16.激化
ふぅと息を吐く。重ねがけも見せたし、僕のびっくりパンチはこれで在庫切れだ。そもそもここ一ヶ月半ずっとコレを特訓してたから、他の独学に手をつけてなかった。
しかし初見びっくりパンチ無しで、魔法すら簡単に斬り刻むレウコユムさんに勝てるのだろうか。魔法普通斬れない筈なんだけど。二人で間合いを図りながら、横に歩く。さながら佐々木小次郎と宮本武蔵の如し。
「レオンハルト・フォン・ラオ……アレからの報告では、やはり魔法は使えないと聞いていたが……」
「アレ?」
「私が引きずってきた奴だ」
「あぁ……」
あの人そんな事報告してたのか。でもあの時あの人と対峙していたのはタナトス。そりゃ魔法使えないし、情報の間違いがあっても仕方ない。
ただ『レオンハルトは魔法を使えない』というのはもはや噂で聞いたという事を飛び越え、当たり前の事実みたいになってる節もある。だから毎回びっくりされるのだ。
「まぁいい。公爵家、それも魔法使いとなっては躊躇う理由も無い。斬り伏せるのみだ」
「騎士っていうのはどんだけ魔法使いが嫌いなの……」
「貴様ら貴族が騎士や平民をバカにしなければいい話だ!」
(しまった反応遅れた!)
一瞬の隙を逃さず、レウコユムさんが僕の懐に潜り込む。『電荷』の光速移動で逃げることも考えたが、起動を読まれたら終わる。
ならばここは博打だ。共倒れになる覚悟でこいつをぶち込んでやる。魔力を内側に一瞬で溜め込み、着火させる。
「睡れ……!?」
「『烈爆』」
自分を起点として、大爆発が起こった。いわゆる自爆というもの。内側から爆発して、口から煙が出そうな程僕にダメージが入る。
しかし相手にもしっかりとダメージは入ったようで、レウコユムさんはバッと後ろにジャンプして後退した。
爆破適性では無いから、リネ程のダメージは入っていないだろうけれど爆破魔法自体、火力特化魔法だ。そりゃダメージ入ってくれないと。
「ゲホッゲホッ! あなた……正気?」
「あいにく近接が不得意だからさ……こうするしか無いの」
「……ぶっ飛んでるわね」
「そりゃどーも」
再び一定の距離が取られた僕とレウコユムさん。僕は左手を再び相手に向け、魔力を流す。今度は『射』の形を軸に、氷の要素を加える。そこからその『射』を強化する。
「『強化』、『三重掛』」
「斬る」
相手も剣を構え、僕の魔法を待っている。ならばお見舞いしなければ。
「『氷重射』」
「ふっ……『睡蓮花』」
レウコユム僕の放った魔法に一直線で向かっていき、十字に斬りにかかる。しかしそのパターンはさっき普通の『射』の時に見た。
僕は左手の指をクンッと少し左に動かす。すると魔法はグッと左に曲がり、レウコユムさんの剣をすり抜けた。そのままグルッと回転して背中側を強襲する。
「なっ……!?」
「『変化射』」
レウコユムさんは変化に対応出来ず、そのまま背中に『氷重射』を喰らった。『強化』を三重掛けしているんだ。それを無防備な背中に喰らったら、ダメージは相当入るはず。
レウコユムさんは両の膝から崩れ落ちかけたが、なんとか片膝のみで止まる。しかし剣を地面に突き立ててなんとか保っている状態だ。
「おどろい……た……。ただの『射』のみでここまで追い込まれるとは……」
「魔法はイメージ。考えて深掘れば掘るほど、色々と見えてくるんだよ」
「ははっ……それは……」
「大層なことだ」
「……は」
いつの間にか後ろに存在した大きな男に全く気付かず、僕は振りかぶられた大剣の横撫でを受け切れず思い切り吹っ飛んだ。コロッセオの中心辺りから一気に端の壁まで飛ばされ、何が何だか分からなくなる。
