1-2 希望と絶望
あの後バトラスからの座学は終わりそこで午前が終了する。
昼ご飯を兼ねた休憩を挟んだあと魔法剣の修行に取り組む。
しかしその成果は乏しくない。
原因は俺の魔力と俺という存在というか魂のせいだと思う。
俺は父と母のおかげで保有魔力量は多い。
というか兄と姉をすでに超えている。
故に魔法を使うことには問題は無い。
だがそれゆえかコントロールがしにくいのだ。
故に剣に魔法を付与するという魔法剣の基本技術を習得するのにとても時間がかかっている。
そして問題を増やすのが俺という存在だ。
俺は少しこじゃれて言えば二度目の人生を歩む者、つまりは転生者である。
ゆえに赤ん坊から意識があった俺は前世で戦闘と戦争の無い国にいたせいで直接的に攻撃する手段を行うことに魂からの拒絶感がある。
いざとなったらできなくもないが何らかの切っ掛けで手が止まってしまうこともあり得る。
相手に命乞いなんてされたら特にな。
そんな俺の姿を見た家族の反応は予想の斜め上をいった。
両親は。
「粗暴な血筋の私たちからこんな平和な思考の子供が生まれるなんて」
兄と姉は。
「何で私達を取り巻く環境からそんなに優しい思考に育つことができたの」
と驚愕まじりに素晴らしいと喜んでいた。
彼らは強大な力を持つがゆえの責任やら思考という物があり、それが年齢が離れて生まれた俺がその負担を持たずに済んだことに素直に喜んでいるのである。
ゆえに家族は全力で俺を守ろうとするだろう。
それこそ国にまで喧嘩を売ってしまいかねない。
俺が原因で家族離散なんてまっぴらごめんである。
故に俺は攻撃手段が必要だ。
英雄の家族達に並ぶとはいかないまでも守られない手段が。
この世界の近接戦闘手段は魔法剣と呼ばれる武器に魔法を付与し一撃一撃の威力を上げるという手段だ。
肉体強化の魔法は残念ながら無い。
何故なら総じて魔法耐性が高いために肉体強化がしにくいのだ。
それゆえか普通の人間でも身体能力はかなり高めで亜人になると地球で神話クラスの生物なんて割といるようだ。
そして遠距離攻撃手段は魔法である。
武器にそのまま付与するような魔法をそのまま遠距離に飛ばすのである。
武器には魔法を強化する金属や媒体が使われているため魔法剣の方が魔法より威力が強い傾向にある。
ゆえに遠距離で強い魔法が放てる魔法使いは重宝される。
一応魔力も有限であるので弓もあるがこちらは亜人の専売特許であり、それゆえに遠慮されがちだ。
そこで近接戦闘がほぼ無理な俺は遠距離攻撃手段を専門にする必要がある。
しかし只の魔法だけじゃきっと生き残れない。
生き残れないということは家族に守られるということだ。
ゆえに生半かな強さではいけない。
そこで俺の前世の知識が必要となってくる。
俺の世界で遠距離攻撃手段の代表格は銃火器だろう。
そして創作ファンタジーの魔法の代表格は杖であった。
ならば俺が目指すのは杖となる銃だ。
強力な魔法を放つことができる銃があれば俺もこの世界で生きていける、そんな気がする。
幸いこの世界には魔法金属もあれば武器に魔法を強化する媒体を付与するという技術もある。
なんとかなりそうな気がしながら俺は知り合いのおっさんの家に向けて走り始めた。
「無理じゃ」
そう目の前の髭もじゃは断言する。
人では珍しいほどの髭を頬から顎にかけて蓄え太い腕を腕組みしながら武具防具装備店のおっさんは応える。
おっさんはドワーフ、亜人である。
「なんでだよ!」
俺はテーブルをバン!と叩きながら髭もじゃに詰め寄る。
魔法金属を扱うことができるドワーフに否定されるということは実現不可能ということを決定づけてしまうからだ。
「ここを見てみろ」
髭もじゃが太くごつごつした指で指さしたのは持ち手になる柄の部分……にある魔法陣だ。
「この魔法陣は如何にして強力な魔法を剣に留めて威力を上げるかだけに費やされておる」
「だから逆に強力な魔法を放つ武器は作れない、と?」
