10.雷鳴貫く
あのイルーガが、何もできずに平民にボコボコにされた。そんな光景は、周りの貴族の皆様にとってはあまりにもショッキングな映像だったらしい。それも連鎖爆発二回でだ。
リネは普通の平民じゃ無いし、ラオ家にいたってことは相当優秀だったんだろう。メイドとしての面も、護衛等の面でも。
とはいえあんなボムボム爆発させてゴリ押すって感じとは思わなかった。普段の礼儀正しく、寡黙でお姉さん気質なリネからは想像できないパワフルさだった。
「貴方の従者さん……すごい」
「いや僕も初めて知ったよあれは……」
「貴方も……強そう」
「いや僕はそんな……魔法齧りたてのペーペーだよ」
これは事実。半年しか触ってないし、本質の部分とかまるで分かってない。適正というものがあるのもさっきの授業で知ったのだ。ミョルニルさんは何を見て僕を強そう思ったのだろう。
僕が今さっき倒したのだって、研鑽を怠ったダメ貴族一人だ。リネが倒したのは割とちゃんとしてそうだったけど、僕が倒したのは本当にダメダメそうだった。
(……待てよ? まさかミョルニルさん……)
感じてるのかな。前任者を。前任者を強そうと思うなら納得がいく。あいつ魂を感じてるだけで、威圧感というか強そう感が滲み出ているし。
「うーし次〜。ミョルニルとラオ坊」
「ラオ坊て……」
朝の出席確認の時、先生は僕をラオ坊と呼んだ。反射ではいと言ってしまったせいで、先生は呼んでいいと判断したのか、そこから今日はずっとラオ坊と呼ばれてる。
いいんだけど、いかんせんラオと呼ばれるとみんなが少しピクッと反応してからクスクス笑い出すのが癪に障る。仕方ない事なんだけど、僕は魔法使えるからなぁという思考がどうしても抜けない。
でも前任者の分まで、レオンハルトとして生きてあげると誓ったのだからこの程度は我慢しよう。前任者は数万倍の苦痛を耐えてきたんだから。
(ミョルニルさんはどんな魔法を使うんだろう……まぁ名前で大方予想はつくけど)
「んじゃ初め〜」
「『電荷』」
やはりか、というのが第一感想だった。初めの合図とともにミョルニルさんがバチバチとし始めた。雷魔法と強化魔法の抱き合わせの『電荷』。ダリ先生の魔法家庭教師の時に習って、一応使える。
だけど『電荷』は、雷への適正が相当高く無いとフルパワーで使えない。僕は数秒で体が焼けそうになった。それくらい体に負荷がかかる。
しかしミョルニルさんは全く苦しくなさそうだ。むしろ無表情気味だった顔つきが、少し凛々しくなった。
「いくよ」
「すぅ……ふっ」
「『雷鳴蹴り』」
「あっちょま……」
距離を一瞬で詰めてきたミョルニルさんが、俺の頭蓋めがけて蹴りを入れる。雷を纏い、『電荷』の効果で速度が跳ね上がった蹴りの威力なんて、頭に食らったらただじゃ済まないくらいのもだろう。
かろうじて後ろに頭を逸らして蹴りをスカせたが、鼻頭に掠ったか少し抉れた。そのまま後方に飛んで再び距離を取る。
「あっぶなぁ……」
「ん……反応がいい。やっぱり近接はちょっと危険」
「いやいやそんなことないよ……だから僕も少し対策するね」
両の手のひらの間から水を生み出す。しかし出したのは、普段の水とは少し違う性質のもの。プルプルとしていて、弾性が含まれている。少し水のイメージを変えてみた。
そこから手のひらをパンっと勢いよく閉じる。そしてそこから水が溢れ出して、僕の身体を纏っていく。雷を通さないゴムっぽい性質も組み込んでおいた。イメージ次第で変幻自在に整形できる魔法は素晴らしい。
「何……その魔法」
「ん?」
「知らない魔法」
そらそうだろう。だって僕が今適当に作ったんだから。魔法はイメージ。イメージ次第で可能性は無限にある。だから僕は、常識にとらわれない魔法使いになる。
既にある魔法を極めるのもいいけれど、せっかく僕は転生者なんだ。前世の記憶をとことん使い潰してやる。
「まぁいい……次は蹴破る」
「来いっ!」
バチバチッと音を立てた瞬間、また一瞬で僕との距離を詰めてきた。今度は踵落としの要領で僕に蹴りを入れてくる。しかし今の僕は雷を通さない水の鎧を纏っている。しかも弾性もある。
両腕をクロスさせて防御姿勢を取る。蹴りの衝撃を分散させつつ、雷のスタンは水の鎧で受ける。押し込まれそうになるけど、なんとか弾き返して反撃の為に魔力を回路に通す。
「ぐっ……『雷鳴蹴り』を流された……」
「ガラ空き!」
「しま……」
「『風塵』!」
拳に宿した風をさらに圧縮してミョルニルさん目掛けてぶち込む。ただ『電荷』状態のミョルニルさんは寸前でバチっと音を立て、またものすごい速さで僕と距離を取った。
しかしいくら光速といえど、僕の圧縮しまくった『風塵』はギリギリ避けられなかったのか、脇腹が抉れていた。バチバチっと言う音がさっきより激しく鳴り出した。維持するのに必死なのだろう。
「はっ……は……ぐ……」
「風魔法は圧縮と収束。早さも圧縮させまくったらある程度担保できるんだよ」
「……っは……なんて人……」
「ふふん。それじゃあトドメと行こうかな」
片手をミョルニルさんに向けて、再び魔力を回路に通す。周囲の風も集めて圧縮しつつ、魔力で威力を高め、その風を収束して風の球を整形する。
ミョルニルさんもなんとか動こうとするものの、脇腹の傷が少し深いのか顔を顰めている。『電荷』もほぼ切れかけている。パチパチと弱い音しか出ていない。
模擬戦とはいえ戦いは本気で。ただ殺さない程度に威力は調節して放つ。貴族たるもの、相手には敬意を払わなくてはならない。僕貴族として生きてまだ半年だけどね。
「『風衝』!」
「ぐ……『雷鳴蹴り』……!」
僕が放った風の球を、ヨロヨロになりながらもなんとか蹴り返そうと後ろ回し蹴りの要領で『雷鳴蹴り』を放つ。しかしその風の球は蹴りに当たる前に炸裂した。
四方に広がる風の刃。あまりにも唐突な不意打ち。ミョルニルさんは捌けるはずもなく、向かってきた全ての刃を喰らってしまった。ズタズタに引き裂かれたミョルニルさんは、そのまま地に伏した。
「ふぅっ……意外と様になってたね」
僕は魔法がうまく使えたことを喜んでいたけれど、この模擬戦のせいでまた凄くめんどくさいことになってしまうことをまだ知らない。




