表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歌姫ギルと海の獣達  作者: 青樹加奈
第二章 スフェーン
24/41

クタイクタイ

「さあ、狩りに行こう。お腹がすいた」


 キイルに促されて、私は沖に向って泳いだ。

 スフェーン達と狩りをしてたらふく小魚を食べたら、なんだか妙に幸福な気分になっていた。

 人としての煩わしさがどんどん小さくなっていく。

 気持ちが高揚して大きく跳ねた。キイルもつられて飛ぶ。他のスフェーン達も続いた。何度も何度も跳ねた。

 キイルが叫んだ。


「ほら、月だ。丸い月が登った。クタイクタイが始まった。さ、行こう」


 私はキイルに付いていった。何が始まるのだろう。

 遠浅の海がずーっと遠くまで広がっている場所にきた。下は白い砂地のようだ。わずかに明るい。 

 もの凄い数のスフェーン達が集まっていた。

 息つぎに海面に出た。月の光の下、スフェーン達の背びれがあちこちに見える。皆、とさかが真っ赤だ。


「クタイクタイだ!」


 スフェーン達が叫び、狂ったように泳ぎ回る。いや、ただ、泳いでいるのではない。そのうち、二匹が連なった。あちこちで、カップルが出来ている。

 キイルが白いお腹を押し付けてくる。とさかが真っ赤だ。

 ドンとキイルがはねとばされた。バッポだ。


「こいつは、まず俺からだ。新米は後にしな」

「キイル! キイルに何をするの!」

「ほっとけよ。おまえもクタイクタイに来たんだぜ。とさかを真っ赤にしてさ。わかってるだろ。キイルとは後だ」


 私は逃げ出した。だけど、回り込まれた。バッポがぐいぐいとお腹をおしつけてくる。私は体をひねって逃げようとするが、体の大きなバッポを跳ね返せない。バッポがのしかかる。

 スフェーン達がこの場所を選んだのもよくわかる。下が砂地なので、上から押さえ付けられても体が傷つかないのだ。

 私はバッポの目を狙って前ビレで砂を巻き上げた。バッポの体がわずかに浮く。その隙に逃げ出した。尾びれでバッポの急所、とさかをしたたか打ちのめす。後は一目散に逃げた。

 気が付くと、いつもの狩り場に戻っていた。

 子供を抱えたスフェーン達が集まって来る。


「逃げ出したの? ピュールだったら逃げなかったわね」

「あの子、クタイクタイを楽しみにしてたもの。子供をたくさん産むんだって、はりきってたのに。残念ね」

「ふふふ、きっと知らなくてびっくりしたのね。とさかは真っ赤。いつでも出来るわ」


 母親達の笑いがゆらゆらと伝わってくる。

 とさかが真っ赤だからって!

 いや!

 出来ない。

 私には無理。

 絶対、出来ない。

 獣と。

 スフェーンとだなんて!

 体はピュールのだ。

 私のじゃない!

 私は人間なんだから!

 人間なんだから!

 ……怖かった、恐ろしかった!

 バッポが、オスのスフェーン達が物凄く怖かった。

 みんな狂ったようにメスを追い回していた。

 そういえば、キイルは私と一緒に寝る時、いつもお腹をすりよせてた。あれは練習してたのね。

 本当に男って油断もスキもないんだから。

 私は人として結婚の約束をしていたらしい。

 一体、誰と結婚するのだろう。

 優しい人だといいな。

 私は母親達の間で揺れながら眠った。

 夜明け、クタイクタイから帰ってきたバッポが怒鳴った。


「クタイクタイが出来ない奴は出て行け。二度と来るな!」

「そんな! 仕方ないじゃない。私はスフェーンだけど、中身は人なんだから」


 スフェーン達は私の話などきかなかった、皆で一斉に私をつつき始めた。


「いや、痛い! やめて! キイル、助けて!」


 キイルがそっぽをむいた。私の方を見ようともしない。私は仕方なく群れから離れた。

 どうしよう、これからどうやって食べて行こう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