1.転ずる
それはあまりに唐突な事だった。幼馴染の女子の真上から鉄骨が落ちてきて、それを庇うために急いで走ってその子を突き飛ばした。
死ぬ寸前、フラッシュバックするのは彼女との思い出。家族がいない僕からすれば、その子が家族代わりみたいなものだったし、走馬灯の8割を占めるのは当然か。
スローモーションの世界の中で、僕は彼女を見て最後にこう思った。
(あぁ……守れてよかった……)
直後、視界が黒く塗り潰される。轟音と衝撃が全身を貫いて、次の瞬間には何も分からなくなっていた。
「……ぇ……零……夜……! ………いや……!!」
(ぁ〜……ごめん……ね……)
◆
「……ん……んん……?」
知らない天井だ。いつもの家の白い天井じゃ無くて、とんでもなく豪華な感じの天井が見えた。心無しか体が沈んでいるベッドも、めちゃくちゃ柔らかく感じる。
というかなんで僕は生きているんだろうか。確かに僕は数メートル上空から落ちてきた鉄骨に下敷きにされたはず。
周りを見てみても病院って感じじゃない。というよりもなんというか、めちゃくちゃ良い部屋って感じだ。
「何……どう言うこと……?」
こんがらがる頭を整理するために自分の名前を思い出してみる。僕は伊藤零夜。普通の高校2年生で、幼馴染の可愛い女の子がいる。そしてその女の子を庇って死んだ筈。
起き上がってそばにあった大きな鏡で自分を見ると、全く知らない姿がそこにあった。
「な……な……なんじゃこりゃぁぁ!!!!」
頬をペタペタ触った後に思いっきりつねる。痛みがつーんと響いてきたから夢ではない。とはいえ面影のおの字も無いこの見た目。どう言うことだ。
前世の僕は少し長めの黒髪に、ジト目の黒色の瞳でいかにも普通って感じの見た目だった筈。だけど今目の前にいる男は、藍色の髪の毛に切れ目の琥珀色の瞳。普通にイケメンだ。
「いや誰ぇ!?」
「レオン様!? どうされましたか!?」
またも自分が誰か全く分からず叫んでしまう。すると聞こえていたのか、ドアが勢いよく開けられて誰か入ってきた。
クラシカルなメイド服を着用しているメガネのお姉さん。そして僕のことを「レオン様」と呼ぶ。なるほど今の僕はレオンという名前なのか。ふんふん……。
(絶対貴族じゃん!)
いやいやこの条件で貴族じゃなかったら逆に変なくらい条件揃ったなぁ!
恐ろしく豪華な部屋。僕のことを様付けで呼ぶメイドさん。そしてこの絶対にいい素材で作られている寝巻き。
間違いない。僕は転生している。当たり前みたいに。
「え、ええと……」
「具合が悪いのですか?」
「そ、そうじゃないよっ……えと……あの……」
「……? レオン様、本当にどうされましたか?」
「な、なんでも無いから! 大丈夫!」
「……それではお食事をお持ちしますので少々お待ちくださいね」
そう言ってぺこりとお辞儀をした後に優しくドアを閉めて退室して行ったメイドさん。それを見送ってから僕はこんがらがる頭を必死にまとめる。
つまるところ僕は、鉄骨に潰されて死んだ挙句異世界転生してしまったらしい。しかも結構良いところのお坊ちゃんに。
取り敢えず何か情報を得ないとマズイ。鏡の近くにあった机を物色して、何か情報は無いかと探す。すると見つけたのは一つのノートのようなもの。開くと、おそらく元のこの体の持ち主が記したであろう日記だった。
[今日は魔法の家庭教師の日。出来ねえことを強制的にやらされるのは気分が悪い。だけど家庭教師は『出来ないなら頑張って続けてみよう』と言ってくれる。
だけど父上はそう気長に待ってくれないらしい。食事中もネチネチとずっと小言のように俺を刺してくる。俺が何をしたってんだ。
部屋に戻ってから、リネが俺の部屋に来て慰めてくれた。『レオン様には剣があるでは無いですか』だってよ。剣はあるけど、魔法が使えないとラオ家では生きていけないのが分かってるのに]
「さっきのメイドさんはリネさんって言うのか」
前の身体の持ち主の日記には、情報が結構あった。この家はラオ家っていう古参名門公爵家と言うこと。僕ことレオンハルト・フォン・ラオは魔法が使えない落ちこぼれということ。そして俺は近々、魔法学園に放し飼いにされるらしいこと。
転生して早々育児放棄に遭いそうになっている事実に戦々恐々としているが、それ以上に公爵転生かよと頭を抱える。せめて平民転生でチート能力アリとかが良かった。かっこいいのに。
「レオン様。お食事をお持ちしました」
「っ! はーい、入って!」
「……? 失礼致します」
ドアを開いて入ってきたのはさっきのメイドさん。だけどさっきよりも怪訝そうな顔をしている。
も、もしかしてもう他人だとバレた? 僕の転生生活まさか20分で終了?
「レオン様?」
「はいっ!? な、なぁにリネさん」
「……!? わ、私めにさんなどと敬称を付けないでくださいレオン様!」
「え? な、なんで……?」
「私はこの家の従者なのです! 貴方様に仕えているのですから、私は下にございます!」
あ、そーいえばそうだった。僕のお世話をしてくれているっぽい人なんだから敬意は払わないとと思ってつい。
前読んだ公爵転生ものラノベでは、自分のことは自分でやろうとするとメイドが悲しそうな顔をするとかあった気がする。だって仕事奪ってるもんねそれ。
「わ、わかったよリネ……ごめんごめん」
「……レ、レオン様?」
「何?」
「失礼と思われたら申し訳ございませんが……人が変わりましたか? 何だか……恐ろしいほど違和感があるのですが……」
「え"」
やっぱり僕の転生生活終わったかもしれない。




