憑いつい忘れ物をする事はありませんか?
今回の元ねたは作者の実体験です
気まずい…非常に気まずい。
ロッカーに携帯を忘れた事に気づいて会社に戻ると、既に大騒ぎになっていた。
警備保証の人まで駆け付けて来てくれた様で、会社がざわめている。
「葉里さん、大変です。誰もいないのにデイの警報がなったんですよ」
隣接してるグループホームの職員が涙目で話し掛けてきた。
「掲示物が落ちたか、虫かなんかが入り込んだじゃないんですか?」
「何も落ちていないし、窓も閉まってましたよ。きっとお化けが出たんです」
はい、正解です…うちの居候幽霊が原因だと思われます。
「誤報ですよ、誤報…」
「1回閉めたら、また鳴ったんですよ!!」
まあ、原因はまだ中にいるんだし。
「とりあえず俺が見てきますよ。デイの職員じゃなきゃ分からない事もありますし」
正確には俺じゃなきゃ連れ出せない幽霊がいるんだけど。
予想通り、向日葵はホールでむくれていた。
「薄情者、遅刻した理由を述べよ!!」
向日葵は他の人には見えないらしい…つまり、ここで向日葵と会話をしていたら痛い人にされてしまう。
「とりあえず一通り見て来ますね。何か分かったら内線を入れますから」
「遅刻した上に無視!?謝れば許してあげたのに」
グループホームの職員は戻ったけど、警備保証の方はまだいる訳で…
「お騒がせしてすいません。虫か何かが入ったんですかね?」
「その虫じゃない!!私を無視するなって言ってるの!!」
向日葵はテーブルの上で地団駄を踏んでいる…それだけ動けばセンサーも感知するよな。
「いえ、たまにあるんですよ」
警備保証の人の腕を見ると、立派な数珠を着けていた。
前の俺なら信じなかったかも知れないけど、今は幽霊と同居している立場。
「大変ですね。ちょっとロッカー室を見てきます」
ロッカーから携帯を取り出して、見回りを開始。
都合よく原因を擦りつけれる物があると良いんだけど。
そんな簡単にある訳がない…いや、ないなら仕込んだ方が早い。
ボイラー室のドアを開けて、草むらからバッタをゲット。
「何が分かりましたか?」
「あー、これじゃないですか?バッタが一匹紛れ込んでいましたよ」
バッタ君、ごめん。
後から逃がすので許して下さい。
――――――――――――――
一難去ってまた一難。
置いて放りにされた向日葵の怒りは納まらず。
「信じられない!!幼馴染みをロッカーに置いて放りにするなんて」
「悪い、悪い。お前が爆睡してて気付かなかったんだよ」
普段なら早く帰ろうとうるさいが、今日は向日葵はスマホの中で爆睡していた。
…俺は一生懸命仕事をしてたのに。
「ふっんだ!!一人で怖かったんだからね…他のお化けに会ったらどうするのよ」
…幽霊が幽霊に怯えるのか?
「いや、お前も幽霊だろ」
「あのね、私みたく明るくて優しい幽霊ばかりじゃないんだよ」
確かに明るくて優しい幽霊なんて聞いた事がない。
いや、向日葵みたくうるさい幽霊ばかりだとみんなが睡眠不足になってしまう。
「お前自分で明るくて優しいって言うか?」
「物の例えよ。全く、細かい事を一々…この姑男!!」
俺が姑だとすると向日葵はぐうたら嫁だろうか。
「はいはい、とりあえず晩飯を買いに行くぞ…何が食べたい物はあるか?」
「うんとね…ハンバーグ」
速攻で思い付く辺りが向日葵らしい。
「それじゃ合挽き肉を買って行かなきゃな」
ちなみに俺はケチャップとソースを隠し味にしている。
「えっ?譲ハンバーグを作れるの?」
「作るのは簡単だよ。流石に店みたくジューシには作れないけどな」
でも、好きな大きさに出来るのが手作りの魅力だと思う。
スーパーが予想以上に込んでいて、何とか駐車場の奥に車を停める。
街灯から離れた場所で薄暗く、幽霊でも出そうだ…もう憑かれてるけど。
「それじゃ買い物に行ってくるけど、向日葵はどうする?」
「譲!!顔を伏せて、携帯を弄ってる振りをして」
あまりの剣幕に思わず従ってしまう。
「ひまわ…」
「少し黙っていて…もう良いわよ」
5分位経って漸く向日葵からお許しがでた。
「何があったんだよ!?」
「達の悪い浮遊霊がいたのよ。目が合ったら取り憑かれるんだからね」
うん、餅は餅屋ならぬ幽霊は幽霊が詳しいと。
「達の悪い幽霊か…ありがとな」
「何よ、今さら譲は昔から手が掛かってからね。きちんと警備保証ヒマソックが守ってあげるわよ。譲には私が憑いてるんだから大丈夫」
警備保証暇ソック…なに、その自宅警備員みたいな名前は。
「そっか、俺も数珠を持つかな」
「鬼っ、悪魔っ、怨霊っ!!私が憑いてるんだよ」
幽霊に怨霊扱いされるとは…。
「数珠って効果あるのか?俺も持ってるけど、きつくないのか」
喪服を買った時に着いてきた安物だけど。
「物によるわよ。試供品の虫除けスプレーより虫コ○ーズの方が効くでしょ」
ちなみに向日葵は虫が大嫌いで、家には虫コナ○ズが四個もある。
最初の警備保証は活動報告、スーパーの駐車場は元カノに実際に言われました