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疲れた人、憑いた人?

 疲れているから、幻聴と幻覚を見たんだと思う。


「おーい、久し振りに会ったのに無視ですかー?」

 恐る恐る玄関の方を振り返ると、そこにはショートカットの少女がいた…正確には浮いていた。

 少女は浮いてるし、向こうが透けている…幽霊という奴なんだろうか?

 ちなみに少女は、Tシャツにショーパンと言う幽霊らしかぬラフな格好をしている。

 こういう場合は…

 俺は台所のシンクからお目当ての物を取り出して少女に向かって投げつけた。


「南妙法蓮華経…払い給え、清め給え…エロイエッサイム…アーメン」

 これだけ唱えれば一つは効果があると思う。

 塩は幽霊をすり抜けると、玄関にパラパラと落ちていく。


「譲、いきなり何すんのよ!?」


「何って塩を撒いてお清めをしたんですけど…何かご不満でも?」

 幽霊少女は向日葵と同じ姿をして同じ声をしているけど、向日葵と言う確証はない。


「ひ、人でなし!!幽霊に塩を掛けてなんかあったらどうすんのよ?縮んだりしたら恨んでやるからね」


「大丈夫ですよ。塩が効果あるのは玄関に入る前までです。それと縮むのはナメクジですよ」

  塩にはお清めの効果はあるらしいが、お払いの効果はないらしい。


「ペラペラと…譲は何時からそんな口の減らない人になったの?それと何で敬語なのよ!!私よ、向日葵。あんたの幼馴染みの天馬向日葵ちゃん」

 幽霊少女は空中でジタバタと暴れ回っている。


「すいません、近所迷惑なので声のトーンを下げてもらえますか?」


「くー、可愛くないわねー。なにさ、少し年上になったからって大人ぶって」

 ぶっても何も成年男性になって15年も経つんだけど。


「いや、大人ですから…本当に向日葵なのか?」


「何回も言わせないでよ。私は天馬向日葵。普通、こんな時は”元気だった?”とか”変わらないね”とか言うもんでしょ?」

 反応を見てみると、本当に向日葵の幽霊なんだろう。


「幽霊に元気って聞く奴はいないだろ?それに幽霊は変わらなくて当たり前なんだし」


「くー、挙げ足ばっかりとって。お喋りな男は嫌われるわよ」

 幽霊にも、挙げ足があるんだろうか?


「悪いけど喋るのも仕事なんだよ。それで何しに来たんだ?」

 デイサービスなんて、人と喋れないと仕事にならないんだし。


「いやー、ついつい懐かしくて着いて来ちゃったんだよね…なんで窓を開けてんのよ?」

 

「いや、お帰りはこちらです、みたいな」

 いくら初恋の幼馴染みとはいえ、幽霊に長居されたら困る。


「えー、もう少しいて良いでしょ?積もる話もある事だしさ」


「積もる話か…高校を卒業して福祉の専門学校に行って、潮騒にあるデイサービスで働いている位だな」

 俺の二十年なんて、簡単に省略すればこんな物である。


「短っ!?へー、介護の仕事してるんだ?なんか意外」


「そうだろうな。さてと」

 幽霊の向日葵と違い俺は生きている人間。


「譲、冷蔵庫を開けてどうしたの?」


「残り物を確認してんだよ…キムチと豚肉があるから豚キム丼でも作るか」

 先ずは豚肉とキムチを適当な大きさにカット。

 熱したフライパンに豚肉を入れて、脂をだしていく。

 色が変わったらキムチと混ぜて炒めれば完了。

 丼にご飯を持って、フライパンから豚キムをダイレクトに移動。

 後は発泡酒を着けて今日のディナーの完成。


「へー、あんた料理が出来る用になったんだ…って、なにお酒なんて飲んでの!!そんな事をしたら不良になるわよ」


「っくっー…うめぇ!!35才で不良なんて痛いから勘弁だな」

 キンキンに冷えた発泡酒を喉に流し込むと、喉に心地好い刺激を感じる。

 

「35才!?…そうか、もうそんなに経ったんだ。ところで私の分は?」


「あー、今キュウリかなんかを御供えしてやる。そして喜べ、塩と味噌もつけてやる」

 マヨネーズは卵入りだからアウトだろうし。


「えー、私も豚キム丼が食べたい」


「幽霊が豚キムを食べて良いのかよ」

 とりあえず俺の豚キム丼から小鉢に分けて玄関に置いてみた。


「ちょっと、これだけ?せこくない。それに玄関で食べろっての」


「贅沢な幽霊だな…昔みたいに勝手に上がれば良いだろ?それを食えたら新しく作ってやるから」

 俺のガリ○リ君ストックを何回も食い尽くした癖に。


「それが許可してもらわないと、上がれないみたいなのよ…いただきまーす!!辛いけど美味しい。譲、いつの間に料理を覚えたの?」


「15年も独り暮らしをしてれば自然と身に付くんだよ。前にグルホにもいたしな」

 不思議な事に向日葵が食べても豚キムの量は全く減らなかったが、味は極薄になっていた。


「私が死んで二十年も経ったんだ。そりゃ、譲もおじさんになるわよね…あっ、もしかして私が奥さんに見つかったら不味い?」


「おじさんになったけど、独身だから大丈夫だよ。この部屋に女が来るのも5年振りだし」

 久し振りに来た女が死んだ幼馴染みなんて笑えないけど。


「へー、その人って彼女だったりして」


「ああ、文字通り彼女だった人だよ。金持ちのリーマンに盗られたからボッチ生活さ」

 そりゃ、俺の倍近い給料を稼いでるから仕方がないけど…向こうの方がイケメンだったし。


「そっか、お仕事したりお酒飲んだり彼女が出来たり…譲も大人になったんだね」


「酒が飲めるから大人って事はないだろ?35才にもなれば気付けば大人になってるさ」

 向日葵はどこか寂しそうな顔をすると、いきなり立ち上がった。


「それじゃ、私帰るね」

 向日葵はそう言って窓に向かって行く。

 こいつは何をしてるんだ?

 向日葵は窓に体当たりをしては跳ね返され、また窓に体当たりをしては跳ね返されてを繰り返しいる。


「ガラス窓を認識できないハエの真似か?」


「うっさーい!!うぅ、上手くすり抜けれないよー」

 悔しいのか涙目になる幽霊の向日葵さん。

 そう言えば窓は幽霊に対して結界の役割を果たすらしい。


「ほれ、窓を開けてやるから。もう人間に捕まるんじゃないぞ」


「私は怪我をした小鳥か!!」

 悪態をつきながらも向日葵は夜空に消えて行った。

 真夏の不思議な夢だったんだろうか?

 温くなった発泡酒を流し込んでいると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「譲ー、私は貴方に取り憑いちゃったみたい」

 幽霊のお馴染みはギャン泣きしながら戻って来た…マジか!!


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