第1巻 第3章「最初の脅威」
深淵を覗き込むと、暗闇の中に一筋の光が見えた。アケミを抱きしめ、じっと暗闇を見つめた。そこには奇妙な光が浮かび上がっていた。もう掴まる力も残っていなかった。すると突然、アケミが叫んだ。
――風間、放して。私はもう助からない。でも、あなたはまだ逃げてお母さんを助けられるわ!
――いいえ、あなたを見捨てたりしないわ!あなたを救わなければ、お母さんの目も見ることができなくなってしまうの。
――ごめんなさい。
アケミの頬を涙が伝い、彼女は風間の手を離し、微笑みながら闇に満ちた深淵へと突き落とされていった。
一瞬の迷いもなく、私はアケミの後を追って飛び込んだ。十メートルも深くない、ごく普通の裂け目だったが、落ちた瞬間、アケミの姿も見えず、声も聞こえなくなった。私は落下し、落下し、ついには真っ暗闇の中へと突き落とされ、太陽の光はもはや見えなくなった。
下もまた暗闇だった。どこかを飛んでいるという感覚はもはやなく、まるで無重力に宙づりになっているようだった。これが私の人生最後の瞬間なのだと思い、ただ目を閉じた。突然、風を感じ、風が吹いてきた方向を見ると、そこから地上で見たのと同じ光が輝いていた。それはどんどん明るくなり、私は思わずその光に向かって駆け出した。近づくにつれて、光はますます明るくなり、目がくらんだ。
私は夢の中に飛び込んだ。過去の記憶、幼少期、高校時代、好きだった女の子たち、友達、母、そして故郷のことを夢に見た。
明るい陽光から目が覚めると、私はどこかの草原に横たわっていた。起き上がって辺りを見回すと、そこには森しかなかった。森の向こうに丘が見えた。どうやら山岳地帯らしい。周囲をよく見渡すために丘に集まることにした。日差しが肌を焼き、気温は40度くらいに感じられた。汗が目から流れ落ち、どうしても水を飲みたかった。リュックサックに水を入れておくべきだと思い出し、何か必要なものがないかとリュックサックを下ろしたが、橋にぶつかった衝撃でボトルが破裂し、水が全部漏れ出てしまった。
ノート数冊、ペン1本、割れた瓶1本、そしてすっかりぐしゃぐしゃになったおにぎりを持っていた。でも、食べたい時にそんなにたくさん食べる必要はない。いつ食べ物が見つかるか分からなかったから、半分も食べられなかった。野生でのサバイバルゲームをしていたおかげで、どう振る舞うべきか、何をすべきか分かっていた。ポケットの中を見ると、驚いたことに携帯電話は無事だった。しかし、ここは通信手段がないので、ほとんど役に立たなかった。自分がどこにいるのか、どうやってここに来たのかも分からなかった。つい最近、地震があった街にいたのに、奈落の底に落ちてしまったのだ。
まさに!明美、彼女もここに来たかもしれない。誰かが私の呼びかけに応えてくれることを願って、私は叫び始めた。しかし、それはとても無謀なことだった。この森に何が、誰が住んでいるのか分からなかったからだ。
1時間ほど探した後、誰もいないことに気づき、丘の方へ向かった。2時間ほど歩いたが、目的地にはあまり近づけなかった。太陽はすでに地平線に沈んでいた。夏だったので寒くはなかった。ここは広島よりも暑かったが、夜になるとすべてが一変した。冷たい風が骨まで吹き抜けるような気がした。私は小さな穴を見つけて風から身を隠した。小さな空き地で見つけた背の高い草に身を隠した。森の奥深くで、何かの生き物の鳴き声や遠吠えが聞こえてきた。狼の遠吠えと熊の咆哮が混ざり合ったような。どうやってここから抜け出そうか、そしてこれが現実なのか夢なのか、考えていた。
疲労が襲い掛かり、いつの間にか目を閉じていた。目が覚めると、太陽は昨日と同じだった。
暑かった。起き上がり、歩き続けた。無性に水が飲みたくなった。汚い水たまりからでも、飲む覚悟ができていた。1時間ほど歩いたところで、小川の音が聞こえてきた。歩くのはとても困難だったが、川が見えるかもしれないという期待を抱いて、飛び起きて音の方へ向かった。目の前に大きな川があった時は、どれほど嬉しかったことだろう。
何も考えずに、川に飛び込んだ。喉の渇きを癒し、体を冷やした後、軽食をとることにした。おにぎりがまだ2つ残っていた。一つ食べた。もっと食べたくなったが、今全部食べたら明日はお腹が空いてしまうだろうと思った。
瓶の下半分はまだ空いていたので、水を入れてみることにした。何もないよりはましだ。少し休んだ後、私は歩き続けた。もう半分は来たような気がした。静かな森の中を歩きながら、これが光なのかもしれない、私がここにいるのはきっとこの光のためなのだと考えた。ここはどこか別の世界なのか、それとも同じ地球なのか?
もう地球上にいないのかもしれない、そんな考えに心臓がドキドキした。周りのすべてが異質だった。丘を登り続け、森の茂みを抜け、小さな草地の空き地に出た。
空き地をほぼ横切った時、森の中から物音が聞こえた。枝が折れる音が大きく、はっきりとしていた。まるで誰かが隠れることもせずに茂みをかき分けていくかのようだった。私は立ち止まって辺りを見回し、アドレナリンが全身を駆け巡るのを感じた。
森の端、木々の暗い影の中から、怪物が飛び出してきた。今まで見た中で最も恐ろしい生き物だった。
二本足で立ち、体高は4メートルほどの丸みを帯びた巨体だった。皮膚は奇妙な濃い桜色をしていた。