表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歌姫ギルと海の獣達  作者: 青樹加奈
第二章 スフェーン
14/41

ピュール

 私の願いが届いたのか、やっとピュールに会えた。

 その日、崖の下に行くとピュールがいた。崖下に手漕ぎボートが一艘、停まっている。数人の人影が見えた。

 私は息を飲んだ。

 あの人だ!

 レオニード殿下と呼ばれていた若者。

 ピュールと一緒だ。

 ピュールが私に気が付いた。必死に手を振っている。

 私もピーッと気孔を鳴らして合図する。さっと潜って、ボートの側に浮き上がった。


「ピュール!」

「ビシャ! 会いたかった!」

「私も!」


 ピュールが泣き出した。よほど、会いたかったのだろう。


「もう、いやだ。人間なんて。こんなもの脱ぎたい」

「だめよ。ドレスを脱いだら」

「いや!」


 ピュールがドレスを引裂いて、海に飛び込んた。バシャッと飛沫が飛ぶ。

 私に抱きついて、わあわあと泣き始めた。

 野生のピュールが一人でよほど苦労したのだろう。

 キイルが寄ってきて、キュイキュイと鳴く。私も一緒になってキュイキュイと鳴いてピュールを慰める。


「あのね、元に戻れる方法がわかるかもしれないの」

「本当?」


 ピュールが泣き止んだ。


「グンダグンダって生き物が知ってるかもしれないんですって。キイルが調べてくれたの。これから行って聞いて来るから。だから、陸に戻って、ね、お願い」

「うん、わかったよ。元に戻れるなら、少しぐらい我慢する」


 目が真っ赤だ。なんだか、痩せたように見える。


「ピュール、言葉を覚えて! あなたなら出来るわ」

「あたし、少し覚えたよ。『おなかすいた』って叫ぶと食べ物がでてくるんだ!」


 元気が戻ったようだ。強気の発言がピュールらしい。


「よかった。じゃあ、食べ物は貰えてるのね」

「ああ、お腹いっぱい食べてるよ。ドレスを着なければ、もっとずっといいんだけどな。そうだ、人って完全に眠るんだね。あたし、怖くてさ、どっか起きていようとするんだけど、気を失っちゃうんだ」

「起きてちゃだめよ。ちゃんと眠らないと」


 ピュールが痩せたように感じたのは、睡眠不足だったからか。

 その時、水飛沫があがった。誰かが飛び込んできた。あの人だ。私達の側に来た。


「ギル、行かないでくれ。君の気のすむようにしていいから。ドレスが嫌なら、楽な服でいい。君が嫌がる事はしない。だから、頼む、どこにも行かないでくれ」


 私の名前はギルっていうのかしら? この人、私の体を抱き締めてる。ピュールがどこかに行ってしまうんじゃないかって心配してるんだわ。

 私とキイルとピュールはいつのまにか、ボートから離れてしまっていた。崖にぶつかった波が沖に向って強く流れているのだろう。ピュールが離れて行くのをみて、あの人はいてもたってもいられなくなったのだわ。

 ピュールが手振り身振りで、私と自分を交互に指差す。


「このスフェーンがどうしたんだ? あ! おまえか? ギルを助けてくれたのは。ギルがスフェーンに乗って現れたと聞いたが」


 私は頭を上下に振った。

 あの人がびっくりして大きく目を見開く。なんてきれいな緑の瞳だろう。


「おまえ、俺の言葉がわかるのか?」


 もう一度、私は頭を上下に振った。ピュールが言った。


「あたし、戻るよ。この人、あたしをとても大事にしてくれるんだ。言葉がわからなくても、それはわかるよ。この人が私を外に出してくれたんだ。あいつらが邪魔してなかなか来れなかったんだよ。これからは毎日、ここに来られると思う」

「無理しなくていいわ。あなたの乗ったボートがこのあたりにいたら、寄ってみるから」


 ピュールがボートの方に泳いで行く。あの人も行ってしまう。

 その時、何か聞こえた。波の音、風の音とも違う。

 ああ、あれは音楽だ。

 ボートから音楽が流れてくる。

 私は思わず、キイキイと音楽に合わせて歌っていた。誰かが叫んだ。


「殿下! そのスフェーンがギルベルタさんです。捕まえて!」


 えっ! どうして、捕まえられなきゃいけないの。

 私は思わず身を翻していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