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提案

宴会場に足を踏み入れると、すでに多くの人々が集まっており、そこかしこから笑い声や話し声が絶え間なく響く

豪華な料理が並ぶ長机の前には人だかりができ、湯気や香ばしい匂いが空気に混じって漂う。子どもたちは嬉しそうに走り回り、両親に呼び止められてはまたすぐにどこかへ駆けていく


仲間を労う兵士の姿、再会を喜び合う友人同士の抱擁、そして家族や恋人を連れた者たちの笑顔

そのどれもが、この場の温かな空気をさらに濃くしていた

勝利を祝うはずの宴は、もはや一つの街全体の祭りのようであり、誰もが安堵と幸福を噛みしめているようだ


「キースさん!イライザさん!こっちですよ!!」

元気いっぱいの声に振り向くと、シンシア達が笑顔で手を振っていた

「遅いですよ、お二人とも」

シンシアはぷくっと頬を膨らませているが、その表情は笑顔を隠しきれていない

「悪かった。少し街の様子を見てきたところだ」

俺が答えると、すかさずカイトが茶化すように口を挟んだ


「俺はシンシアちゃんを独り占めしたかったから、遅くても良かったんだけどな」

そう言ってカイトは、シンシアの肩に軽く手を置く


「ちょっとカイト、僕もいるんだけど?」

ルークがじとっとした目で睨むと、カイトは「しまった!」とわざとらしく頭をかく


「あ、ルーク、すまんすまん。シンシアちゃんばかり見ていたから、気付かなかったよ」

からかうような笑みを浮かべるカイトに、シンシアは思わず吹き出し、ルークも肩を落としながらも笑みをこぼす


じゃれ合う二人の様子は、まるで昔から変わらぬ少年のようで、周りの空気まで和ませる


「そういえばアンダーソンさんは、今、妹さんと伯母様を連れてくるそうですよ」


宴も始まり、会場が賑わいを増す頃にアンダーソンが妹と伯母を連れて到着した

妹と伯母から深く深く頭を下げられ、お礼を伝えられた

やはり、叔父は伯母の夫だそうだ

この家族にとって、ここ数年は長く辛い時期だっただろう

「何かお礼をさせてもらえないでしょうか?」と聞かれたので、アンダーソンから聞いた伯母特製パイをご馳走してもらう事とした


その後、伯母と妹は叔父の見舞いに出かけた


酒や食事を楽しみながら、アンダーソンの伯母のパイがどれほど素晴らしいかの自慢話から始まり、カイトの女ったらしエピソードや、イライザとシンシアの食べ歩きランキングなど、今まであまり話してこなかったような、ちょっとした日常の話題で盛り上がる

なんて平和な時間だろう


「そういえば、ルーク、せっかくだし、このままパーティーに戻ってきたら?」

そうシンシアが言い出したところ

「そうだな、それがいいんじゃないか?」

とアンダーソンも続き

「そうですよ。また一緒に旅をしましょうよ」

「いいねー、でもシンシアちゃんは俺のモノだから、ルークはアンダーソンね」

とシンシア、カイトも賛成のようだ


皆の視線が俺に集まる

「それがいいんじゃないか、ルーク」

そうルークに伝える


ルークは少しはにかんだ表情で

「ありがとう。皆」

と答える

「それじゃあ、これからまた一緒に」

とイライザが言い出したが、それを遮るように

「でも、ごめん。このパーティーに戻る事は出来ないんだ…」

「え?なんで?どうしてよ?」

「やっぱりアンダーソンじゃ不満か?そしたら、月に一回は俺とデートで」

「お前は少しだまっとけ!」

カイトはアンダーソンにゲンコツをくらった

「やっぱり…あんな事があったからですか?」

シンシアがそういうと焦り気味に

「あ、違うんだよ。シンシア。実は僕、もう他に仲間がいてね」

仲間?実はルークはすでにパーティーを組んでいるのか?

「そうなの。それじゃ仕方ないわね」

「うん。でも、皆ありがとう」


ルークと一緒にパーティーを再度組めないのは残念だが、ルークの今後の幸せの為には仕方がないか


しかし、物語の中では、この後どのような展開だっただろうか…

酒を呑んでいるせいか、パッと思い出せない


「ルーク、ちょっと向こうで話しないか?」

そう言い、カウンターに呼び出した


俺とルークはカウンターで並んで座る

「なあ、この間言っていた【魔族からの提案】っていうのは、どういう事なんだ?」

そう問いかけると、ルークは前を向きながら

「そうだね。まず、どこから話して良いのかわからないんだけど…。現在いまの魔族と人族との関係について、現魔王になってから、人族と直接戦争は行なっていないよね」

「ああ、そうだな。昔は大きな戦争もあったが、今は戦争は確かにない」

「そう。でも、今回のようにまだ人族をよく思っていない者や、人族を支配したがる魔族は残っている」

「そうだな。その魔族から人を護る役割が今の勇者おれの立場だな」

「今回みたいな戦いや討伐もまだあると思うんだ」

「そうだな…まだあちらこちらに潜む魔族が多くいる」

ルークがぐっと酒を飲み込む

「そこで、人族と魔族で協定を結び、共に討伐を行なえないかと考えているんだ」

「共に?魔族が魔族を倒すのか?魔族に一体どんなメリットが?」


普通に考えて、同族殺しを進んで行なう者など、いないだろう。

なぜ魔族討伐の協定を結ぶメリットがあるのか?


「魔族もそうだが、人族にもかなり酷い事をしている者もいるのは知っているかい?魔族討伐と言いながら、平和に暮らしている魔族を襲う輩がいる。それを取り締まる為にも協定を結ぶ必要があるんだ」


確かに、力の弱い攻撃性の無い魔族を捕らえ、牢に閉じ込め、酷い仕打ちをする者がいるという噂は聞く

その為の協定とならば、確かにメリットはあるな


「よくわかった。ただ、その交渉を何故ルークがするんだ?」

そこでハッと思い出す

「魔族だって言ってた、あの意味はどういう事なんだ?」

まさか!物語では、キースの身体と精神が乗っ取られ、討伐されたが、それがルークの身に起きているのか!?


「まさか…悪魔に変えられたりとか…」

物語の流れを変えた事で、まさか主人公であるルークの身に降り掛かってしまったのか?

俺は自分が助かる為に、ルークに犠牲を強いる事をしてしまったのか?

もしそうなら…俺は…

俺は怒りと悔しさでグラスを強く握った

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