0.三年二組 高岡綿子
小学校1年生の時、友達がたくさんいた。たのしかった。
小学校2年生の時、だんだん女子から嫌われていった。
小学校3年生の時、女子でも男子でも、友達がいなくなった。
それからいままで、友達はいなかった。理由はわからない。
わたしの心はゆっくりと分裂していった。
日本全国の学校でコンピュータの授業が行われるようになって、わたしが「ぱそこん」に初めて触れたのは小学三年生の時だった。その魔法の箱は、絵も描けるし、文字も書ける。「いんたーねっと」という不思議な世界の中へ潜り込んで、「やふう」という先生に質問をすれば、答えてもらえない事などなかった。
なにより楽しくて嬉しいのは、画面の向こうにも誰かがいること!
学校ではだれもわたしの話なんて聞いてくれなかった(無視されるのはイジメと言えるの?)。でも「いんたーねっと」は違う。ちゃんと誰かがわたしに答えてくれる。
どうしても「ぱそこん」がほしかった。
「お母さんお願い、パソコン買って、ちゃんと勉強するから」
「綿子、うちにそんなお金ないってわかってるでしょ」
お母さんはだめだって言ったけど、ほしくてたまらなかった。
一日中でも遊んでくれる誰かと繋がれるそれが。
裂けて二極化した心は外面と内面に分かれ、成長とともに形を変えていった。
社交的で明るく、天真爛漫な外面は「†羽汰姫†」と言う名に。
人に怯えて逃げ、感情のコントロールができない内面は「わたちゃん」と言う名に。
……言っとくけど二重人格ではない。
ネットの自分と、現実の自分は、別の振る舞いをしているだけ。
きっと誰だってそうだとは思うけど。
結局、お母さんはパソコンを買ってくれた。小学校5年生の時だった。
まずはチャットやBBSに書き込むことに没頭した。好きな漫画とかのね。
次になりきりメールにハマって、最終的に行き着いたのはネットゲームだった。
可愛い姿をした、キラキラした女の子がわたしの化身。
「わたちゃん。今日は学校、いかない? 行ってみない?」
「……」
おかあさんはいつからわたしをそう呼び始めたっけ。閉じたドアの向こうから聞こえる声をヘッドホンで遮ると、わたしは「わたちゃん」を脱ぎ捨てて「†羽汰姫†」になる。
わたし、高岡綿子、中三。ずばり現実の人間がこわい。