スフェーン達 1
「ビシャ、行こう。ピュールは大丈夫だよ。食べ物にありつけるから。それより、僕らも何か食べに行こう」
私達は沖に出た。今日、私は小魚達を追いかける役だ。ところが、小魚達が逃げまわって、ちっとも追い込めない。
随分追いかけたのに、私が食べたのは五匹ほどだった。
「こんな時もあるさ。少し休んだら、次の狩りに行こう」
私はキイルに案内されて、次の狩り場へ向った。
「おい、おまえ。おまえピュールじゃないんだって?」
体の大きなスフェーンがいきなり私に向って怒鳴った。頭の上のとさかが真っ赤だ。
「あ、あの、はい、そうです。ピュールじゃありません」
「おまえ、狩りの仕方知らないだろ。さっき魚が取れなかったのはおまえのせいだぞ」
大きなスフェーンが突進してきた。
「おまえがいると迷惑だ。あっちにいけ。ピュールに戻ったら仲間にいれてやる」
「ごめんなさい。勝手がよくわからないんです。仲間はずれにしないで。お願いです」
他のスフェーン達が集まってきた。成り行きを見守っている。
「だめだ。あっちへ行け。おまえのせいで、群れ全体が飢えるわけにはいかないんだ」
「でも、でも、一人じゃどうやって餌をとったらいいのかわからない」
「そんなこと知るか!」
「バッポ、許してやれよ。ビシャが死んだらピュールが戻れないんだよ」
キイルが取りなしてくれた。
バッポと呼ばれたスフェーンが、ぐるぐると泳ぎ出した。イライラと怒っている。
「だったら、いつピュールは戻ってくるんだ?」
他のスフェーン達からも同意の声があがる。
「ピュールだろうがビシャだろうが、役立たずが群れにいては迷惑だ!」
「でも、ほら、女の子だからさ、子供が産めるよ。子供はたくさんいた方がいい。もうすぐ、クタイクタイに入るしさ。ピュールは参加出来るよ」
「ああ、だけど、俺達が飢えてしまっては元も子もないじゃないか」
「私、狩りの仕方覚える。こんどこそ失敗しないようにするから。お願い、群れに置いて!」
バッポと呼ばれたスフェーンはプイと鼻先を回して行ってしまった。
「さ、行こう。バッポもわかってくれるよ。僕が狩りの仕方を教えてやるよ。ピュールに出来てたんだから、君にも出来るさ」
その日から狩りの特訓が始まった。追い込み役は難しい。小魚をたくさん、集めなきゃいけない。もたもたしていると小魚達が逃げて行ってしまう。
小魚達も必死だ。海面に出ると見せかけて深くもぐったりする。小魚達との駆け引きに勝たなければいけない。岩の隙間や珊瑚礁に潜られるとやっかいだ。
狩りの練習は日暮れまで続いた。
私は時々待ち伏せ役をやらせて貰った。待っていると小魚がやってくるので助かる。群れのみんなもピュールと入れ替わった私に、同情してくれたらしい。
夜、スフェーン達は半分眠りながら安全な入江で過す。
キイルが寄ってきた。
「うーんとね、人とスフェーンが入れ替わった話をみんなにしたんだ。みんなわけわかんない様子でさ、困ったんだけどね。心が入れ替わってるって言ったらやっとわかって貰えたよ」
「それで、それで」
「グンダグンダが知ってるんじゃないかって」
「グンダグンダ?」
「グンダグンダはとっても年寄りなんだって。だから知ってるんじゃないかって」
キイルはさらに詳しく教えてくれた。グンダグンダは、昔は動けたらしいけど、今は小さな珊瑚礁の真ん中でモイアシルに守られてじっとしている生き物らしい。病気になった時、何を食べたらいいかとか、どこにいけばそれが手に入るかとかよく知っているという。今回も病気みたいなものだからグンダグンダに会いにいけばいいと教えられたのだという。
「グンダグンダはどこにいるの?」
「ここからまっすぐ南に泳いだらぶつかるって。大体一日泳いだら着けるだろうってさ」
私達は、今度ピュールにあったらこの話をしようと約束して眠った。
うとうとしている私にキイルが体をすり寄せて来る。するりと押して来たので、私も押し返した。キイルが嬉しそうにクルクルと回る。私も一緒になって回った。
いつのまにか眠ってしまった私は、また夢を見た。誰かが私を呼んでいる。呼んでいるけど、なんと言っているのかわからない。