そもそも一対一じゃなかったの。あれは誰。鉢巻きをしていて、長めの茶髪。屈強な肉体だ。レウコユムさんとは真反対。豪傑って感じ。
「……ジーク……貴様何故いる」
「ふん。魔法使い相手、元々騎士は不利なのだ。だから我らは二人でも構わんだろう」
「ふざけるな……これは私の勝負だ! 一対一の決闘に手を出すな……!」
「……これは決闘ではない。魔法使いを我らが蹂躙する、好奇だ」
大きな剣の切先をこちらに向けてくる。レウコユムさんは片膝をつきつつその男に文句を垂れている。しかし男の言ってることの意味が分からない。
(どゆこと……)
《まぁ魔法学園サイドからすれば交流程度だろうが、向こうからすれば……》
(なるほど……魔法使い蹂躙タイムってこと……)
《だからあいつらからすりゃ一対一なんて最初から拘りがねーんだろうよ。特に余興担当の一年は特にな》
今思い出した。一年生は余興担当。だからこれも盛り上がるのならば容認されるのだろう。そもそも本来レウコユムさんが相手ではなかったんだろうし。
立ち上がろうとするものの、不意打ちだったせいでダメージが大きい。頭からダラっと気持ち悪い感覚もする。
「レウコユム。貴様は貴族が憎いのだろう。ならばあの公爵家の者は格好の餌食だ」
「……はっ! それはそうだが……」
「それに貴様は先ほど完璧に負けた。それを私が助けたのだ。感謝し、そして次こそあやつを殺す」
「はぁ……気は乗らないが……貴族相手だ。今日は容認しよう」
うっそだぁ……。容認しないでよぉ。そこに騎士のプライドはないんか。
まずいなぁ。流石に二体一は分が悪すぎるし、二人が騎士なのも問題だ。レウコユムさん一人でも割と頑張って対応してたくらいなのに、二人は無理だ。そもそも今立てないし。
《まぁ〜よく頑張ったんじゃねえか? 不慣れな騎士相手に》
(まぁ僕、戦闘とかほぼやったことないもん……前まで普通の人だったんだから)
《レイヤの出自はまぁ知らねーけど……まー任せろ。一旦お前は休んどけ》
タナトスの声がどんどんと遠ざかる。そして僕の意識がブツリと途切れた。
「はぁっ! 『水蘭』!」
「『大剛斬』」
「ぬりぃ」
デカブツの大振りな切り下ろしを剣で受け、女の八連撃を鞘で捌く。成程。男の方は雑で力任せ、女の方は型にハマっていて綺麗なだけか。
「なっ……」
「剣を抜く? 魔法使いが?」
「あ? 俺のこと知らねーのかテメェらはよ」
受けていた大剣を流し、その刀身を踏みつけ地面に思い切り突き刺す。女の方は剣を握っている方の手を鞘で思い切り殴り握力が無くす。
左手に持った剣で男の胸をバッテンに斬った後、右に持ち替えて女を突き刺す。しかし寸前で反応され距離を取られた。
「なっ……」
「貴様……」
「レオンハルト・フォン・ラオって聞いた事ねぇか? 有名だって自負はあんだけどな」
「ごっ……は……!?」
「あぁすまんすまん。ちょっと邪魔だ!」
目の前の男の横腹を鞘で思い切り殴り、回転前蹴りで目の前から退かす。踏んでいた大剣を握って、相手の方に投げて返してやる。
鞘も腰に直し、剣を左に持ち替えてから相手を見る。女の方は騎士学園の次席とか言ってたからどんなもんかと思ったが、やっぱレイヤがなんとか出来ちまう程度だな。
男の方はさっきの剣一振りでわかった。雑、大雑把。あんなんで良くもまぁ騎士学園の生徒を名乗れるな。奇襲で喰らっちまったのは仕方ねーけど、レイヤはあれくらい捌けるようになって欲しいな。
「貴様……」
「先ほどまで魔法を使っていた。剣を使う素振りなんて……」
「あー? あー……幻覚なんじゃね?」
さて。あいつらの要望通り、蹂躙に手を貸してやるか。最も誰が蹂躙されるか俺は知らねーけどな。




