ここまで憑いてくる?
知る人は知ってるキャラが出てきます
〔〕はメールでの会話になります
日曜日の早朝、俺はこれから暑くなる気満々の朝日を浴びながら弁当を作っている。
ちなみに家の居候駄幽霊はスマホの中で爆睡中。
ご丁寧に電源を落として文字通りスリープモードだ。
今日の弁当はサンドイッチに決定。
この季節に玉子サンドはヤバイので、シーチキンマヨと野菜サンドを作っている。
シチーキンマヨを取り分けて、ご飯の上に乗せれば朝飯も完了。
未だ駄幽霊向日葵さん目覚める気配なし。
ただ今の時刻は7時、始業時間は8時だけれども会社までは片道20分、30分前にはいるのが原則だから出社時間だ。
駄幽霊向日葵の棲家と化したスマホを通勤バッグに投げ入れる。
「譲、私が入ってるんだから丁寧に扱いなさいよ。うわっ、まだ7時じゃん。日曜日の7時からどこに行くのよ?」
スピーカをオンにしているスマホから、向日葵の声が聞こえてきた。
「仕事に決まってるだろ。介護職に土日は関係ないんだよ。次いでに盆正月も休みなし」
ゴールデンウィークを、まともに休んだのは何年前になるんだろうか。
「大変だね。ねぇ、私の朝御飯は?」
「お前、日曜日の朝御飯を食べた事あったか?」
おばさん曰く朝練がない日は、昼間で寝太郎ならぬ寝姫だったらしい。
玄関のドアを閉めて駐車場へと向かう。
「お腹すいたー、お腹すいたー…へー、随分可愛い車に乗ってるんだね」
「介護職は安月給だから軽自動車の方が良いんだよ。維持費もガソリン代も安い家計に優しい車なんだぞ」
運転は安全運転を心掛ける…向日葵が死んだ原因はスピードの出し過ぎなんだから。
――――――――――――――
暑い…ひたすら暑い。
湯気と混じり合った空気は熱気に変じていた。
夏場の風呂介助は釜茹で地獄だ。
湯気と混じり合い、湿度も高くなった空気が体に纏わり付く。
額にタオルを巻いても、汗が滴り落ちてくる。
窓を開けたいけど、寒いと利用者から苦情が来るので我慢するしかない。
風呂上がりに麦茶を一気飲みするを目指して洗髪・洗身介助をこなしていく。
「葉里、送迎が入ったから風呂掃除を代わってくれ」
相談員からのお達しが来た。
麦茶に氷をたっぷり入てやる。
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夏で暑い筈なのに、風呂場から出ると何故か涼しく感じる。
気温は32℃あるのに涼しく感じてしまう。
職員休憩室に入ると、早出の綿木が休んでいた。
「ふぃー。おっ、綿木今日は弁当か?」
綿木は実家暮らしだけど、普段はカップ麺やコンビニ弁当を食べている。
「彼女が作ってくれたんです」
照れ臭そうに笑う綿木が微笑ましい。
昔ならやっかんで妬んでいただろう。
「それは羨ましいな。大事にしろよ…くっ、あの馬鹿幽霊!!」
メールが来ていたので確認をすると
〔譲君、サンドイッチは戴いた 怪盗ヒマパン 次は玉子サンドが食べたいな〕
案の定、スマホと一緒に入れていたサンドイッチはスッカスッカだった。
向日葵は取り憑いている間にスマホの操作に習熟したらしく、もうメールを使いこなしている。
ちなみに俺のアドレスから俺のスマホへと送られている為、事情を知らないと一人芝居状態で悲しく見えてしまう。
スッカスッカサンドイッチを麦茶でなんとか飲み下す。
「葉里さん、この間のお礼をしたいから、仕事が終わったらでん八に行きませんか?」
「良いね。こう暑いと生ビールが恋しくなるし」
そうと決まれば午後の水分補給を控えて、ベストな状態でビールを飲んでやる。
―――――――――――――――
でん八は屋台村に入っている和食居酒屋だ。
料理が美味いだけじゃなく、料金も安いサラリーマンの味方である。
「とりあえず生。それと柏天とシメサバ、賄いチャーハンでお願いします」
「何時もは、ガリサワーなのに生を頼むなんて珍しいでね」
ガリサワーは焼酎にガリを入れたでん八オリジナルサワー。
ジンジャーエールの様な適度な辛さがあり、俺の愛飲ドリンクである。
「こうも暑いと生が恋しくなるからな…悪い、メールが来た」
〔ゆずるー、私のご飯はー?(;´д`)〕
顔文字なんていつの間に覚えたんだろう。
〔家に帰ったらカップ麺でも作ってやる〕
〔何よ!!自分は美味しそうなご飯を食べてる癖に…見てなさい( ̄^ ̄)〕
俺のアドレスでメールをしているから、差出人も受取人も葉里譲…これを見られたら絶対にへこんでしまう。
駄幽霊の戯言を無視して柏天に箸を着ける。
(うん…味が薄い?)
〔美味しいー\(^^)/衣はサクサクだし鳥はジューシー!!ほっぺが落ちゃう(*^O^*)〕
どうやら駄幽霊は俺の口に入る直前に柏天を横取りしたらしい。
それならばとしめ鯖に箸を伸ばす。
〔キャー!!なに!!これ?酢の嫌な感じが全然ない(*^^*)〕
うん、それなら奥の手を使ってやる。
「すいません、鮪の目玉ありますか?」
〔鬼ー、悪魔ー、どSー(TT)〕
お子様に、この美味さは分かるまい。
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「すいません、会計をお願いします」
「葉里さん、僕が出しますよ」
財布を出そうとする綿木を制して会計を済ませる。
「おっさんに奢る金があれば彼女のデートに使え」
「でも、この間のお礼が…」
いや、お礼を言うのは俺の方だと思う。
寂しいおっさんの生活が五月蝿い位に賑やかになったんだから。
「そうですか…あっ、これ八木さんから預かっていました」
それは名刺だった。
月刊オカルト探訪
八木馨
柏天、しめ鯖、鮪の目玉はでん八の名物です
作者はこの小説を読んでくれた方がでん八を訪ねてくれたら望外の喜びです