドイッチにかぶりついた。

 私は入江の中を泳いでいた。ピュールが岩の上にくる。


「なあ、行ったかい?」

「え?」

「クタイクタイだよ」

「行ったわ。でも、私には出来ない。だって、人間だもの」

「ええ! 何、言ってんだい。クタイクタイはこの時期だけなんだぜ。今を逃したら子供は作れないんだよ!」

「ごめんなさい。今年は諦めて」

「諦めてって、諦めきれないよ。たくさん、子供を産みたいのにさ」

「子供を産んで育てるだけが、人生じゃないわ」

「なんだそれ? 人生ってわかんないけど、スフェーンは狩りをして食べて子供作って育てて遊んで生きてるの。他には何もないの」

「何もないってことないわよ。きっと」

「人だって同じだろ」


 スフェーンに言われて考えてみたけど、確かに人の人生も同じような物だ。でも、でも。


「違うわ、人にはそれぞれ役割があるのよ。みんな他人の為に何かするわ」

「キイルは私の為に魚を取ってくれるけど、そんな感じかな? よくわからないや。……ねえ、人はどうやって子づくりするんだい?」

「そんなの私に聞かないで! 恥ずかしいじゃない」

「恥ずかしい? 恥ずかしいってなんだ?」

「とにかく、人は結婚してからじゃないと子づくりはしないの」

「『結婚できない』ってあれか。つまり、おまえも子づくり出来ないんだな。じゃあ、おあいこだな」


 ピュールが平然という。


「ねえ、大丈夫だと思うけど、男の人が近づいたりしてないでしょうね?」

「近づくって?」

「あなたの手を握ったり、抱きついたりとか」

「そうだな、レオンに抱き締められた。ほら、久しぶりに会った時」

「ああ!」


 あの時は何とも思わなかったけど、考えたら年頃の男女が抱き合ってたんだ。

 私とレオンは親しかったんだろうか?


「他には?」

「うーんとね。なんとかってのが、手に唇をつけた。あたし、食べられるんじゃないかと思ってさ。急いで手を引っ込めたよ」

「そんなことがあったの!」


 どうしよう。そういう場合は、優雅にきっぱりとあしらわないといけないのに。

 相手はさぞ気を悪くしただろう。

 え? どうして、そんなことがわかるんだろう?


「なあ、それよりさ、キイルはどうした? あたしの相手はキイルなんだ」

「……、それがね、バッポがキイルを突き飛ばしたの」

「なんだって! くそーーー、あたしの相手はキイルだけなんだからね。元の体に戻ったらバッポにケンカを売ってやる!」


 凄い! あの大きなバッポ相手に一歩も引かないなんて。


「とにかく、元にもどらなきゃ」

「ああ、そうだな」


 私はマリーに文字盤を使って、いつグンダグンダの所にいけるか訊いた。


「殿下が準備をなさっています。早ければ明日にでも出発できますよ」


 マリーがニコニコと笑いながら教えてくれた。

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