4.魔術
転生してから一週間が経った。僕は割りかしこの生活に順応するのが早かった。というより、リネが僕の手となり足となりとにかく僕のために動きまくってくれたおかげとも言える。
剣の家庭教師の先生たちは、みんな僕の剣を見て「なんでこんな事に?」という感じの反応をする。言いたい事はなんとなく分かる。剣の腕も無くなったら、本当に落ちこぼれでは無いかと言いたいんだろう。
僕だってそう思う。でもワンチャン魔法が使えるかもしれないじゃないか。だって身体はレオンハルトでも、魂は伊藤零夜なのだから。
「おはよう御座います……えと……ダリ先生」
「おはようございますレオンハルト様。少々記憶が混濁していらっしゃるとお聞きしました。大丈夫でございますか?」
「はい。色々忘れてしまいましたけど……」
「……本当に記憶が混濁しておられるのですね。私の知るレオンハルト様とは何もかもが……」
この人が魔法の家庭教師のダリ・サルーン先生。会うのは初めてだけど、リネに前日どんな人なのか教えてもらっていた。曰く、ものすごく優しい人らしい。前任者の時から寄り添って魔法を教えてくれていたとのこと。
ダリ先生は王宮魔法使いという魔法使いの中で最も位の高い人らしい。勿論そんな人が家庭教師に来てくれているのは、ラオ家が名門なおかげ。
あとはやっぱり兄上の影響もあるのかもしれない。ダリ先生は小さい頃から兄上の才覚を見抜いていたようで。だから弟の僕、レオンハルトも辛抱強く教えればいずれ……という感じだそうだ。
「魔法はイメージが重要です。水を生み出す、植物を生やす、炎を着火させる。全ては明確なイメージが無ければ、発動もできませぬ」
「イメージ……イメージ……」
「手のひらを掲げて、イメージしてください。その手のひらから放たれる水の球を」
「水の球……水……」
僕は前世で沢山の異世界転生ものや、異世界物を見てきた。魔法を使う想像だって中学の時にしていた。イメージが重要というのは、なんとなく理解できる。
水。魔力を練って、それを手のひらの前で球状に形作る。でもそれじゃあただの魔力の塊。それをさらに水に変換する。地面から湖が湧き出る感覚で……噴水みたいに噴き上がって溜まった水が勢いよく射出される感覚で放つ……。
「……水の……球……」
「お……おおお……!」
「そこから……放つ……!」
手のひらから勢いよく水の球が射出される。的として用意した木の人形が当たった瞬間炸裂して、半壊した。
放てた……な。結構簡単に。前世のモノでのイメージは強い。というより想像力次第だなこれは。前世で厨二病経験者で良かったと初めて思った。
ふぃぃと息を吐いてからダリ先生の方に向き直ると、ものすごくキラキラした目をしていた。そして俺の手を取り、ブンブンと勢いよく振り始めた。
「レオンハルト様! それでございます! その感覚で御座います!」
「え? あ、あぁ……魔法?」
「し、しかし……レオンハルト様は魔法に適性がそこまで無いはず……何故いきなり……?」
僕はどうやら前任者と真逆の適正らしい。前任者は剣術、僕は魔術にそれぞれ適性が振れている。転生してどっちも神レベルになる〜とかいうご都合展開はまぁ無かったけど、身体は一つだし実質どっちにも適性があるってカウントでいいだろう。
しかし魔法を放ったらちょっと疲れた。これは多分魔力が消費されたからかな。でも前任者が魔法の適性がなかったのを考えると、魔力もそこまで無いんじゃ。
そう思ったが、そこまで魔力が消費されている感覚はしない。身体が魔力消費に慣れてないせいで、ちょっと疲れているだけかもしれない。
「ま、まぁ……記憶のアレのせいかも?」
「……ふむぅ……まぁ今のレオンハルト様は前のレオンハルト様とは似ても似つきませぬし……」
納得するんだこの理由で。どれだけ前任者の時のレオンハルトは僕と違ったんだ。まぁ適正の真逆さで大体分かるが。
そこからは簡単な魔法の勉強、もとい放つ方法を教えてもらった。教え方がいいからかすぐにマスターすることができた。
それともう一つ教えられたのは、この世界の人間には魔力回路という器官が存在すること。
文字通り放つ魔法に魔力を通す回路。これが細いと通せる魔力が少なくなって、弱い威力の魔法しか放てない。逆に太いと通せる魔力が多くなって、強い威力の魔法が放てるようになる。当然太い方が魔力量の多い魔法も放つことができる。
魔力回路は生まれつき太いといいらしいが、魔法を使えば使うほど鍛えられるようだ。これはいい事を聞いた。
「つまり僕はこれから沢山魔法を使って、回路を太くすればいいということ?」
「で、あります。私が来ない日も沢山放ち続けてください。努力は、天賦の才能を喰らう唯一のものでございますよ」
「よ〜し……!」
頑張ろう。落ちこぼれとかなんとか思ってる父上を見返してやる。もちろん前任者の分まで。




