9.爆破系メイド
次の時間は、自己紹介がてらの模擬戦となった。まぁみんな自己紹介せずとも、平民枠の人以外は名前は知ってるくらいの感覚だろう。だってほぼ貴族だし。
僕は全然知らん。どれがどれで、誰がどのくらいの地位の貴族なのかも分からん。だから多分威張ってる奴が1番偉いんだろうという浅はかすぎる考えで、僕が目につけたのは青髪の青年。
ハンスよりは威張ってる感も無いが、明らかに俺1番偉いオーラが満々だ。しっかりも取り巻きもいるし。リネに聞いてみることに。
「リネ。あの青髪の人はどこの人?」
「あの方はべシア侯爵家の次男、ルイーガ・べシア様です」
「侯爵家? てことは僕より下?」
「いやレオン様? ラオ公爵家は王家にほぼ直結しているレベルの貴族なのですよ? ここにいる大体の貴族は下です」
「ほえー……やっぱ凄いんだ」
改めて父上の凄さを感じる。まぁ古参名門らしいし、父上というよりは前の人が凄いんだろうけど。しかしその地位をしっかりと受け継いでいるというのは、しっかり凄いことだろう。
しかし僕って、結構遠慮してる方だよね。だって前任者だったら多分、オラオラしてみんなを威嚇してる風景が目に浮かぶもん。反発した奴は全員剣で跪かせてそう。
「よーしお前ら。今から俺が適当にお前らを2人1組に分ける。そのペアで模擬戦だ。間違っても殺すなよ」
先生がほんとに適当にペア分けして、リネのペアはなんと話に出ていたルイーガに。ルイーガはリネを舐めていると思う。だってリネは、普通に平民枠だ。ラオ公爵家に仕えているなんて情報は、どこにも入っていない。
ただリネを舐めてると大変なことになる気がする。リネが戦うところなんて想像もつかないけれど、彼女はメイドだ。それもラオ家に仕えるくらいの優秀さを持つ。戦闘程度楽にこなせるだろう。
そして僕のペアはというと……。
「……」
「えと……よろしくね?」
「ん……私、ミョルニル」
「あ、僕はレオンハルト・フォン・ラオです。よろしくミョルニルさん」
「……公爵家なのに平民にさんを付けるのも、敬語も変。むずむずするからやめて」
「え? あ、わかった……」
短い緑髪でレモン色の瞳が映える小柄な少女、ミョルニルさん。無口な方なのか、はたまた口数が少ない方なのか、ものすごく淡白だ。
しかしミョルニルか。前世の記憶がある僕からすれば、思い浮かぶのは一つ。ズバリ雷神トールの持つ鉄槌。僕は北欧神話はめちゃくちゃエアプだけど、日本に住んでたからサブカルで物凄く目にする事があった。トールも、なんならミョルニルも擬人化してた。
今思っても日本ってすごい国だよね。神様をゲームに出すまでならともかく、女体化とかさせるとこもあったし。武器も擬人化した挙句女体化してたし。流石表現の自由を体現した国。
「……?」
「あぁごめん! 考え事してた」
「噂に聞いてた感じじゃ無い」
「あぁ……」
「もっと乱雑で、荒っぽいのかと」
あのバカ前任者の事は、何故平民にまで噂が広まっているのだろう。でもまぁオルフェウス兄さんが多分世界的に有名な人っぽいし、仕方ないのかなぁ。
ダリ先生や騎士団の人たちが家庭教師に来てくれていたのも、多分オルフェウス兄さんのおかげ。父上と母上がそんな根回しする訳ない。だから前任者も嫌うに嫌えなかった。
「……でも私は貴方の詳細はよく分からない。平民だから」
「平民かぁ……僕も平民が良かった……」
貴族は嫌だ。この半年で思った事はそれだけだ。立ち回りも、体裁もめんどくさい。そんな小難しいことばっかり考えず、ただ楽しく人生を謳歌したい。
まぁそんなこと言っても叶わない願いだ。父上が僕を追放すれば叶うけれど、兄さんがそれを許さない筈。
「はい次。ルイーガとリネ、はいスタート」
とかやり取りしてるうちに早くもリネとルイーガのターンに。リネが戦うの初めて見る。楽しみだ。
確か爆破魔法に適性があるんだったよな。爆破魔法は僕も使えるけど、リネがどう使うのか注目だ。
「はっ。おい貴様。私は優しいから、一撃貰ってやろう」
「ハンデということですか?」
「ああ。来い」
「良いのですか? ハンデで……死ぬ事になりますよ」
瞬間、リネの綺麗な指パッチンの音が響いた。そこからタイムラグ無くルイーガの足元が連鎖爆発を起こした。小さな爆発から、大きな爆発へ。全く警戒をせず防御すらしてなかったイルーガ。ワンチャン死んだ。
と思ったが、あのリネが模擬戦で人を殺すなんてことをするわけが無いとふと冷静になる。火力調節はしてる場だ。多分……。
「あ、やりすぎました」
(あっこれ調節してねえかも!)
そう思った瞬間爆煙から、勢いよく飛び出してきたのはボロカスのイルーガ。なんとかあの連鎖爆発を耐えたようだ。なんというタフネス、なんというど根性。
そしてリネの懐に潜り込み、決死の一撃を放つため手のひらをリネの腹部に当てる。
「貴様ァ!! 許さん!!」
「一撃入れていいと仰られたのはイルーガ様ですよ。私は何もルール違反はしておりません」
「黙れ! この一撃でお前を殺……」
「私の周り、よく爆発致しますよ」
「なっ……」
「『連爆』」
リネの周りがまた一度爆発した後、連鎖してボカンボカンと連続で爆発していく。爆風と煙で何も見えないが、リネは無事なのだろうか。そしてイルーガを殺してないだろうか。
煙が晴れて目に映ったのは、傷一つ無いリネの目の前で首を垂れて気絶しているイルーガ。それを見てリネはふんと息を吐いた後、クルッと踵を返して僕の方にトコトコ歩いてきた。
「レオン様。やはり噂だけの男でした」
「あ……あぁ……そーみたいだね……」
「私の爆発でやられるくらいですし……レオン様なら普通に倒せますね」
いやあの爆発はだいぶとグロかったよリネ。救護班が急いでイルーガに回復魔法をかけて、啖呵で運んでいる姿を見て僕は心の中でそう思った。




