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歌姫ギルと海の獣達  作者: 青樹加奈
第二章 スフェーン
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レオン

 私は慌てて潜ろうとした。だけど、網が絡まって思うように動けない。


「いや、離して! ピュール、助けて!」

「何するんだよ!」


 ピュールが網を持った人間を激しく叩いている。あ、ピュールも捕まった。一体どこにいたのだろう。誰もいないと思ったのに。そういえば、乗っているのは二人だけなのに、随分ボートが沈んでいた。まるで、重たい荷物を乗せているように。ボートの底に隠れていたんだわ。


「ギル、暴れないでくれ、君を傷つけるつもりはない。頼む、逃げないでくれ」


 あの人だ。ボートの縁にあの人がいる。あの人が私に一生懸命話しかけてくる。私は暴れるのをやめた。


「ピュール、大丈夫みたい。あなたも暴れないで」


 ピュールのわめき声がやんだ。


「ギル、わかるか、俺だ。レオンだ」


 エメラルドの瞳をした黒髪の若者。レオンっていうんだわ。


「ギル、逃げないでくれ。頼む」


 私は頭を縦に振った。


「話があるんだ。一緒に来てくれるか?」


 私は悩んだ。だけど、ピュールをつれてグンダグンダの元に行くには船がいる。人の協力が必要だ。この人はきっと助けてくれるだろう。

 私は頭を縦に振った。さらに網が緩んだ。


「網をほどくが、逃げずにボートについてきてくれるか?」


 私はもう一度、頭を縦に振った。

 網がほどけた。私は自由になって思わず体をふった。海の中をくるんと泳ぐ。体に食い込んだ網の感触を振り払う。と、あの人が海に飛び込んできた。私は嬉しくてあの人の周りをくるりんと泳いでみた。あの人の手が背びれにかかる。私はそのまま、泳いだ。あの人が私にまたがる。私は思い切って海面から跳ねた。あの人が大声で笑う。楽しそうだ。私、この人が好き。大好き。レオンって呼んでいいだろうか? ええい、呼んじゃえ!


「レオン!」


 あの人にはキィキィとしか聞こえまい。


「ギル!」


 え? わかったの? ううん、違う。偶然だわ。でも、名前を呼ばれるのって、素敵!


「レオニード殿下、大丈夫ですか?」


 誰かが心配そうに叫んでいる。


「ああ、大丈夫だ。心配いらない」


 レオンが私の体を軽く叩く。


「ギル、戻ろう。また、俺を乗せてくれるか?」


 私は頭を縦に振った。


「ははは、いい子だ」


 私はレオンを乗せたまま、ボートに戻った。


「ビシャ、あんた、あたしを乗せて泳いだ時より、ずっとうまく泳いでいるじゃないか!」


 ピュールが頓狂な声を上げる。


「えへへ、そう? 嬉しいな。泳ぐのうまくなったみたい」


 私はボートに付いていった。

 ふとみると、キイルが寄って来る。


「ビシャ、駄目だよ、ここからは」

「どうして?」

「こっから先は人間達が網をかける場所なんだ。網にひっかかるとまずいよ。人間達も魚を食べるんだ。だから、僕らが網をやぶったりして、魚を捕まえるのを邪魔すると怒るんだ。僕らも鮫に狩りの邪魔をされると怒るだろう?」

「でも、私、あのボートについていかなきゃ。あ、じゃあ、ちょっと待ってて」


 私は遠ざかって行くボートに向って大声を出した。


「ピュール、ここから先は行けないわ。行ってはいけないってキイルが言ってる」


 ピュールが立ち上がった。レオンの肩を叩いて、私達の方を向かせる。ボートが戻ってきた。


「ねえ、キイル、この辺で私達がいける場所で、あのボートが上陸出来そうな場所ある?」

「うん、あるよ」


 私はボートから垂れ下がっている綱を引っ張った。レオンが怪訝そうに船縁から身を乗り出す。


「ギル、ついてきて欲しいのか?」


 私は頭を縦に振った。

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