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ちょっと憑かれています

 向日葵が俺に取り憑いてから一週間が経った。

 …正直辛いです。

 食費は倍掛かるし、プライベートな時間がゼロ。

 エッチなお宝DVDは押し入れの奥底に封印中…ぶっちゃけ、溜まってます。

 俺には享年15才の幼馴染みの前で解消する度胸も趣味もない。

 大人のお店に行こうにも向日葵がスマホを寝ぐらにしてるから無理。

 スマホを置いて出掛けようものなら、物凄く怒る。

 だからと言って出て行けとも言えない。

 恋愛感情は無くなっても向日葵は大切な幼馴染み。

 唯一の救いは向日葵が俺の恋愛対象から外れまくっているから、ムラムラしない事位である。

 向日葵が死んでまで傷付くのは嫌だし。


「譲、もし魔法が使えたらどんな魔法が使いたい?」

 そんな俺の気持ちを知る由もない向日葵さんはスマホのアプリにはまっていた。

 

「眠らせる魔法と目を覚ます魔法。それと相手の居所が分かる魔法だな」


「えっ…眠らせてどうするつもりなの?それとストーカーをしたいんじゃないよね」

 確かに、俺が選んだ魔法は誤解を与えねかねない。


「介護職なら誰でも眠らせる魔法が欲しいと思うぜ。目を覚ます魔法は、ご家族から昼寝をさせないで欲しいって頼まれるんだよ」

 寝せない為に、散歩に誘ったり事務所で会話をしたりと色々と大変なのである。


「またお仕事の話?それじゃ居場所が分かる魔法は?」


「外出行事に行くと姿が見えなくなって焦る事が良くあるんだよ。デイから無断外出されて捜し回った事もあるしな」

 いくら探しても見つからず家族に電話をしたら、偶然会った親戚に自宅まで送ってもらっていた人もいた。

 あの時は体中の力が抜けたのを覚えている。


「大人になった譲はお仕事の話ばっかり…つまらない」


「そのお仕事のお陰で飯も食えるし、スマホも持てるんだよ。さて、俺は寝るぞ」

 若い娘が喜ぶ話なんて分からないし、一日の大半を仕事に費やしてるんだから仕方がない。


「まだ10時だよ?本当のおじさんじゃん」


「明日は行事があるから早く出勤するんだよ」

 ちなみに早く出勤しても、タイムカードは定時に押さなきゃいけない。


「えー、明日のお弁当は?」

 自分で作れと言いたいが、向日葵は料理の経験が皆無。


「カップ麺を持っていく…そうだ、向日葵先にカップ麺を食べて良いぞ」

 味が薄くなるなら塩分も減ってくれる筈…三十路になると健康が心配になるのだ。


――――――――――――――


「この度は誠に申し訳ありませんでした」

 ただ今ご家族に頭を下げくまくっている。

 違う職員が髭剃り中に利用者の皮膚が切れてしまったのだ。

 幸い、血は直ぐに止まったし利用者も許してくれている。

 しかし、家族に報告して謝るのも送迎職員の仕事。

 幸い、ご家族は気にしないで下さいと言ってくれた。 


「あー、なんとか許してもらえた」

 送迎者に乗り込むと同時に安堵の溜め息が漏れる。


「なんで譲が悪くないのにペコペコ謝らなきゃいけないの?」

 今日は一人送迎の為に、向日葵と話しても大丈夫な筈…。


「仕事はそんなもんなんだよ。俺は個人で来てるんじゃなくて、デイサービスの職員として送ってるんだぜ」

 今回みたいに優しく許してくれるご家族だけじゃない。

 理不尽に怒られる時もある。

 言ってしまえば、それも含めて仕事なのだ。


「でも、格好悪いじゃん」

 確かに、俺も向日葵と同じ年の頃はペコペコする大人を馬鹿にしていた。


「ばーか。あれが仕事なんだよ。格好を着けて、ふんぞり返っていたら仕事になる訳ないだろ」

 そんな殿様商売が出来るのは一部の人間だけである。

 そして大概そんな奴等は中身が碌でもない。


「ふーん。譲、汗を凄いかいてるけど喉は乾かないの?」

 クーラーを使えると言っても、今は真夏である。


「乾くに決まってるだろ」


「何か飲まなくて大丈夫?」

 正直言うと物凄く飲みたい。


「送迎中だから無理なんだよ。車にデイサービスの名前が入ってるしな」

 送迎中にコンビニに寄っていたとか、ジュースを飲んでいたなんて苦情が来るのだ。


「なんか大変だね」


「それも含めて仕事なんだよ」

 安くてきついけど、介護これが俺の仕事なんだ。


―――――――――――――――


 眠っている幼馴染みはどこか疲れた顔をしていた。

 年下の弟みたいに思っていた幼馴染みなのに、いつの間にか父親みたくなっていた。

 私は譲に触れる事が出来ない。

 疲れている譲にマッサージする事も、お料理を作ってあげる事も出来ない。

 あの日、自転車で誰よりも早く事故現場に来てくれた幼馴染み。

 葬式の時、私の写真をじっと見つめていた幼馴染み。

 

「譲…」

 寝ている幼馴染みの頬に、そっと手を伸ばす。

 でも、私の手は虚しく譲を通り抜ける。

 

(なんで私は死んじゃったのかな…自分の本当の気持ちに、あの時まで気づかないなんて馬鹿だよね…)

 私は何も出来ない。

 だから譲に笑っていようと思う。

どんな方に読まれているか微妙な作品です

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