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14.タナトスと零の夜

 以前、家庭教師としてやってきた王立騎士団棋士隊長のエラン・クラシスさんは言っていた。騎士として生きるのならば、命は王と国に預けるものと。それが騎士としての道を歩む第一歩と。

 逆にダリ先生はこう言った。魔法使いとして生きるなら、自分のやりたいように極めたい魔法を極める。魔法使いは自由なのだからと。

 全く真逆の、相反する二つの道。同じ国と王の為に命を賭けるという点では一緒なのだが、あまりにも精神が違い過ぎる。

 だから騎士学園と魔法学園の生徒は仲が悪いらしい。理由はそれだけじゃないだろうけれど、大元の理由は価値観の違いが大きそうだ。


「そんなのと交流会って……大丈夫なのかな」

《俺は楽しみだな。貴族どもが雁首揃えて平民共に負ける姿、痺れるじゃねえか》

「そーだけどさぁ……」

《それに、お前がちゃんと近接相手にも戦えるか見ものだしな》

「それなんだよぉ! それが僕も分かんないんだよぉ!」


 確かに近接相手はミョルニルさんに勝ったりしたけれど、騎士となると流石に勝手も変わるだろう。間合いの取り方だって、訓練された動きになるだろうし、剣相手では『霊亀水(レイキ)』でどうにかもできないし。

 うーむうーむと頭を悩ませる。せめて前任者の剣の腕だけでも使うことができるのなら、こんな思いしなくて済むのに。


《そもそもお前は俺と変われねえしな。そんな高度な事できねーよ》

「なんで僕は無理で君は自由に代われるの?」

《そりゃお前。この体の元の持ち主は誰だよ》


 なるほど体の主導は僕で、精神や魂の主導は前任者ということか。そこも分担されてるんだ。

 というか前から思ってたけど、前任者とかってなんか変だよね。せっかくだし名前で呼び合いたい。でも前任者の名前って当たり前だけどレオンハルト・フォン・ラオだもんね。


「別の名前とか無いの?」

《ねーけど……まぁ一度考えたことのある名前なら》

「お? どんなの?」

《……タナトス》

「タナトス? 苗字はなし?」

《平民の方が気が楽だからな》


 前任者、もといタナトスはため息混じりにそう言った。確かにそれは思う。平民なら多分かなり気楽だし、何も文句を言われず騎士学園に入れるはずだしね。


《お前は?》

「僕? 零夜でいいよ」

《レイヤ? 変な名前だな》

「ふふ。そーでしょ」

《まぁ響きは好きだぞ》


 前世の名前を告げて取り敢えず互いの呼び名は決定した。部屋で一人なのに、体内で二人で喋っている構図はまさに変人だが、僕の部屋に入る人なんてそれこそリネくらいだ。しかもそのリネとは寮ごと違う建物だし。

 タナトスは僕が死にかけたら代わってくれるらしいけど、どこまでがその判定になるのか分からないから怖い。普通に見殺しになるかもしれない。


「本当に僕が死にかけたら助けてよ?」

《あ? あー助ける助ける》

「助けてよ!?」

《わーったから! わーったから肩揺らすな!》


 精神世界でブォンブォンとタナトスの肩を揺らしまくる。今の僕と同じ顔、同じ見た目の人間と話しているのはなかなか不思議な気分になる。

 取り敢えず助けるという約束は取り付けられたからOK。これで保険もかけられた。



 騎士学園と魔法学園の交流会。両校の間にあるコロッセオのような闘技場でそれは行われる。客席は超満員。学園の人たちは勿論、学園がある王都の人たちもめちゃくちゃ来ている。

 どーやら僕が知らなかっただけで、この交流会は一年に一度の超重要イベントらしい。宮廷魔法使いや王立騎士団は勿論、様々な分野の人間が視察に来るようで。とどのつまり、スカウトのための視察といったところだろうか。


「確かに上級生メインのイベントって言ってたもんねリュグナー先生」

「で、あるな。して今日は違うのだなレオンハルト」

「あはは……カイザーくんの知ってるレオンハルトじゃなくてごめんね」

「否。我は貴公の雰囲気も好いている。気にするでない」


 唐突な告白。好きになりそうだ。

 カイザーくん、雰囲気があまりにも『王』すぎてちまっこくても可愛いという感情は湧かない。でもやはり全体像だけで見れば、なかなかにショタいからそんな急にストレートな感情をぶつけられると心が動く。

 ドギマギしていると、後ろから足音が聞こえた。振り返ると、おおよそ半年以上ぶりに見る人の姿があった。


「む。レオンハルト殿」

「あっ! エラン先生! お久しぶりです!」


 王立騎士団騎士隊長エラン・クラシスさんだ。転生した初日に家庭教師に来てくれた人。すごくイケメンで儚げな雰囲気を纏った人だったので、すごく印象に残っている。

 指導はまぁ生温いなんてものじゃなかったし、最後に期待外れのような顔をされたのもよく覚えている。


「ああ。……やはり魔法学園に行ってしまったのだな」

「父上の命ですので……」

「一騎士としては残念でならないよ。君程の才を持つものが、騎士にならないのは」

「……」


 どう返すのが正解なんだろう。僕自身は剣の腕なんて無いに等しい。剣の腕が凄まじいのはタナトスの方なんだから。でもエラン先生が見ている僕は、タナトスの姿なのだろう。事情を知らないのだし、仕方ないけれど。


「……エランよ。騎士隊長の言葉を言うのだろう? 表でもう呼ばれておるぞ」

「え? あっそうだった! って、カイザー王子申し訳ありません! ご挨拶が遅れてしまい……」

「それは良い。早くゆけ」

「はっ!」


 やっぱりカイザーくんは王子だ。騎士隊長の人が、挨拶をしないだけであそこまでタジるのだから。不敬罪とか怖いもんね。分かるよ。

 エランさんが表に出て行った後に、カイザーくんはため息を吐いてから『王子と呼ぶなと百は言っているのだがな』と呆れていた。仕方ないよ。

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