13.騎士
「つ〜ことで、今年はかなり早めにやるらしい騎士学園交流会が来るぞ」
「騎士学園交流会……? 姉妹校交流的な?」
学園に来て二ヶ月。朝リュグナー先生の口から放たれたのは、これまた大きそうなイベント。騎士学園は魔法学園に隣接している騎士養成所のような場所。魔術ではなく剣術を教え、王立騎士団入隊を目指している。
平民しかおらず、平民が王宮に仕えることができる唯一の職が王立騎士団。当然お給料も破格なので目指す人は大量にいる。まぁ大抵篩に落とされるらしいけど。
《騎士学園ねぇ……》
(わっびっくりした。というか前任者って騎士学園入りたいとかなかったの?)
《テメェ……あの家でそんなこと言えると思うのか?》
(……ごめん)
ぐうの音も出ない。確かに父上のプライドの高さを知っていて、それでも騎士になりたいとか言えるわけないか。オルフェウス兄さんは肯定するどころか支援してくれそうだけど。
「具体的に何するかって言うと、騎士学園の選抜と魔法学園の選抜のメンバーで1対1の決闘方式で闘う」
「はっ。平民如きが我々に勝てるわけがあるまい」
「そーよ。所詮チャンバラがうまいだけでしょう?」
その言葉に乗っかるかのように一人、また一人と声を上げ始める。ミョルニルさん含めた平民の人たちは居心地の悪そうな表情を浮かべている。貴族の平民下げは相変わらずだ。
僕はこんなイベントをやるくらいだから、向こうさんには魔法使いに勝てるくらいの騎士がいると言うことだろうなと考えた。だからそんなに油断はしてない。
「はいはい黙れお前ら。今から俺がテキトーに選んだ二人を言うぞ」
「え、二人だけ?」
「基本上級生メインのイベントだからな。お前らは余興要員」
クラスの貴族全員がその言葉にビキッと顔を引き攣らせた。プライドがお高い方々だから仕方ないか。
まぁ前世の運動会だって、3年生の人達の異様な熱気に当てられて下級生もめちゃくちゃ頑張ると言う図式が成り立っていたくらいだ。こう言うイベント事は、やはり上級生が主役。
若干脳の血管が切れかけているクラスメイトを無視して、リュグナー先生は選抜メンバーを発表する。
「一人目はラオ坊な」
「……え? 僕?」
「おう。まぁ成績的にも妥当だろ」
いやめちゃくちゃサラッととんでもないこと言わなかったこの人。なんで僕なの。もっと他の人いるでしょこのクラス。
というのは建前。僕自身の意見としてはめちゃくちゃ嬉しい。嬉しいのだが、なにぶん僕はレオンハルト・フォン・ラオなわけで。クラス全員に舐められている存在。そんな奴が選ばれてしまったら、クラスのみんながどんな反応をするかなんてわかりきっている。
「先生! こんな奴を選ぶなんて!」
「こいつは"あの"レオンハルトですよ!? 出来損ないの屑です!」
「そーよ! なんでこんな奴が!」
「我ら魔法学園の格が下がる! 今すぐ辞退しろ!」
「ははは……」
苦笑いしか出てこないくらいの、全方向からのバッシング。右手からはあり得ない、左手からはなんでこんなのが、前からは辞退しろ、後ろからは死ね等の暴言。素晴らしい教室だよ全く。
しかし先生と止める気が全くないこの暴動はすぐに収まった。
「貴様ら」
「っ……」
「眠れん。我の眠りを妨げるな」
教室の前の席の隅っこ。頬杖を突いて寝ていた一人の男が目を覚まして、一言で周りを静止させた。白髪に淡い青のインナーカラー、蒼の瞳を宿した明らかに雰囲気が違うその男。
この教室の『王』である。
「それと、レオンハルトに負けた事実を受け入れられない小粒共は喚くでない。彼奴の興が覚める」
「やっ僕は大丈夫なんだけどね……ありがとうカイザーくん」
「……眠る。今度邪魔するならば、不敬として貴様らを消す」
