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歌姫ギルと海の獣達  作者: 青樹加奈
第二章 スフェーン
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南へ

「キイル、逃げて。捕まえるって言ってる」


 私達は思いっきり泳いだ。あっという間に、岸から離れる。追って来れないように深く潜ってから沖に出た。


「ねえ、キイル、このままグンダグンダに会いに行かない。ピュールの面倒を見ている人達はいい人達かもしれないけど、私を捕まえようとしたわ。もしかしたら、悪い人達かもしれない。早く元に戻らないとピュールが危険かもしれない」


 キイルがふっと波間に背を出して息つぎをする。


「ビシャがピュールと入れ替わったってわかったんじゃない?」

「私があの体の中身だから捕まえようとしたっていうの?」

「うん、あの人達、悪い人に見えなかったよ」


 私は海面から頭をだして陸地を振り返った。小さくなった崖が白っぽく見えている。ボートは見えなかった。


「ボートに乗ってた人、『そのスフェーンがギルベルタさんです』って言ってたわ。私の名前はギルベルタっていうみたい。あの人は縮めてギルって呼んでたのね」


 キイルが体を丸くしてぐるんと回る。悩んでいる時のキイルのくせだ。

 青く透明な海に小さな泡が煌めいた。


「あの人達なら、元に戻る方法がわかったかもしれない」

「でも、わからないかもしれないわ。とにかく、グンダグンダに会いに行きましょう」


 私達は出発した。南を目指して泳いで行く。一日中、ずーっと南に向って泳いでいった。

 スフェーンの体は食べ溜めが出来るらしい。二、三日食べなくても大丈夫みたいだ。

 それでも、目の前を美味しそうな小魚がよぎると食べたくなってしまう。


「だめだよ。ビシャ。小魚を追いかけると方向がわからなくなるよ」


 キイルは言うけど、スフェーンの体は不思議と東西南北がわかるようだ。

 それと、もう一つ。

 スフェーンは目じゃなくて何か別の方法で見ているような気がする。

 目を閉じてもはっきりと周囲の様子がわかるのだ。でも、尾びれの方向はわからない。わかるのは泳いで行く方向だけだ。

 不思議な体だ。

 その夜、深い海の底から小魚の群れが登ってくる所に出くわした。私とキイルは大喜びで食べた。満腹したので、夜の海をのんびりと泳ぐ。海が凪いでいる。

 海面にでて夜空を見上げた。

 星が、銀色の星が、真っ暗な空を埋めている。白い雲が星々の前を横切っていく。

 空気中の風景は目で見ているようだ。

 随分遠くまできたのだと思う。南へ南へと泳いで行く。

 グンダグンダがいる珊瑚礁はどこにあるのだろう。

 夜が明けてきた。ここにはもう、島影も何もない。私はキイルに言った。


「ねえ、南って言っても広いんじゃない。本当にこっちの方で大丈夫なの?」

「南に行けば、わかるって言ってたよ。水の匂いが変わるんだって」


 やがて、下に海の底が見えて来た。目に見えて浅くなる。岩だと思っていたら、巻貝のような珊瑚がたくさん生えていた。見渡す限り、この珊瑚の群れだ。確かに水の匂いが変わってきた。

 グンダグンダのいる珊瑚礁に近づているようだ。

 匂いがまた変わった。臭い。


「ねえ、なんだか、腐ったような匂いがしない」

「うん、後少しじゃないかな? 腐った匂いがするって言ってたから。モイアシルの匂いなんだって」

「モイアシルって?」

「あれじゃないかな」


 緑の藻のようなものがたくさん見えてきた。これがモイアシルなんだろうか。巨大な壁となって私達の前に立ち塞がっている。なんだか嫌な感じだ。グンダグンダは本当に物知りの年寄りなんだろうか? 悪い生き物じゃないんだろうか?

「さあ、着いたよ。えーっとね、緑の藻みたいなのにさわっちゃだめって言ってた。これがモイアシルなんだと思う。毒のとげを持ってて、刺されると痛いって」

 うわあ、気持ち悪い。その上、臭い。これが臭い匂いを出してたんだ。


「ここからグンダグンダに向って叫ぶんだって。会いたいってね。そしたらモイアシルをどけてくれるって」


 キイルが大きな声で呼んだ。


「グンダグンダ様、お尋ねしたい事があります。道を開けて下さい」


 返事がない。おかしいなと思って、もう一度呼んでみたが、やはり返事がない。


「ねえ、ここから呼んでも聞こえないんじゃない。海面から呼ぶんじゃないかしら」


 海面に出て同じように呼んでみる。さっきまで良い天気だったのに、今は雲で覆われている。なんだか不吉だ。声が返ってきた。


「スフェーンが何の用だい?」

「人とスフェーンの心が入れ替わったんです。元に戻る方法を教えて下さい」


 沈黙が続く。どうしたんだろう。会ってくれないのではと不安に思っていたら、目の前のモイアシルがさーっと二つに割れた。


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