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憑いたら離れない?

 どうやら向日葵は俺に取り憑いたらしい。


「久し振りに知り合いに会えたからテンション上がっちゃって…お父さんやお母さんにも憑いて行けなかったのに」


「久し振りって、お参りに来てくれる人はいないのか?」

 俺も10年以上お参りに行ってないけど。


「来てくれても私に気付いてくれないの…そう言えば譲、あんたお参りに来なさ過ぎ。私の仏壇にお線香も上げに来てくれないし。この薄情者!!」


「へー、仏壇に線香を上げたとか分かるんだ。その代わり、毎年お菓子を送ってるじゃないか」

 向日葵の家は近所にあるけど、高校を卒業してからお邪魔していない。

 俺の母さんと向日葵の母さんが高校の同級生だから、お菓子だけは欠かさずに贈っている。


「そのお菓子もお菓子よ。私が粒あんを食べないのを知ってる癖に、毎年粒あんのお饅頭を贈って来るなんてあれは嫌味?」


「あれはおばさんが好きだって言うから贈ってんだよ。さてと、俺は寝るぞ」

 明日は仕事が休みだけど、生活リズムを崩さない為にも早めに寝る様にしている。


「えっ…ねぇ、私はどこで寝れば良いの?」

 向日葵が顔を赤らめながら、こっちを見てくる。

 当たり前だけれども、家にはベッドが一つしかない。


「好きな所で寝て良いぞ」


「そこは俺は床で寝るから、向日葵はベッドで寝ろって言うんじゃないの?」

 今まで屋外で生活してた癖に。

 幽霊が寝るとしたら位牌か…あれがあったな。

 冷蔵庫から蒲鉾を取り出して板から外す。

 そして油性ペンで蒲鉾板に向日葵と書く。

 文字が乾いたのを確認して、洗えば完成。


「ほれ、これに入って寝ろ」


「私は夏休みに飼っていたかぶと虫か!?それにまだ濡れてるじゃない」

 やっぱりお気に召さなかったか。


「そうは言ってもこの時間じゃ位牌なんて買えないぞ…ちょっと待て。ラインが来た」

 ラインを寄越したのは綿木、内容は今日のお礼だ。


「それなに?」


「何ってスマホだよ。あー、昔の携帯はゴツかったから分からないか…向日葵、これに取り憑く事は出来るか?」

  一人で話をしていたら痛い人確定だけれども、スマホを持っていたら怪しまれないだろう。


「ちょっと待って今試してみる…その前に寝てる間に変な事をしないでよね!!」


「安心しろ、俺のストライクゾーンは25才以上だ」

 享年とは言え15才のお子様に興味はない。


「安心したけど、なんかムカつく…入れたわよ」

 どんな原理か分からないけど、向日葵はスマホの画面の中にいた。


「勝手にラインを読むなよ…お休み」


「素っ気ないわね…お休み」

 20年と言う歳月は、向日葵への気持ちを消すには充分だったらしく、自分でも驚く程に冷静に話せていた。


――――――――――――――――


 35才にもなると、起き抜けの顔はきつい。

 無精髭にボサボサの髪、そして怠そうな顔。

 爽やかに起きれる日なんて、1週間に1回もあれば良いと思う。  

 スマホを見ると、向日葵はまだ寝ている。


「くぅわー…だりぃ…」

 現在、朝の6時。

 休みとは言え目覚ましをかけないでも、定時に目が覚めてしまう。

 スマホを置いて台所に移動。


(確か、彼奴は甘い玉子焼きが好きだったよな。それなら朝御飯は玉子焼き、豆腐の味噌汁に納豆にするか)

 何時もならご飯と振りかけで終わるんだけど、それだと向日葵が騒ぎそうだし。


「あれ?ここはどこ…って譲、なんであんたがいるの?」

 どうやら幽霊でも寝惚けるらしい。


「ここは、俺の部屋だから俺がいて当たり前だろ?飯が出来たけど食べるか?」


「あっ…ありがと」

 向日葵がスマホから出たのを、確認して検索を開始。


「何を調べてるの?」


「お祓いをしてくれる寺を探してるんだよ。まさか、ずっとこのままって訳にはいかないだろ?」

 幽霊の事なんて分からないけど、早く成仏した方が良いに決まっている。


「でも何回もお経をあげてもらったけど、効果はなかったよ」


「そうか…なんか心残りでもあるのか?」

 ない訳がない、向日葵はたった15才で死んでいるんだ。

 …いや、あの馬鹿に殺されたと言っても過言じゃない。


「…分からない。気付いたらあの崖にいてみんなが泣いていて…私の葬式を見て死んだのは分かったけど、それからは、あまり意識がなかったんだよね」

 何でも誰かがお参りに来たり、線香を上げた時にのみ意識が戻っていたらしく、ここ数年はお盆や正月にしか意識が戻っていなかったらしい。


「逆に気になっている事とかないか?」


「そうだ。田中君とポンちゃんって結婚したの?」

 田中は俺のダチで、ポンちゃん事本田さんは向日葵の友達。

 二人は中学で恋人にになり、俺と同じ高校に進んだ。


「高校に入って田中が振られて終わったよ。田中は結婚して子供がいるんだぜ」

 毎年、年賀状を見る度に大きくなっていくダチの子供は嬉しい反面、俺をへこませてくれる。


「うそっ!!あんなに仲が良かったのに!?」


「学生時代の恋人と結婚した奴なんて一握りもいないぞ。その当時は、この人と結婚すると思っていても、進学や就職で生活が変われば別れちまうんだよ」

 かく言う俺も、その一人だ。

 高校の時の彼女なんて今は何をしてるかすら分からない。


「ポンちゃん元気かな?ここ何年かお参りにも来てくれないし」


「確か、本田さんは結婚した人が転勤になって遠くの県に行ったらしいぞ。みんな自分の生活があるんだよ」

 ズッと味噌汁を飲み込む…やはり、豆腐とワカメのコンビは安定感がある。

 ジャガイモと油揚げ、大根と葱に並んで我が家の味噌汁定番クリーンナップを担うだけある。

 蜆も砂抜きの手間がなければクリーンナップ確定なんけだど。


「みんな進んで私だけ取り残されているんだね…仕方ないよね。私、死んじゃったんだし」


「まっ、折角会えたんだからやりたい事や食べたい物があれば言えば良いよ。出来る事なら叶えてやるから」

 あくまで俺が出来る範囲で海外旅行なんて言われたら無理だけど。

 とりあえず彼奴の事を聞かれないで安心した。

 無免で車を運転して向日葵を殺した彼奴の事を…

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