カイザー・ペンドラゴン。この国を治める王であるルーラー・ペンドラゴンの嫡男。立ち位置的には第一王子でありながら、彼自身は自らを王子とは名乗らない。理由はよく知らない。だけど纏う雰囲気と威圧感は、王子というよりはもはや『王』に近い気がする。
そんなカイザーくんは、授業休み時間問わず常に眠っている。けれどこう言う眠りを妨げられる行為をされると、途端に目を覚ましすぐにその原因を潰す。カイザーくんは自らが指針、自らが中心なのだ。
「つーことで、お前らが意見したところでもう決まったことだから諦めろ。んで二人目はカイザーなんだが」
「承った。要件は以上か?」
「おーおー。ゆっくり寝ろ王子様」
「……王子と呼ぶな」
そう苦言を漏らしてからカイザーくんはまた眠りに着いた。そして教室内の緊張が一気に解ける。張り巡らされていた糸がふっと緩まる感覚に近い。
全員僕のことを睨むけれど、もうさっきみたいにバッシングの嵐は無かった。今度騒いだら自分の生死が怪しいのだからそらそうだけど。
◆
《……カイザー・ペンドラゴン……》
(どしたの)
《んーや。別に》
(えぇ……きも……)
《切って半分にするぞ》
前任者がさっきからうるさい。前までほぼ出てこなかったくせに、今日はやけにシュバってくる。騎士学園との交流会だから血が滾ってるのかな。
前任者に言われた通り、僕は腰に剣を帯刀している。勿論僕が使う用では無くて、前任者が使う用で。いつ前任者が僕と代わるかは分からないけど。なんの変哲もない普通のショートソードだけど、いいのかな。
「おや? 誰かと思ったら、『異端』のオルフェウス・フォン・ラオ様ではないか」
「んぇ? 誰?」
渡り廊下を歩いていると、突然何者かに話しかけられた。振り返ってみると魔法学園の制服とは違う制服を着ている同い年くらいの男がいた。
襟についている校章を見て僕はすぐにこの人がどこの人間がわかった。魔法学園の真隣、隣接されている騎士学園の生徒だ。
「剣に適性があると聞いていたのに、何故魔法学園に?」
「あはは……父上の命令で」
「ふぅむ……」
《おい、退け》
(え? わぁ!?)
ガキィン! という金属音と共に、俺の剣と相手の剣が交錯する。完全な不意打ちでギリギリだったが、常に代わる準備をしておいて良かった。後任のままなら、簡単に切られて今ごろ床に伏せていたところだ。
「ほう……やはり剣の才は確かか。この不意打ちを防ぐとは」
「騎士目指してるやつがこんな場所で剣を抜くたぁ、いい度胸してんじゃねえかよ」
「君には分かるまい。公爵家に生まれた君に平民の気持ちなんてね」
「ふはっ……」
気色悪い。俺だってあんな家に生まれたくて生まれたわけじゃねえ。
鍔迫り合いから力を抜いて一気に剣を受け流し、相手が崩れたところに思い切り回し蹴りを入れる。左に吹っ飛んでいった相手の背中を思い切り踏みつけ、メキメキと音が鳴るくらい体重を乗せる。
「ぐぁっ……」
「分かりたくもねーな。気色悪い騎士もどきの考えなんてよ。反吐が出る」
「がはっ……ゲホッゲホッ……」
(ほら変わってやるよ。もうこいつはいい)
「……んぁ? えっ!? な、何この状況は」
目が覚めたら、さっきまで喋っていた騎士学園の人を踏みつけていた。しかも僕が剣を持っているということは……ぜ、前任者まさか出会って数分の人を足蹴にしたの? 野蛮?
僕が足を背中から退けて、オロオロしていると騎士学園の人は立ち上がり不敵な笑みを浮かべながら僕に背を向ける。
「ふふっ……君がやはり剣しか使えないということが分かったのは収穫だ……失礼するよ」
「え……あの……」
(僕魔法使えるけど……)
恐ろしい勘違いをされている彼を引き止めようとするものの、彼はもう自分の世界に入ってぶつぶつと何かを呟きながら僕から離れて行った。
(ちょっと! 何したのさ!)
《あ? テメェを守ってやったんだろうが。感謝しろよ後任》
言ってる意味がわからない。僕はひたすら困惑する他なかった。




