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4.通過され新たに挑む

 転生して半年が経過した。完全に僕のキャラは定着して、『レオンハルト様が綺麗になった』と屋敷内で噂になっていたのもすっかり落ち着いた。

 なんなら屋敷の従者全体で『レオン様は元からこんな感じだった』という記憶改竄すら行われていて、若干前任者に申し訳ない気持ちもある。

 でもそれは所詮屋敷内の従者間での評価。それに父上母上は忙しいから、従者のそんな話に耳を傾けない。だから二人は、僕が魔法に適性があることなんて知らない。あの二人のレオンハルトという人間への印象は未だ『魔法に適正の無い出来損ないの次男』というもの。


「うーん……半年間魔法を1日100回は放つのを続けてるから、成長してるのは感じるんだけどなぁ」


 実際肌で感じる変化はある。同じ魔法でも半年前より威力が少し上がったり、魔力の量が多くなってる感覚がしたり。あとは身体がようやく魔力の変動に慣れた。酔ったり疲れたりすることが無くなって、快適ったらありゃしない。

 ダリ先生も、家庭教師の日を楽しみにしてくれているらしくて僕も嬉しい。先生の教え方は本当に上手いし、何より優しい。出来ないことが前提、できるように進めるという教え方は、僕の肌に合ってる。

 オルフェウス兄さんにそれを言ったら、『私にも合っていたから、私たち兄弟で似ているね』とのこと。オルフェウス兄さんも優しいよって言いたかったけど、直ぐに何処かに行ってしまって言いそびれた。


 そんな快適な転生ライフを送っていたある日、僕は突然父上から呼び出された。いつも忙しく、僕の事なんて相手にしない父上がいきなりどうしたのだろう。

 父上の部屋に入ると、オルフェウス兄さんもいた。なんだ? なんか険悪な雰囲気が漂ってるけど……。


「来たかレオンハルト」

「何でしょうか父上?」

「お前を魔法学園へ行かせる話だが、つい先日学長と話がついた。一ヶ月後にここを出ろ」

「父上……私は反対します」

「オルフェウス。次期当主とはいえ、現当主は私だ。私の意思決定に文句を垂れるな。むしろこの出来損ないの、ラオ家の汚点のような息子に救いの手を差し出しているだけ温情を持っていると思え」


 また一段と空気が張り詰める。オルフェウス兄さんと父上の睨み合い。常人ならその場の重力で土下座でもできそうなくらい重い空気感だけど、僕の処遇でこうなってるんだよね。

 僕はといえば、そんな話あったんだくらいの感覚。でも確かに日記にそんなこと書いてあった気がしないでもない。魔法学園かぁ……楽しそうすぎない?


「父上。貴方はこの半年でレオンの何を見ましたか。この180度変わったと言ってもいいレオンの何を」

「そんな事は関係ない。レオンハルトの中身や言動が変わったにしろ、出来損ないに変わりはないんだ」

「……はぁ……もういいです」


 オルフェウス兄さんはそう言って部屋を出て行った。横切っていった兄さんの顔はとても悔しそうで、ギシギシと音を立てそうなくらい歯を噛み締めていた。

 僕もすぐに部屋を出て、自分の部屋に帰る。部屋の中を見ると、リネが僕の荷物をもうまとめていた。いや早い早いリネ。早過ぎるって。


「リネ……相変わらず色々と早いね」

「……レオン様」

「なに?」


 震える手で僕の服を握りしめているリネ。近くに歩いていくと、ドスっと胸に突撃された。結構な勢いだったので、勢いを殺しきれずその場に倒れ込んだ。


「いてて……ど、どしたのリネ?」

「……嫌です」

「何が?」

「私は……レオン様と離れたくありません!」


 顔を上げたリネの瞳には、大粒の涙が溜まっていた。兄さんと同じような顔で、綺麗な唇から血が出そうなほど深く噛み締めている。

 離れたくないという言葉の真意を理解できず、頭にハテナマークを浮かべていると、リネはとんでもないことを言い出した。


「私もレオン様にお付きし、魔法学園に入ります」

「はぁ!? いやっ何もそこまでしなくても!」

「嫌です! 私の人生はもう貴方様に捧げたも同然……主人がいない従者になんて……価値がありません……!」

「……」


 いつも穏やかで、凛としているリネからは想像もつかないほどに鬼気迫る表情で、僕にそう言うリネの姿に、何も言えなくなった。

 前任者の日記にあった。リネは唯一あてがわれた従者。他の従者とは違って、自分を落ちこぼれなんて目で見ないでくれる。そんなリネは自分がいなくなった時、どうするのだろうと。

 まさか自分もついていくなんて言い出すとは思いもしなかっただろう。だってリネは僕の従者である前に、父上に雇用されている。その行為は、雇用主を無視する事になるのだ。


「でも……そーだよね」

「……」

「そんな理屈捏ねても聞かないもんねリネは。僕の事になるとすんごく強情だし」


 この半年でリネという人間を、僕はどれほど理解できているのかはわからない。それでも僕は、主人として間違っている選択をしたいと思った。


「一緒に出ようか」

「……はい。どこまでも、ご一緒に」


 転生した僕の長い長い人生は、半年間のプロローグを静かに終えた。そして盛大に第一章の号砲が鳴らされたのだ。

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