11.異様
「では、ミョルニル様は遠距離系統は苦手なのですね」
「ええ……だから『雷鳴蹴り』主体で組み立てるの」
「私も基本ゴリ押しですので……繊細なものはそこまで」
リネとミョルニルさんは一瞬で意気投合した。同じ平民枠、仲良くするのはいいことだ。僕もほぼ扱い的には平民みたいなものだし。だって他の貴族の皆様は僕のこと虫ケラくらいにしか思ってないだろう。
模擬戦はまだ行われている。もうとっくに先生が作ったペア分けでの模擬戦は終わったけど、みんな一回じゃ消化不良みたいだ。血気盛んだなぁ。
「それにしてもレオン様」
「んー?」
「先ほどのあの水魔法。独学ですね?」
「ん! さっき思いついたからアドリブでやった!」
「アドリブ……すごい」
風魔法が圧縮と収束によって威力が高まるのなら、水魔法の特徴はその自在性だろう。そもそも水はどんな形にもなれる。丸い壺に入ったら丸く、四角い水槽に入ったら四角く、嵐に呼応するように荒々しくなる。
その特徴を利用して、魔法としてのファンタジーでなんでもありな部分を応用したのがさっきの水魔法。弾性と、雷を通さないゴムのような性質を組み合わせた防御特化の水の鎧。アドリブとはいえかなり上手くいったと思う。
水は雷を通すという当たり前は、一度頭の中からとっぱらった。常識に囚われてしまうと可能性は潰えてしまう。
「でも……レオンハルト・フォン・ラオは魔法が使えないって聞いたわ……」
「あー……まぁ噂違いだったってことで」
「ええ。レオン様は剣ではなく、魔に適性があったのです」
リネもしっかりと俺の苦しい言い訳をサポートしてくれる。前任者の事はこの際完全に間違い、噂違いだったとする方が平民の方々には効果覿面だろう。貴族の方々の方はもう知らない。僕も前任者も悪く無いもん。
ミョルニルさんはほーんといった視線を向けたあと、『そうね』と言ってから模擬戦の方に視線を移した。どうやら理解していただけたようだ。
模擬戦はというと、まぁ貴族の皆様の戯れといった感じか。でも時たますごくガチのやり合いをしてる組もいる。うーん、僕も模擬戦はやりたいんだけどなぁ。
「レオン様は今、また別の魔法を作りたいのですね」
「いえーす。次はそーだなぁ……傷口を焼き続ける炎とかかなぁ」
「殺意……高いわ……」
「レオン様、素晴らしいアイデアでございます」
でも僕の魔力と回路の太さじゃ限界はあるし、さっきの水もめちゃくちゃやり繰りしてアレだ。強度も理想より足りてなかったし、雷のスタンも全部遮断していたわけじゃ無い。
もっと訓練が必要だ。ダリ先生から言われた魔法100回も、それ以外のことにも着手していかなくては。こうしてはいられない。せっかく魔法学園に入学したのだから、先生に教えを乞おう。
「ごめんリネ、ミョルニルさん。僕ちょっと用事を思い出したから行ってくるね」
「かしこまりました。何かあればすぐお呼びください」
「ん……ばいばい」
そうして二人と離れ、職員室に向かう。とはいえ誰に聞けばいいのだろう。魔力量の増やし方と、回路の太くする方法。ダリ先生が言っていた『魔法を使い続ける』は極論だと思うけれど。
それの他にも方法がある気がしてならない。そう思いつつ職員室へ向かって歩を進める。
「ん? ラオ坊」
「あ、リュグナー先生」
向かっている途中で、先程の模擬戦を仕切っていた先生で僕のクラスの担任のリュグナー・ハーグル先生と鉢合わせた。
ちょうどいい。確かリュグナー先生の受け持っている授業は『魔法応用』だったはず。色々知っているはずだ。
「あの、リュグナー先生」
「ん?」
「魔力量の増加、魔力回路を太くする方法は魔法を放ち続ける他に何がありますか?」
「あん? あー……そうだな……ラオ坊の場合は……」
リュグナー先生が長い髪を耳の上にかき上げつつ、ピアスを弄りながらうーむと唸る。リュグナー先生、適当だしダウナー系でよく分かんないけどいい先生っぽいんだよね。前世にもいたよこんな感じの先生。
というか僕のことラオ坊とか言ってくる割に、魔法を使えることにあんまりびっくりしてない感じだ。模擬戦が終わった後も、ちょっとだけ僕を見てからすぐに模擬戦仕切りに戻ったし。
「ラオ坊は、魔法が上手い」
「え? あ、ありがとうございます?」
「上手いって言うのは、イメージがって事だ。あの水も独学だろ。見たことねーし」
「そうです! でもあれ、やりくりしまくってたからちょっとまだ強度が……」
「……お前の魔法と魔力は、変幻自在だ。普通じゃない」
その台詞に僕は思わず首を傾げる。普通じゃないってなんだろうか。僕だって別にさっきの水以外はマニュアル通りの魔法を使っている。風魔法も雷魔法も、どれもこれも全部ダリ先生から教わったもの。
「水もそうだが、『風塵』と『風衝』もマニュアル通りとは思えないものがあった」
「例えば?」
「圧縮と収束の質。何より応用力の高さ」
確かに『風塵』は普通は手のひらから放つ魔法。だけど僕はあの時ミョルニルさんの『雷鳴蹴り』を受けて弾いた後に、拳に風を纏って一気に圧縮収束させ、正拳突きのように放った。
『風衝』も、普通は着弾してから炸裂させ二重の衝撃を与える魔法だけど、僕は多分蹴り返してくると予測して早めに炸裂させた。読みは大的中でミョルニルさんは避けられず、炸裂した風の刃を全て喰らっていた。
「お前の魔法の使い方は、水もそうだが恐ろしく柔軟だ。それが普通じゃねえ。だからお前は、魔力量と魔力回路は鍛えなくてもいい」
「?」
「どうせお前の使い方なら、自ずとそれは鍛えられる。魔力の込め方も上手いしな。全く、これのどこが落ちこぼれなんだか……」
頭をガシガシと掻きながら、僕の頭をポンッと優しく叩いて、先生はボヤきながら側にあった階段を降りて行った。
先生の言っている事はちょっとしか分からなかったけれど、このままでいいのなら別にいい……のかな。まぁダリ先生が魔法を使い続ける事しか指示しなかったのは、結局これが一番効率いいからかもしれないし。
でも僕、教えられたことをしてるだけなんだけどなぁ……。




