憑ながりを大切にしてますか?
幽霊になった幼馴染みとの、賑やかで楽しい生活も1ヶ月が経とうとしている。
でも、このままで良い訳がない。季節が夏から秋に変わる様に人は日々変わっていく。
でも幽霊の向日葵は20年前から何も変わっていない。向日葵の刻は20年前から止まったままだ。
本当に向日葵の事を考えるなら、成仏して天に召されるのが一番だと思う。
でも、向日葵は何回お経を聞いても、成仏が出来なかったそうだ。
どうすれば向日葵は成仏するんだろうか?俺の知り合いで心霊に詳しそうなのは、オカルト探訪の八木って記者位だ。
(そういや綿木と八木って記者とはどんな知り合い何だろうか?)
真面目を絵に描いた様な綿木とチャラ男な八木が友人とは思えない。
今日は綿木と二人で風呂掃除の当番だし、向日葵はスマホの中で爆睡してるだろうから話を聞かれる事もないだろう。
「綿木、あの八木って記者はお前のダチなのか?」
「八木さんは友達と言うより僕の恩人なんですよ」
ますます謎が深まってしまった。
「誰かに絡まれた時に助けてもらったのか?」
「やっぱり八木さんは凄いや。こないだ八木さんと話をしたら葉里さんの話になったんですよ。八木さん”ちゃん葉里はそろそろ僕ちゃんの事を聞いてくると思うYO”って言ってたんです」
そろそろって事は八木は向日葵の事を知ってるんだろうか?
「おいおい、八木に超能力や霊能力があるって言うんじゃないよな」
「葉里さんは幽霊って信じますか?僕は八木さんの霊能力で救われたんですよ」
信じるも何もただ今同棲中だよ。
「救われたって、お前幽霊に取り憑かれでもしたのか?」
「僕には双子の弟がいたんです」
いたって事は今はいないって事になる。
「初耳だな」
「身内が死んだ話はあまりしたくありませんから…弟は小学生の時に車に跳ねられて死んだんです」
弟さんが綿木に取り憑いたのは高校2年生の時。中々、弟さんの死を受けいられずにいた綿木の前に死んだ弟さんが現れたそうだ。
「不思議な話もあるもんだな。それで八木にお祓いでもしてもらったのか?」
「違いますよ。八木さんは僕にこう言ってくれたんです。”ちゃん綿木が暗いままだと弟ちゃんは心配で天国にGO出来ないんだYO。仏様は心残りな事があると、成仏出来ないんですよ。貴方の哀しい想いが鎖になって弟さんを縛っているんです。弟さんとの楽しい思い出を胸にして歩き出す時が来たんですよ”そう言われたんですよ」
物凄いまともな話だ。オカルト雑誌の記者の話と言うより、お坊さんの説教に聞こえる。
「鎖か…綿木、八木さんに連絡はとれるか?ちょっと俺のスマホからは連絡出来ないんだ」
「良いですよ。今日でもラインをしておきますね」
俺の思いも向日葵を縛っていたんだろうか?
―――――――――――――――
八木との待ち合わせ場所に指定して来たのは、県庁所在地にあるオフィスビルだった。
「譲、こんな所になんの用事があるの?」
「綿木に頼まれたんだよ。行けば分かるらしい」
向日葵を成仏させる相談に来たなんて言える訳がない。
「ふーん…なんか眠くなってきちゃった…譲、おやすみ」
流石はフリーダムゴースト向日葵さん、ビルに入った途端スリープモードに突入。
「寝てくれた方が都合が良いか…すいません、八木馨様はいらっしゃいますか?」
受付にお願いして3分、チャラ男が現れた。
タボタボのトレーナーにパンツは腰履き、首にはシルバーチェーンのネックレスとオフィスビルには似つかわしくない格好である。
「ちゃん葉里ーおひさー。今日も元気な馨ちゃんでーす」
この人は本当に社会人なんだろうか?本当に綿木に真面目な言葉を贈った人なんだろうか?
「八木さん、お久しぶりです。わざわざお時間を作って頂きありがとうございます。今日は相談があって来たんですけど」
「OK!!分かってるYO。ちゃん向日葵の事でしょ?それと心配はnothing、このビルにいる限りはちゃん向日葵は起きないZE」
何でだ?何で俺が向日葵の事を相談しに来たって分かるんだ?
「鳩がビーンズピストルをHITした様な顔をしてるNE。一応、僕ちゃんは僧侶だったりするんだよNE」
鳩が豆鉄砲をくらったと言いたいんだろうか?
「お坊様ですか?」
「はい、拙僧は御仏に仕えています。ご相談は天馬向日葵様に成仏して頂く方法ですね」
八木…いや八木さんの雰囲気が一変した。
「向日葵を成仏させる方法が分かるんですか?」
「向日葵様は現世に強い想いを残しておられます。そして向日葵様が貴方と再会したのも御仏の縁です。一度、向日葵様ときちんと向き合ってあげて下さい」
向日葵ときちんと向き合う、今の俺が向日葵に伝えなきゃいけない言葉はなんなんだろうか?