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19.白金の錬金術師

「リネさんとレオンくんって、ただならぬ関係?」

「違いますけど」

「私とレオン様は従者と主。それ以上ではございません」


 急にどうしたこの人。恋バナ好きな女子の魂が抑えきれていない。初対面からそんなに経っていないというのに、めちゃくちゃ踏み込んでくる人だ。

 廊下を三人で歩いていて、取り敢えずコロッセオを目指している道中。しかし今コロッセオに行ったとて、やる事がないのだ。交流会は今盛り上がりが最高潮まで行っているだろうけど、僕はもう役目を終えたのだから。

 そんな事を思っていると、ヘルメスさんが急に曲がって教室のドアを開けた。


「?」

「ん? あっここ私の教室。貸切になってるんだ」

「え!? 教室ひとつ丸々!?」

「ふふん。なにせ私の階級は白金(プラチナム)。最高ランクの錬金術師なのだ」

「ぷらちなむ……?」


 よくわからないが、多分めっちゃすごいんだろう。最高ランクって言ってるし。隣のリネが口を手で押さえていい反応をしているあたり、マジですごいんだな。

 聞く話によると、錬金術師は下から(アイアン)(シルバー)(ゴールド)希鉄(レアメタル)白金(プラチナム)真鍮(オリハルコン)といった感じにランク付けされているらしい。母体数が少ないのにランク付けなんてしてるのか。

 そしてヘルメスさんは上から2番目の白金(プラチナム)。とどのつまりめちゃくちゃ凄いし、この学園唯一の錬金術師という事で特別待遇を受けているというわけだ。


「教室一つ丸々貰えるとは思わなかったけどね。はいお紅茶です。茶葉は普通だけど」

「ここで何してるんですか?」

「錬金術の勉強と訓練かな。今の夢はオリハルコンの錬金!」

「オリハルコン……ほとんど市場にも出回らない幻の鉱石ですが……確かに錬金術師ならば、量産は可能でございますね」


 オリハルコンかぁ。めちゃくちゃ綺麗で硬度も凄まじい鉱石界の神。というのは前世のアニメや小説でよくある設定。

 実際の鉱石の神様はダイヤやそこらだろうけど、オリハルコンがあるのであればオリハルコンになるであろう。神が与えた幻の鉱石……ロマンがある。


「錬金術師は元来、珍しい鉱石を錬金して武具や装飾品の素材として提供するのが祖。ポーションを作ったのは、ただの気まぐれ」

「気まぐれで歴史を変えたのか……」

「凄いでしょ」


 ニヒッと笑って僕を見るヘルメスさん。琥珀色の大きな瞳が、僕の琥珀色の瞳を捉える。まるで僕の中にいるもう一人の人間に自慢するように。

 リネがゲホンと咳払いして、僕たちを現世に戻す。サンキューリッネ。


「まぁ、私がやってるのはポーションも鉱石もどっちもだね。あとは物質の変換」

「物質の変換?」

「そうっ。じゃあそうだね……岩魔法で手のひら大の石ころ出してくれる?」

「えっ? はい分かりました」


 差し出された手のひらに、『岩石(ロックロック)』で丁度手のひら大くらいの石ころを生成する。その石ころをポーンと上に投げてから、ヘルメスさんは両手でその石ころを握り始めた。

 瞬間、石ころに魔力が稲妻のように駆け巡ったのが見えた。まるで筋繊維のようにその組織一本一本に魔力を通し、細胞を取り替えるように性質を変え始める。


「すご……」

「……綺麗です」


 石ころがうねりながら形を変え、キラキラと光り始める。どんどんと大きさは小さくなるが、その価値はどんどんと膨れ上がっていく。最後は手のひらに収まるほどに小さくなって、最後はギュッとヘルメスさんが圧縮した。

 被せていた右の手のひらを開くと、そこには一切の不純物も存在しない綺麗なダイヤモンドがあった。何カラットあるのかと思うほどに、ダイヤにしては大きい。


「これが錬金術の物質変換、『変換(エボリューション)』だね」

「すご! めっちゃ綺麗!」

「はい……もの凄いです……」

「等価交換でめちゃくちゃ魔力食うしちょっと体痛くなるのが問題だけど……えへへ」


 得意げに笑うヘルメスさんから出た単語。等価交換。やはり錬金術師からは避けて通れないモノか。石をダイヤにしてるくらいだからエグい代償があるのかと思っていたけど、魔力を莫大に消費する程度らしい。

 でもこればっかりは魔力回路の太さでどうこうなる問題でもなさそう。単純な魔力量の多さと、錬金術の練度の高さが主になってきそうだ。


「石をダイヤにするのは簡単なのですか?」

「んまー慣れればかな。マニュアル通りにやればいいだけだからね。難しいのは物質の構築!」

「構築まで出来るんですか!?」

「出来ちゃうのです」


 腕を組み胸をドーンと張るヘルメスさん。

 でかいな。何がとは言わないけど。スレンダーなリネと、ロリ系統のミョルニルさんとしか絡んでないせいで感覚が死んでるのか。

 いやでかいよねこれ絶対。制服のボタンが悲鳴を上げている。

 リネが手の甲をつねってきた。ツーンとした痛みが全身に響く。リネを見るとジトーっと僕を睨んできた。仕方ないじゃん思春期なんだから。


「簡単に言うと魔法の下位互換みたいな感じにはなっちゃうんだけどね。無機物をゼロから生成するの」

「鉱石とかって事ですか?」

「うん。ただ禁忌の錬金術には人間の構築だったりもあるよ。人体錬成ってやつかな」

「あぁ。手とか持ってかれる」

「そうそう! 伝聞にはその等価交換で錬金術師側が死んだとかの事例もあるんだよ〜怖いよね」


 やっぱりいるのかよ……人体錬成目論んで死んだやつ……。

 錬金術師、魔法使いと一緒で前世のイメージまんまだ。この世界はテンプレに忠実で助かるねほんと。

 そんな感じで三人でワイワイ錬金術を楽しんでいると、教室のドアがバンッ! と勢いよく開いた。


「いた! ヘルメス!」

「げ……アポロン……」

「あぽろん?」

「アポロン・テラ・オリュン様。侯爵家の嫡男様で、ヘルメス様の婚約者様です」


 婚約者……婚約者ねはいはい……。


「え?」

「貴方、魔法学園代表に選ばれたんじゃなかったの?」

「もう僕の出番は終わったさ! 君がコロッセオの何処にもいなくて心配していたんだよ!」

「過保護でうざいー」


 ……婚約者ぁ!?!?


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