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3.お前は僕、僕はお前

 僕は早急に対策を講じる事にした。まずはリネに僕は若干記憶が無くなっていると説明。だから様子がおかしかったのかとすぐ納得してくれた。

 その事は父上にも当然知らされる……筈なのだが、僕が無理を言って秘密にしてほしいとお願いした。リネは少し驚いた表情をしてから分かりましたと了承してくれた。

 ここまでが夕方までの出来事。今の僕はというと、庭に出て少し前世のことで考え事をしていた。僕が鉄骨から助けた幼馴染の女の子、羊宮奈乃(ようみやなの)は無事なのだろうか。僕は家族はいないから、僕が死んだことを悲しむのなんて奈乃くらいだし。奈乃には悪いことをしちゃったかも。一人置いてけぼりにしちゃった訳だしなぁ。


「はぁ……」

「何を暗い顔をしているんだ?」

「っ!」

「レオンよ。どうした」


 誰だろうか。ものすごいイケメンだ。というか僕に似ている。レオンハルトにかなり瓜二つだ。違う点と言えば、金髪なところと服の装飾が凄いところか。


「……あぁ。そうだったな。今のお前は記憶喪失だったな」

「え!?」

「リネが教えてくれたのだ。私は実兄だからな」

「……あ……! オルフェウス兄さん……?」

「そうだ。私はお前の兄、オルフェウス・フォン・ラオだ。よろしく頼む」


 確か前任者の日記にあったはずだ。兄貴はすごいやら、オルフェウス兄さんが褒めてくれたとか。この家の次期当主で、魔法も剣も凄いらしいのに前任者を無碍に扱っていなかったらしい。

 確かに優しそうなお兄ちゃんっぽい雰囲気が滲み出ている。威厳の中にある確かな包容力。僕の頭を撫でながら隣に座るその姿に安心感を覚える。


「記憶を無くしたのなら、新たに刻まなければな。私が偉大な兄という事を」

「……ふふ……兄さんは意外とナルシストなの?」

「失礼な。事実を言っているまでだ」

「そっかぁ……」


 親しみやす過ぎる。父上の様な威圧感も無ければ、エランさんのような過度な期待感も無い。普通の兄弟の距離感を保っている。

 こんな兄を持っていても荒むほど前任者の精神状態はギリギリだったのか。僕が代わりにしっかり君として生きてやるからな。ゆっくり休め前任者。


「オルフェウス様。エウリュ様がお見えになられました」

「む……もうそんな時間か。すまないレオン、私はもう行かなくてはならない」

「ありがとう兄さん! がんばれ!」

「……ああ」


 何をしに行くかは分からないけれど、とりあえず頑張れと言っておけば勇気が湧くだろう。浅はかだけど、これが必勝法だ。

 兄さんが兄さんのお付きのメイドさんと一緒にどこかへ行った後も、少し庭でのんびりしていたが、数分もすればリネがやって来て、食事の時間だと僕を呼びに来てくれた。

 食堂で食べてみたいとリネに言うと、めちゃくちゃ困惑した表情を浮かべていた。まるで「え、この人マジで記憶失くしてるじゃん」って感じの。


「ほ、ほんとによろしいのですか?」

「なんで?」

「……旦那様と奥様がいらっしゃるので」

「あー……」


 リネが躊躇った理由が一瞬で分かった。多分父上と母上は、前任のレオンハルトに対して相当ネチネチしてたんだろう。

 リネも当然それを見るだろうし、自分が仕えている人がそんな風に扱われているのは、見ていて気分がいいものでは無いだろう。


《だから基本、俺は部屋で飯を食ってる》

(成程なぁ……ってお前だよ! 誰だお前!)

《あーん? まだ気付かねえのかよ鈍いな》

(いや割と察しはついとる!)


 また頭に響く謎の声。しかし今回は逸らさないぞと言わんばかりに僕はしっかりと食いついていった。

 リネには一旦部屋に戻るよと一言だけ告げてからすぐに部屋に行く。勢いよくドアを開けてすぐ閉める。よし、これで邪魔は入らない。存分に会話ができるぞ脳内の幻聴よ。


《まぁもう大体分かってんだろーけど、俺はレオンハルト・フォン・ラオだ。お前が入ってる体の元々の持ち主だな》

(やっぱりか! てか身体の中にいるなら僕と変わればいいだろ!)

《ヤだね。せっかく他人にこの立場を押し付けられたんだから。つーかテメェがいきなし入ってきたんだろうが》

(そーでした)


 というか本当にこの生活が嫌だったんだな。若干同情してしまうが、その嫌な生活を他人に押しつけているのはどうかと思う。勝手に僕が身体に入ったんだろうと言われたらそれまでだけど。


《暫くはこのままでいさせてもらうわ。身体は貸しといてやるよ》

(そりゃどーも)

《ま、気分で入れ替わることもあるかもだから気ぃ張っとけよ》

(なんとも身勝手な……)


 前任者は恐ろしいくらい自己中心で、恐ろしいくらい身勝手な男だった。まぁ身体を借りとく許可は貰ったので、あとは好き勝手させてもらおう。

 頭の中で前任者の気配も消えたので、意識を現実の方に戻す。見慣れない部屋だ。転生一日目だから仕方ないかもしれないが、こんな洋風な部屋が自室と言われても違和感しか無い。僕の部屋はもっと普通で、机に本棚とベッドしかない感じなのに。

 はぁと息を吐いてから部屋を出る。死んで転生したらまさかのトンデモ二重人格生活が始まるなんて、一ミリも思ってなかったよ。

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