俺の問に髭もじゃは強く頷いた。
「そういうことじゃ。すべての武器にはこの魔法陣かさらにこの効力を高めた高度な魔法陣しか存在せん」
「わかった!ならまだ諦めずにすむ!」
それはつまり魔法陣さえ変えれば使用可能だということだ。
俺は髭もじゃの答えに笑みを浮かべてこうしていられないと直ぐに次の目的地に向けて出発の準備を始める。
「ありがと髭も……じゃなかったパイクのおっさん!また来る!」
「おい!魔法陣を変えてもそれに合う魔法金属や媒体を探したり、効果が出ても実際に戦闘に使えるかどうかは……」
髭もじゃパイクおっさんが何事か言っていたがすでに店を出ていた俺には小さくなっていくばかりで最後まで聞き取れない。
俺は一直線に目的地に向けて走っていたがそこにいる人物の姿を想像すると何故か足が止まり背筋に悪寒が走った。
俺は気のせいだと首を振ると再び目的地に向かって走り始めた。
「いらっしゃい」
そこにいたのはエルフだ。
しかし只のエルフではない。
通常エルフは緑色の翡翠のような髪をしているが目の前にいるエルフは澄んだ青色、アクアマリンのような髪をしている。
これこそがエルフの中でも高い力を持つといわれるルーンエルフである証だ。
しかもこのルーンエルフは絶壁モデル体型のエルフとは違い妙に肉付きがいい。
成人男性なら一度は抱いてみたいと思うかのような絶世の美女なのである。
魔法具店を商うルーンエルフの美女、名前をサナエルという。
「今度はいつ来るかと思って待ってたのに全然来ないからお姉さんくたびれちゃったわ」
「え?前に来たの二日前じゃん」
店に入った途端奥の部屋に通されソファーに座るように促されるとお茶とお菓子を出される。
俺の言葉にサナエルは分かってないわねえと言った表情で俺を見る。
「毎日何回でも会いたいの」
「それは流石に無理だろ」
家族でもできないのだからサナエルとできる訳もない。
しかも俺は名誉貴族だが一応貴族として勉強する時間も魔法剣の特訓の時間もあるのだから毎日何度も顔を合わせるのはバトラスとか屋敷に勤めている使用人くらいである。
仕事で外に出ている家族に会えることなどそれぞれ一日に一度あるかないかだ。
「私をもらってくれたら叶うわ」
「……十年後にも同じ気持ちだったら考える」
まだ成人もしてない幼児を前に何をほざいているのやら。
それだと意味が無いんだけどアスラちゃんだったらいいかもねえなんてよく分からないことを言う。
また奇妙な悪寒が背筋を走ったがなんなのだこれは。
「それで今日は何のお話をしにきたの?」
「魔法陣についてのお話」
話が変わると同時に悪寒も消え去る。
どうやらやはり気のせいだったようだ。
俺は遠距離攻撃用の魔法陣ができないかどうかサナエルは真剣に話を聞きだした。
「できないことは無いわ」
サナエルの言葉に俺は喜んだ。
「本当か!」
「ただ、圧倒的に時間がかかるわ」
どういうことかと聞いたら今武器に書かれている魔法陣は千年以上の歴史を持つ古くから研究されているものであり、媒体に関しても数百年の研究の歴史を持つものだ。
「魔法金属や媒体に関してはある程度は参考になるとは言っても一から研究を始めるのよ?アスラちゃんが死ぬまでにどこまで研究できるか……」
「そう……か」
俺は目に見えて落ち込む。
どうやら俺の目的は達成できないかもしれない。
やはりただの子供の浅知恵だったのだろうか。
そんな俺を見てサナエルはうろたえる。
「アスラちゃん……」
「ごめん今日はこれで帰るよ。またねサナエル」
普段は名前のあとにお姉ちゃんと付けないと怒るサナエルだったが俺の雰囲気を察してか言うことは無かった。
サナエルの気遣うような視線を背に俺は店を出て一人になれる場所に向かって歩き始めた。
父と母は王国軍に所属。
兄と姉は王国騎士団に所属しています。
違いは王国軍は他国からの侵略から迎撃する部隊。
王国騎士団は国内の各都市の警備が主な部隊で有事の際は王国軍に編成されます。