グンダグンダ
私達はモイアシルの間を進んで行った。一体、どういう仕掛けになっているのだろう。この奇妙な生物を自在に操れるなんて、グンダグンダはどんな生き物なんだろう。
珊瑚礁の真ん中、小さな島があった。岩と砂だけの島だ。引き潮になったら、もう少し大きな島になるかもしれない。
その島の下、モイアシルの根元あたりに洞窟があった。恐らくグンダグンダの住まいだろう。私達は、ゆっくり洞窟の中に入った。洞窟は上へと続いている。灯りが見えた。灯りを目指して泳ぐ。
私達は洞窟の中にある水たまりに顔を出していた。
洞窟の中は、どこから明りを入れているのか、結構明るい。手前には水たまりがあるけれど、奥は乾いている。古い木のテーブル、椅子、木箱、流しやガラスの瓶、実験室みたいだ。
テーブルの前で灰色の長着を着たお婆さんが一人椅子に腰かけていた。立ち上がって音もなく私達の方に来る。
「人とスフェーンの心が入れ替わったって?」
しなびた皮膚に目ばかり大きいお婆さんが黄色い歯を見せながらしゃがれ声で聞く。
「あの、あなたが、グンダグンダさんですか?」
私は恐る恐る聞いてみた。なんとなく怖い。
「ああ、そうだよ。お前達は?」
「僕はキイル。こっちはビシャ。でもビシャっていうのはスフェーンになってからつけた名前で、人間だった時は『ギルベルタ』って名前だったみたいです。ビシャは自分の名前も何もかも覚えてなくて」
「覚えてない? 覚えてないのにどうして名前がわかったんだい」
「あ、あの。この体はピュールのなんです」
「そうなんです。それで、入れ替わったピュールは人の所に行ったんです」
グンダグンダがいらいらと頭を振った。
「最初から話してご覧。ピュールっていうのは誰だね?」
私とキイルは、私がピュールと入れ替わってからの話をした。
「ふーん、なるほどね。あんた達はぶつかった時、リツを食べてたんじゃないかね」
「リツ? さあ、私、ピュールと入れ替わる前何をしてたか、全然思い出せないんです」
「ふーむ、そうか、人の方が頭の中が複雑だからね。スフェーンの脳みそに記憶が収まらなかったんだろう」
「あの、リツというのは?」とキイル。
「ドムドムの種の中にね、まれに茶色の透明な粒が出来るんだ。これをリツと言うんだよ。こいつが毒でね。たくさん食べると、体から魂が離れ安くなるのさ。起きてる間はいいけどね。眠るとね、てきめん魂が体から出て行ってしまうのさ。そしてね、ながーい間、体に魂が戻らないと死んでしまうんだよ。くくくく」
グンダグンダが大きな眼をぎょろぎょろとさせて、にたりと笑った。
私はぞっとした。
「くくくくく。そんなに怖がらなくて大丈夫だよ。ちょいとからかったのさ。眠ってすぐに魂がでる為には、このコップ一杯のリツを飲まなきゃいけないからね」
私はほっとした。それとも、コップ一杯のリツを飲んだのだろうか? 思い出せない。
「そういえば、ピュールはドムドムの実を食べてた」
「スフェーンはドムドムを丸呑みするからね。種は丸呑みしても大丈夫なんだよ。リツは種の硬い殻の中だから、食べたって種はそのままフンになって出るだけさ。恐らく、ぶつかった衝撃で種が割れたんじゃないかね。スフェーンのあごなら簡単に割れるから。ぶつかって気絶している所にリツが体内に入った。で、衝撃で魂が飛び出した。あんたは、恐らく崖を落ちる途中で気絶、スフェーンは落ちて来たおまえの体に、おまえは空になったスフェーンの体に飛び込んだんだろうよ。普通、ぶつかったぐらいじゃ中身が入れ替わったりせんよ。おまえ達がリツを飲んでいたのが、不幸な偶然だったね」
「あの、そしたら、私達、元の体に戻れないんでしょうか?」
「いや、大丈夫だよ。あんたの体をここに連れて来なさい。そしたら、魂戻り(たまもどり)の術をかけてあげよう」
「ありがとうございます!」
「何、礼はいいよ。面白い話を聞かせてもらったからね。ああ、そうだ。ちょっと待って」
グンダグンダは、床においてある木箱を開けた。何か探している。
「おやおや、困ったね。魂戻り(たまもどり)の術は掛けられないよ」
「えー、どうして!」
「ここにリツを入れて置いたと思ったんだけどね。ないんだよ。そうだ、ついでにドムドムの実をたくさん取ってきてくれるかい?」
私達は取って来ると約束して、グンダグンダの住処を後にした。