知らない話
俺たちは北の地に向かう事にした
ルークを追うようではあるが、元々北の地には行かなければならなかった
北の地は、魔王城がある土地である
ただ魔王城に攻め入る訳ではない
この世界の魔王は、理知的な為、討伐を必要としない
では、何故北の地に向かうかというと、その途中の地に、勢力をつけた魔族がいる
人間もそうだが、数が増えると無法者が現れるというものだ
勢力をつけた魔族は、人を襲うようになった為、その討伐が目的だ
ただ、北の地の討伐で、物語の中では、
アンダーソンは勇者を交渉材料として差し出し、自分だけ助かろうとして殺される
物語では、この討伐に参加していたのは、俺とアンダーソンの2人
まあ、複数のパーティーの中にいたから、正確には2人だけの討伐ではないが、
今回、この討伐に参加する際には、イライザ、シンシア、カイトもいる
この3人に被害が及ばないと良いが…
と、その前に自分の身も案じないといけないな
そんな事を考えていると、マザーが話しかけてきた
「キース、急ぐ旅ではないのなら、今晩は泊まっていきなさいな」
「あ、はい。ありがとうございます」
下げた俺の頭に手を置き、マザーが言う
「あとね、あなたに話したい事があるのよ」
そういうと、マザーは優しく微笑んだ
今晩は、施設に泊まらせてもらう事となった
夜、施設の子どもたちと一緒に、大きなテーブルを囲み食事を共にした
テーブルには、質素ではあるものの温かみを感じる料理が振る舞われた
マザーお手製のシチューは、俺の大好物で、よくおかわりをねだったものだ
そんな懐かしい思い出から、心の奥が温まっていくのが感じられる
穏やかで優しい空気の中、この時間がいつまでも続けば良いのにと思った
食事の後、マザーに呼ばれ部屋に招かれた
イライザとシンシアは、子どもたちと本を読んだりしている
カイトとアンダーソンは、何やら楽しげに酒を酌み交わしている
「旅に出る前に、これをあなたに返そうと思ってね」
そう言いながら、机に置かれた物は短剣だった
「これは?」
そう聞くとマザーは少し悲しそうな顔をして
「これは、あなたのお父様の短剣よ。
あなたのお父様は、あなたと同じ冒険者で勇者だったの。旅に出る前に、あなたのお母様にこの短剣をお守りとして渡したそうよ」
そのような話は初めて聞くもので、少し驚いた顔をした
「あなたのお母様が病気にかかられて、あなたをここに預ける時に渡されたの。でもね、あなたのお母様は『キースには穏やかな生活を送って欲しい。この短剣は、この子が大人になった時に渡して欲しい』と言われていたのよ」
それで、子供の頃に勇者の役をすると、マザーが怒っていたのか。と合点がいった
「でも、やはりあなたは勇者なのね」
そう言うと、俺の手を握り
「必ず、必ず生きて帰ってくるのよ。約束よ」
力強い眼差しに、俺は無言で頷いた
「あなたは1人ではないわ」
マザーの部屋を出た後、外に出た
空はすっかり暗くなり、空には満天の星が広がる
「1人じゃなかった…1人じゃなかったんだぞ…キース…」
そう言いながら、自分の身体を抱きしめた
自然と涙が溢れ出る
「…良かったな、良かったな、キース…」
生きていて良かった…




