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レゾナンス・オンライン  作者: るみにーる
第一章【無響の門】
6/12

第六話『壱音の刃(いちおんのやいば)』

調律域の奥へ続く細い道は、

森の湿気をさらに濃くしたような空気に満ちていた。


草の匂いが重く、

土の湿り気が足裏にまとわりつく。

風はほとんど吹かず、

木々のざわめきも弱い。


——音が少ない。


それが逆に、

胸の奥の“壱音”を際立たせていた。


胸の中心で、

小さな波形が脈打っている。

それは心臓とは違う、

もっと静かで、もっと細い揺れ。


「……これが、俺の音階……」


自分の存在を示す最初の揺れ。

それを感じながら歩いていると、

突然、空気が震えた。


バサッ……!


木々の葉が揺れ、

湿った風が頬を撫でる。


「……来る」


視界の端に、

細い波形が走った。


草の揺れ。

空気の流れ。

地面の震え。


それらが重なり、

ひとつの“存在”を示していた。


——モンスターだ。


次の瞬間、

茂みが裂けた。


ギャアアアッ!!


甲高い鳴き声が空気を切り裂き、

胸の奥に鋭い痛みが走る。


《スクリーチ・リンクス(Lv7)》


猫科のような細身の獣。

だが、喉の奥で鳴る高周波が、

空気を震わせている。


「……音で攻撃してくるタイプか」


リンクスが跳んだ。

その動きは速く、

草を踏む音が鋭く波形となって広がる。


俺は横へ跳んだ。

だが、リンクスの爪が地面を抉り、

土が爆ぜる。


ギャアアッ!!


再び高周波。

耳の奥が痛む。

視界が揺れる。


「……っ……!」


無響は外からの音に強い。

だが、

高周波は別だ。


揺れが細かすぎて、

無響の“膜”をすり抜けてくる。


リンクスが再び跳んだ。

その軌道が、

波形として視界に浮かぶ。


——見える。


俺は泥を蹴り、

リンクスの懐へ滑り込んだ。


ナイフを構え、

胸の奥の“壱音”に意識を向ける。


「……鳴れ……!」


胸の奥の波形が震え、

空気へと広がる。


ふるり……


淡い揺れが、

ナイフの刃へ伝わった。


次の瞬間——


ザシュッ!!


リンクスの身体に、

小さな波形が走った。


《壱音発動:揺律刃ようりつじん

 追加ダメージ+12》


「……っ……!」


リンクスが悲鳴を上げ、

後退する。


ナイフの刃が、

微かに震えていた。


——壱音が刃に乗った。


「……これが、音の力……」


だが、

リンクスはまだ動ける。


草を踏む音が波形となり、

その揺れが俺の視界に広がる。


リンクスが跳んだ。

その軌道が見える。


俺は横へ跳び、

再びナイフを構えた。


胸の奥の壱音が震える。

その揺れを刃へ乗せる。


「……っ……!」


ザシュッ!!


リンクスが倒れた。

その身体が粒子となって消えていく。


湿った土の匂いが残り、

風がわずかに吹いた。


《スクリーチ・リンクスを撃破しました

 経験値+120

 壱音熟練度+1》


俺は息を吐き、

ナイフを下ろした。


「……壱音、使えるじゃん……」


だがその瞬間——


視界が揺れた。


「……っ……!」


胸の奥の壱音が、

暴れるように震えた。


波形が乱れ、

世界の揺れが視界に流れ込む。


——まただ。


無響の副作用。

音の揺れを拾いすぎる。


「……落ち着け……!」


胸に手を当て、

壱音を抑え込むように意識する。


だが、

揺れは止まらない。


そのとき——


「無響よ。

 それが“壱音の暴走”だ」


ローブの人物が現れた。


音もなく、

気配もなく、

ただ“存在だけ”がそこにある。


「壱音は弱い。

 だが、弱いからこそ不安定だ。

 揺れが乱れれば、

 お前の存在はまた薄まる」


ローブの人物は、

俺の胸に触れた。


その瞬間、

壱音が静かに収束した。


「……っ……助かった……」


ローブの人物は言った。


「無響よ。

 お前はまだ“音を扱う資格”を持たない。

 だが、壱音を得たことで、

 ようやく“門の前”に立った」


ローブの人物が、

調律域の奥を指差した。


そこには、

薄い霧に包まれた道が続いていた。


「この先へ進めば、

 第一章は終わる。

 そして——

 お前は第二章へ入る」


胸の奥の壱音が、

静かに震えた。


湿った風が吹き、

草が揺れ、

その揺れが波形となって視界に広がる。


俺は深く息を吸い、

その道へ足を踏み出した。


——静寂の門を越えるために。

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