6.見学希望者現る
「あのっ!!!!」
廊下を歩いていると、声を掛けられた。振り返るとくるくる天パの男が立っている。最近よく出くわす「てっぺん」絡みか? といぶかしんで見返す。彼は小さくひっと言って一歩下がる。
並んで歩いていた篠宮が指でどっちっと指を指している。
「あの!剣道部の須佐さんですよね」
「いやぁ、まだ……」
握りしめられた拳が彼の決意を表しているようにぎゅっと握られている。
「何か用?」
「実はお願いがあります! 練習を見学させてください!」
大きな声だ。周りが何事かと足を止めている。
驚いた見学希望だ。
「俺は構わないけど、もう一人、瀬良垣って部員がいて、あいつも良いって言ったらいいよ」
彼はパッっと顔を輝かせた。
「ありがとう! 瀬良垣君も同じことを言ってたから大丈夫。あの、ボクM1ーBの染森って言います」
瀬良垣と同じクラスだった。
「ねえ、もしかして……剣道部入ってくれたりする?」
「いえ、それはないです!ボクは漫画クラブに入る予定なので」
俺はがっくり肩を落とした。事情を聴くと、自分の描く漫画に剣道を取り入れたいので見学したいのだという。まぁ、なるほど……だけど、がっくりだ。
「うん。じゃあ、また放課後」
彼は勢いよく頭を下げると、良い笑顔で教室に帰っていった。
瀬良垣と練習を始めて、もう四月の終わり。
部活勧誘はままならなかった。あれから一人も勧誘できていない。ここは地元じゃないから知っている奴なんていないし。気さくに人に話しかけるようなキャラではないからもうほぼほぼ積んだ状態だ。
「なかなか、集まんないね。部員」
「まあな、どっかにいないかな」
俺は小さくため息を吐いた。タオがが慰めるように肩を叩いてきた。
入学オリエンテーションも終わり、どのクラスも落ち着いたように見える。
できれば六月の第一週にあるインターハイ予選までには一人は入れたい。そうすれば、個人戦だけでなく団体戦でもエントリーできる。分かっているのに……。
放課後、瀬良垣と一緒に染森君とその友達が現れた。二人は瀬良垣の肩ほどの高さだ。友達の方は少しおしゃれなセンター分けの髪型で色白なんか、全体的にしゅっとしている。
「よろしくお願いします。あの、友達も良いですか? 斎藤君です」
染森君がぺこりと頭を下げ。隣にいた子も頭を下げた。俺もそれに返す。
「見学って言ってたけど、見せるのはいつも通りの稽古で良い?」
「はい」
俺は瀬良垣にうなずいてみせた。瀬良垣は準備で道着と袴を付けに更衣室へ向かう。
「じゃあまず、準備運動から」
二人は剣道場の隅に移動して座った。染森君はスケッチブックを広げている。
手首、足首の柔軟運動のところで瀬良垣が出てきた。彼も一から準備運動を始める。
なんだか見られているのはこそばゆいな。とりあえず、いつもより二割り増しくらい真剣な顔をつくって、準備運動を念入りにする。
瀬良垣を待ってすり足、正面素振り、上下左右メン素振り。跳躍素振り。このルーティーンは最初の稽古から少しずつ二人で決めてきたものだ。
動きが剣道らしくなってくると、染森君が嬉しそうに顔を上げている。斎藤君はただじっとこちらを見ていた。
準備運動が終わると面を付ける。
まずは切り返し、正確な打突と剣先を走らせることに意識を置く。
そして掛かり稽古。これは剣筋や、足さばきを重点的に気を付けながら行う。左右の足の重心を意識しつつ、まっすぐ上に振り上げ、振りぬくのではなく前へ押すイメージ。元立ちを交代しながら代わり番に打ち合った。
うまく当たれば小気味良い音が響く。
一通り練習を終えて、染森君のところへ行く。
「どうだった?」
「見てるのに夢中で描けなかった。でもやっぱ、剣道ってかっこいいね」
染森君のスケッチブックはあまり捗ってないようだったが、その分しっかり見てくれていたようだ。
「オレ高校剣道ってもっと、乱暴なんだと思ってた」
斎藤君がポソリとつぶやく。
「そこは選手によるんじゃないか」
瀬良垣君が答えると、彼はうーんと腕を組んで考えだした。
「次は地稽古するから、地稽古は二本取るまで本番と同じように戦うんだ」
少しでも染森君に良いところを見せれば、興味を持ってくれて入部してくれるかもという打算はある。そのために地稽古はいつもより派手に攻めてやろうと意気込んだ。瀬良垣も同じ決意をしたみたいだ。視線を交わすとうなずいた。