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憑らい思い出はありますか?

 向日葵が俺に取り憑いて2週間が経った。

 うるさいほど賑やかな生活に漸く馴れてきたと思う…たまにうざく感じる時もあるけど。

 ただ困っているのは、スマホが使えず夜中の暇潰しが出来なくなった事だ。

 何しろ、向日葵は寝るのが早い、夜10時には寝てしまう。昼はネット巡回とゲーム、夜は俺相手にひたすら喋って食べまくる自堕落生活。

 只今ただいま夜の11時、寝れなくて暇だけど向日葵はテレビどころか電気を着けただけで起きてしまう。


(まさか向日葵と暮らすとは思わなかった…そいやあの時も向日葵を見下ろしていたんだよな)

 

――――――――――――


 俺と向日葵の母親は学生時代の友達だそうだ。

 住んでる家も近く物心着いた頃から向日葵は俺の近くにいた。

 小・中と同じクラスだったけど、年ともに二人の距離は徐々に開いていった。

 向日葵は運動が得意で明るく活発な性格でクラスの主役だったのに対して、運動も勉強も苦手だった俺はいつでも脇役。

 そして自分の脇役っぷりを自覚していあの頃の俺は向日葵への恋心を封印していた。

 無謀な挑戦をして、母親達の仲が気不味くなるのが嫌だったんだ。

 別の高校に進学すると、二人の距離は顔を合わせたら立ち話をする位になっていた。

 そんなある日の事、バイトの帰り道に向日葵と久しぶりに話をする機会があった。

 久しぶりの会話に胸が痛い程にときめいたのを覚えている。

 蝉時雨がうるさい七月の終わり、俺が絶対に忘れる事が出来ない夏の日だ。


「譲、私好きな人が出来ちゃった。バスケ部の先輩でイケメンで優しいの。その上、お家もお金持ちなんだよ」

 無邪気と言うか残酷と言うか、俺の気持ちを知らない向日葵は嬉しそうな顔で報告をしてきた。

 ときめきで痛かった胸は失恋の痛みに早変わり。


「そんな漫画みたいな人もいるんだな」

 負け惜しみすら言えない俺に向日葵が追い打ちをかけてくる。


「凄いでしょ!!それでね、今度の日曜日先輩と呼び込み峠をドライブデートするんだ。羨ましいでしょ」


「ドライブって先輩も高校生なんだろ?」

 あの時の俺に言いたい…ぶん殴ってでも向日葵を止めろと。


「零士先輩は運動神経が良いから大丈夫なの。真っ赤なオープンカーだって、超楽しみ」

 でも、その時の俺は惨めさと悔しさを誤魔化すが精一杯で愛想笑いしか出来なかった。

 そして日曜日、俺はモヤモヤする気持ち嫌で目的も持たずに町に出掛けたんだ。

 町をブラブラ歩いていたら、たまたま顔を合わせたダチが興奮気味に話し掛けてきた。


「葉里、さっきスゲーもん見たぜ。真っ赤なオープンカーなんだけど左半分が潰れてんだ。あれ絶対に事故ったんだぜ」

 嫌な冷や汗が全身をつたう。


「どこで見たんだ?助手席に誰か乗ってなかったか?」


「場所は呼び込みへ向かう道路だよ。イケメンが一人で運転してたぞ。泣きながら運転するなんてダサいよな」

 そこからの事はあまり覚えていない。

 ひたすらチャリをこいで呼び込み峠を目指した。

 

(赤いオープンカーなんて他にもある。呼び込みを攻めるのが流行ってるって兄貴も言ってたし)

 それは祈りにも似た言い訳、何かに縋らなきゃ潰れてしまいそうだった。

 息が苦しくても足が痛くなってもひたすらチャリをこぎ続けた。


「嘘だろ…」

 呼び込み峠を走っていると、大破しているガードレールが目に飛び込んできた。

 急カーブにはブレーキ痕がくっきりと着いている。 

 そして向日葵は壊れたガードレールの向こうにいた。

 正確には崖の下に向日葵だった物が空を見つめて横たわっていたんだ。


「ひ、向日葵っ!!おい、向日葵。返事しろよ、この寝坊助っ。返事してくれよ…向日葵ー」

 体の力が一気に抜けていくのが分かった。

 暑い

 その後、道路で泣きじゃくっている俺をトラックの運ちゃんが見つけて警察にも連絡してくれた。

 後から聞いた話だと先輩は当然無免許、しかも向日葵にシートベルトを締めさせなかったらしい。

 調子に乗って急カーブを攻めたのは良いが曲がり切れずにガードレールと接触、その衝撃で向日葵は車外に放り出されたとの。

 向日葵の家には、多額の慰謝料が渡されたらしい。

 件の先輩は謝罪も有耶無耶のまま海外留学したそうだ。

その先輩の親はかなりのお偉いさんらしく、裏か手を回したって話を聞いた。


――――――――――――――


 夜中に目が覚めて目を開けると、譲がスマホを覗き込んでいた。

 あの日、薄れいく意識の中哀しい位に青い空を見つめていたら譲の叫びが聞こえてきたんだ。

 そして、その時漸く気づいた。

 私が本当に好きなのは譲だって。

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