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歌姫ギルと海の獣達  作者: 青樹加奈
第二章 スフェーン
22/41

文字盤

「本当に大変でした。あなたはすぐにドレスを脱ぎたがって」


 ガリタヤが唇に薄い微笑を浮かべて続けた。


「水兵の服を持って来ていて本当に良かったです」


 私はガリタヤの事も何もかも忘れていたけれど、彼らが私の為に苦労してくれたのはよくわかった。


「ねえ、ピュール。ありがとうって言える? ガリタヤにありがとうって言ってほしいの」

「ああ、言えるよ。この間、覚えたんだ。『ありがとう、ガリタヤ』」


 ガリタヤが泣きそうな顔をして私とピュールを交互に見た。


「俺からも礼を言う」

「殿下! ギルベルタさんが見つかって本当に良かったです!」


 ガリタヤの目からポロポロと涙がこぼれる。

 私はガリタヤを慰めたかった。そこで、さっと海に潜って思いっきり跳ねて見せた。二人がびっくりした顔をする。

 さらに二度飛んでみせた。最後は空中で一回転。


「ギルベルタさん、凄い!」


 ガリタヤがごしごしと涙を拭いて拍手する。タントルーフを取り出して吹き始めた。

 思い出した。この曲。知ってるわ。この後、ラララーときて、高音のさびの部分になる。私は曲に合わせて飛んだ。

 ガリタヤが尚も曲を吹き続ける。音楽に合わせて飛ぶのって楽しい。

 でもでも、私、歌ってた。歌ってたんだわ。曲に合わせて飛ぶより、歌いたい。

 今はキイキイとしか歌えないんだ。ああ、人に戻りたい。人に戻ってこの曲を歌いたい。


「殿下!」


 マリー達が戻って来た。砂浜にボートを押上げ、大きな板を持ってやって来る。文字盤だ。ディレクが波打ち際の岩の上に文字盤を立て掛けた。軽く長い棒を私にくわえさせる。


「ギル、準備はいいか?」


 私は「はい」の文字を棒で指そうとしたが、波で揺れてうまくいかない。平らな岩に乗って体を固定してから棒を使った。長い間は無理だけど、少しなら水から出ても平気。

 私は文字盤の文字を次々に指して、レオンにグンダグンダの元へいけば、「魂戻りの術」をかけて貰えると話した。そして、海賊がレオンを狙っていると。


「海賊は私を誘拐して、レオンを誘い出すつもりだったようです。でも、私がおかしくなってレオンがマルテスに来たので結果的には良かったと言ってました。ブルムランドにりっぱな道を作られると困るんだそうです」


 皆、一様に驚いた。レオンがため息まじりに言う。


「道が出来たら船荷が減ると思っているのだろう。馬鹿な海賊どもだ。ブルムランドの国力が上がれば、海賊などしなくても食べていけるようになるというのに」


 皆はレオンを中心に海賊をどうしたらいいか、話し合い始めた。

 私は海に戻って、乾きかけた体を水につける。冷たい水が気持ちいい。


「しかし、ブルムランドの軍船は殿下が乗って来た一隻だけです。海賊達が複数の帆船で襲ってきたら危険です」


 ディレクが難しい顔をして言う。




「ねえ、みんな、何の話をしてるんだい?」


 ピュールが呑気にきいてきた。いつ取って来たのか手にはドムドムの実を持っている。


「海賊に襲われたらどうしようって」

「ふーん、逃げればいいじゃん」


 ピュールは手に持ったドムドムをシャリシャリと食べている。


「例えば、鮫がスフェーンみたいに大勢で罠を張ったら恐ろしいでしょ」

「鮫は追いかけて食べるだけさ、仲間と狩りをしたりしない。あいつら、匂いには敏感だけど、それだけなんだ。頭、悪いんだよね。それよりさ、言葉、教えてよ。あんたとマリーがいれば教えられるだろ。あたし、短い言葉ならいえるよ。『おなかがすいた』『いたい』『ありがとう』『いや』『ドレス』『あつい』『素敵』『だめ』『結婚できない』」


 みんなが振り向いた。

 マリーが口に手をあてている。騎士達はぎょっとした顔をしている。そしてレオンは。

 太陽は相変わらず輝いていて、波は私の体をゆらゆらさせていて、大自然の総ては優しく心地良いのに。

 空気が息も出来ない程凍り付いた。

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