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歌姫ギルと海の獣達  作者: 青樹加奈
第二章 スフェーン
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小さな入江にて

 キイルは崖下を回った先にある、岩の割れ目に案内した。割れ目を抜けた先に岩場に囲まれた小さな砂浜がある。波の静かな入江だ。

 ボートからレオンとピュール、それに怖そうな顔をした大男。この間、私を捕まえろといった少年、若い騎士。あと、女の人が砂浜に上がった。砂浜と私達の間にはかなり距離がある。私は入江の中をぐるっと泳いで、小さな潮溜まりを見つけた。ここなら、間近で話せるだろう。ピュールにこっちまで来てと合図を送る。

 ピュールがレオンの腕を引っ張って連れて来てくれた。他の人達もくる。


「ギル、君は俺達の言葉がわかるが話せない。だが、『はい』と『いいえ』は頭を振って教えられる。ここまでいいか?」


 私は頭を縦にふった。


「よし、まず、君に聞きたい? どうして逃げたんだ?」

「殿下、そのような複雑な質問は『はい』と『いいえ』では答えられません」と少年が言う。

 ピュールがじれったそうに私に話しかけてきた。


「ねえ、なんて言ってるんだ」

「私がどうして逃げたか聞いてるの」

「あのさ、あんたが人だった時の事を忘れてるって、この人達わかってるのかな?」

「ああ、そうか。えーっとどうやって説明したらいいんだろう」

「あたしがやってみるよ」


 ピュールがレオンの腕を引っ張った。体をかがめて自分の頭を私にぶつける動作をする。身振り手振りで必死になって説明する。

 怪訝そうに見ていたレオンが漸く「ギルが崖から落ちて君にぶつかったんだな?」と言った。

 私は嬉しくて「そうそう」といいながら頭を縦に振った。


「ピュール、通じたわよ。崖から落ちて私とあなたがぶつかった所まではわかってくれたわ」

「へへへ、やったね。じゃあ、次だ」


 ピュールが、私の頭の周りで両手をふわふわさせる。それじゃあ、頭から煙が出ているみたいじゃない。

 それでも伝わったのだろう、「忘れた。人だった時の事を忘れたんですね?」と少年が言った。

 私は頭を縦に振った。まわりからほーっとため息が出る。


「ギルベルタ様は、崖から落ちてスフェーンとぶつかり、魂が入れ替わったショックで人の記憶を無くされたんですね。それで逃げた理由がわかりましたわ。殿下から逃げるなんて、ありえないですから」


 どうして、私がレオンから逃げるのが、ありえないのだろう?


「どうやったら、人に戻れるんだ? 人に戻れば、記憶を取り戻せるのだろうか?」


 私は頭を縦に振った。

 憂い顔をしていたレオンがはっとして私を見る。


「ギル、君は知っているのか? 元に戻れば記憶が戻ると」


 私はもう一度、頭を縦に振る。

 レオンの顔がぱーっと明るくなった。


「そうか、君も元に戻る方法を探したんだな?」


 私は必死に頭を縦に振る。


「ははは、やっぱりギルだ。スフェーンになっても行動力は変わらないな」


 レオンが嬉しそうに言う。私はちょっと照れくさかった。


「ギルベルタさん、僕達の事も忘れてるんでしょうね。僕、ガリタヤですよ。あなたの歌の伴奏をしています」


 他の三人も次々に自己紹介していく。私はピュールに説明してやった。


「マリーはわかるよ。ね、『マリー』」


 マリーがにっこりとピュールに笑いかける。


「殿下、ギル様に文字盤を見せてはいかがでしょう?」とマリー。

「文字盤?」

「私達侍女は、そのう、時々、遊ぶのです。文字盤の上に指ぬきを置いて、皆で先祖の霊を招いて頼むのですわ。だれそれさんのひいおばあさん、私はいつ結婚できますか? とか、相手はどんな人ですか? とか。指ぬきにはみんなの指がかかってますから、誰かが文字盤の上の指ぬきを無意識に押しているのです。わかっていても、まるで本当にご先祖様が来たみたいになって、蝋燭の下でやると効果満点で」

「早い話、その文字盤でギル様と話そうというのだな」


 大男のディレクが髭をひねりながらマリーの話を遮った。


「そうです、余計な話をしてしまいました」マリーが頬を染める。


 早速、文字盤を取って来る話になって、マリーとマルコ、ディレクがボートで戻って行った。

 レオン達はピュールの魂の入った私の体を人目から隠す為に、崖の上にある要塞に逗留しているのだという。

 でも、海賊達は知っていた。どういう事だろう。噂になっているのだろうか? それとも要塞に海賊の手下が入り込んでいるのだろうか?


「君は崖から落ちて、その時の傷が癒えていないと皆に話している。スフェーンの魂の入ったギルを我々はベルタと呼んで区別している」


 レオンが手を伸ばして私のとさかを撫でた。気持ちいいなあ。この人に撫でられるのって、とっても素敵。


「ギルベルタさん、要塞の崖からあなたが落ちた後、大変だったんですよ」


 ガリタヤが、何が起きたか話してくれた。

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