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歌姫ギルと海の獣達  作者: 青樹加奈
第二章 スフェーン
23/41

「結婚出来ない」

 ピュールが「『結婚できない』」と繰り返す。彼女には凍り付いた空気などないに等しいのだろう。


「そんな言葉、いつ覚えたの?」


 キィキィと耳障りな自分の声に嫌気がさす。


「女の人がきて、あたしにしきりに言うんだ。で、覚えた」

「それって、意味わかってる?」

「ううん。どういう意味?」


 私がピュールに答える前にレオンが水辺に来た。顔が強張っている。


「ギル、今のは君が言わせたのか?」


 文字盤の「いいえ」を棒でさす。

 ピュールが覚えた単語を言っただけだとレオンに伝えた。


「私は誰かと結婚するのですか?」


 と文字盤を使ってきいてみた。

 レオンが物凄く悲しそうな顔をした。


「君は……、君は覚えてないのか?」


 文字盤の「はい」を指す。


「ああ、そうだな。俺のことも忘れていたんだ。結婚の話も忘れていて当たり前だな」

「ギル様、あなた様は」

「よせ、マリー」

「ですが」


 レオンがついと、砂浜に向って歩いた。振り返って皆を手招きする。皆で何か話始めた。私には聞こえない。何を話しているんだろう?


「『結婚できない』」


 ピュールがドムドムの実を食べながら繰り返す。

 なんか、だんだん腹が立ってきた。私は急にその場にいるのがイヤになった。

 さっと、身を翻して海中に沈む。尾びれを振って素早く泳ぎ出す。目の前の小魚をくわえ、飲み込んだ。ぐるぐる泳ぎ回る。キイルが何の遊びかとついてくる。

 息つぎに海面に出るとレオンの呼ぶ声が聞こえた。私は頭のてっぺんからピーッと返事をして岩場に戻った。小魚を食べたからか、泳いだからか、気分は良くなっていた。


「ギル、急にいなくならないでくれ。頼む」


 レオンが眉間にしわを寄せ怖い顔をしている。有無を言わせない迫力に気圧されて、私は頭を縦に振っていた。

 それから、私達はピュールに言葉を教えた。ピュールは意外に賢く物覚えも速い。人間の習慣を教えれば意味もわかるようになるだろう。

 日が西に傾き始めた。影の長さを見てレオンがほぅっとため息をついた。


「今日はここまでにしよう。グンダグンダの元へ行く方法はこちらで考える」


 私は首を縦に振る。明日会う約束をして砂浜を離れた。

 要塞の崖下を過ぎて人々の網が見え始めるあたりまで、私とキイルはボートについていった。そこで引き返そうとすると、レオンが何故ここから先ついて来ないのかと言う。

 私はボートの上の文字盤を使って、人が漁をしていて、漁の邪魔をすると人が怒るからと伝えた。

 揺れる文字盤を棒で指すのはとても難しい。


「スフェーンに人が漁をしているとわかっているとは思わなかった」とレオンが珍しそうに言う。

「網にひっかかった経験があるのではないでしょうか?」とガリタヤ。


 ガリタヤが船縁から私に向って話しかけてきた。


「ギルベルタさん、緊急の場合の連絡方法ですが、タントルーフを使おうと思います。長く三回吹きますから、その時はこの辺りまで来て下さいね」


 ガリタヤが三度、タントルーフを吹いてみせる。

 私は首を縦に振って了解したと伝えた。そして、私も三度ピーッと気孔を鳴らして答えた。


「あなたの合図はそれですね。その音が聞こえたらあなたが来たということですね」


 私は首を縦にふった。

 ボートが次第に遠ざかって行く。みんながこっちを見て手を振る。レオンが辛そうな顔をして立っている。

 どうしてレオンはあんな辛そうな顔で私を見るのだろう?

 私は結婚しようとしていたのだろうか?

 誰と?

 わからない事だらけだった。

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