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3.ラストサムライ

「おっ、おはよー須佐ー」

 篠宮が席から手を振っている。なんだかやっと現実世界に戻ってきた気分だ。

「あっ!ああ、おはよう。篠宮」

「なんか埃っぽいね」

「あっ、ああ」

 ごまかすように笑って、ズボンに着いた埃を払った。


 どうやら篠宮もボランティア部の朝練に参加していたらしい。ボランティアの朝練って何だろうなと思ったが、ラジオ体操して解散したらしい。ラジオ体操もちゃんとすればかなり体力を使う。篠宮が疲れたーと言いながら机に突っ伏した。

今日は体育があるから体力温存するんだと言って、そのまま、授業を受けていた。


 この学校驚くなかれ、英語の最初の授業がアルファベットだった。国語に至ってはクラスメイトの名まえを読む授業。オレの名前は須佐 宣でスサ アキラと読む。「センだろそれ、読めねーよ!」とクラス中からブーイングを頂いた。いや、宣すら読めないやつもいた。宣の名前はじいちゃんが付けてくれたから文句ならじいちゃんに言ってくれ。剣道教士七段だ、返り討ちにあうだろうがな。 


 そして、クラスの皆が湧きたつ体育の時間。

 みんな楽しそうで元気いっぱいだ。すごくまじめに体育をしている。

 大河曰く「球技大会、体育祭 文化祭は学年縦割りの対戦方式だからね。あっちみろよ。先輩方がこっちを見てる。もうすでに選手を選ぶためにチェックしてるって聞いたよ。しょっぱいことしてたらクラスに突撃してくるぞ」

 と、授業中だというのに先輩方がギャラリーでいる理由を知った。気を抜けない体育が始まった。



 午前の授業が終わり、皆がそれぞれ昼食をとっているときだった。


 俺は椅子の向きを変えて篠宮と一緒に弁当を広げていた。じいちゃんに負担を掛けないように俺の弁当は俺が作っている。と言ってもタッパにいっぱい白米を敷き詰めてそこに卵焼きとウィンナーをのせただけの至極シンプルな弁当だ。栄養より、腹を満たすことに特化している。

 手を合わせていただきますを言う瞬間だった。弁当の横にもう一個弁当袋が置かれた。驚いてその弁当袋をたどり上を見ると、なんとあの、剣道場の坊主頭がそこに立っていた。


「一緒に良い?」

 篠宮も驚いて見上げている。

「え?あ?」

「ありがとう」

 彼はそれを返事と受け取って隣の席から椅子を借りて座った。篠宮が俺に視線を送って……誰?って顔をしている。俺は小さく首を振って知らないと返事をした。俺らの様子を坊主頭がにこにこ見つめている。


「あぁ、僕はM1-Bの瀬良垣流星です」

 坊主頭が弁当を取り出しながらよろしくと言った。

 篠宮を見ると、ひらめいた顔をして突然パンっと手を叩く。

「あぁ、俺は篠宮大河。よろしくってか。瀬良垣って西中の瀬良垣?」

「うん、西中出身だ」

 どうやら有名人らしい。

「思い出した。西中のラストサムライ瀬良垣だ。確か西中は男子剣道部員が瀬良垣ひとりで、そんな呼ばれ方をしたんだよな」

なんだその愛称……ダサっ。

 だがサムライという言葉が妙にしっくりするから通り名になっちゃったんだろうな。

 瀬良垣は俺をじっと見つめてくる。自己紹介を待っているようだ。


「俺は須佐宣 宣言の宣と書いて あきらだ。よろしく」

 慌てて自己紹介をした。

(あきら)、よろしく」

 下の名前呼びかよ。

「で……なんでここに?」

 篠宮がおずおずと尋ねた。

「宣と話したいと思ったからさ」

 篠宮の視線が此方に向けられる。

「なんで俺の教室が分かったんっすか?」

「制服の襟章……M1-Aってなってたから」

 あぁ、そうだった。しっかり見ていたんだな。

 瀬良垣は俺のしまったという表情を見て笑い出した。


 篠宮が説明しろと視線に圧をかけてくる。

 そこで今朝あったことを説明した。

「なるほどね、だから朝早かったんだ」


 剣筋を見て経験者だろうと確信はしたが瀬良垣の話を聞いてその通りだったと分かった。

「うん。高校では誰かと剣道したかったんだ。でも部員がいなくて。なぁ、一緒に剣道しない?」

 俺は口に含んでいたご飯を飲み込んで考えた。

「なんで俺?」

「経験者だろ?」

 あぁ、まあ普通にばれていた。

「夏までに五人集めたら部を復活していいって言われた。だから勧誘している」

 入学してこの一週間ですでにその話を取り付けてきているなんて、すごい行動力だな。俺もしようとしていたことは秘密だ。


 夏までだいたい四か月。

 俺はまた口いっぱいに米をかき込んで咀嚼した。そしてふと思い出す。

「でもあの剣道場、掃除しなきゃ使えないぞ」

 瀬良垣がブッとふき出した。机に米が飛んでいる。篠宮が嫌そうな顔をした。

「あぁ、埃で体調崩したくないしな」

 瀬良垣はそう言って笑う。

 篠宮も剣道部に誘われていたが速攻で断っていた。俺は弁当をかっこみながら瀬良垣を観察する。ご飯は美味しそうに食べるタイプだ。それにまじめそうな顔。朝は怖いかもと思ったが、話してみればよく笑う。


「いまのところ俺が入っても二人だけど、残り三人 あてはあるのか?」

「あてはない!」

 いい笑顔で答えが返ってきた。行動力はあるが、計画性はないのかもしれない。

「大丈夫なのか?」

「……大丈夫……じゃない。でも、これからは宣がいるから」

「いや俺がいても同じじゃないか?」

「きっと大丈夫だ。宣ならできる」

 なんで俺が励まされてんだ。

 瀬良垣はおにぎりを包んでいたラップを小さく丸めて袋にしまった。そして俺の顔を真っ直ぐ見てくる。

「で、どうする?」

どうやら瀬良垣は裏表のない素直な性格だ。


「じゃあ、剣道部入ります」

「よっしゃーー!」

 瀬良垣は小さくガッツポーズをすると立ち上がった。

「よかった……放課後また迎えに来る」

「あぁ、分かった」

「じゃあよろしく」

 瀬良垣は手を差し出す、俺はその手を握りかえした。

「やっぱ、硬いな。剣道してる手だ」

「お互い様だ」

 瀬良垣はそのままクラスに戻っていった。


 購買でマスク売ってたかな? とか考えつつ。あの剣道場を使えると思うとわくわくした。それにたぶん強いであろう瀬良垣と稽古をするのも楽しみだ。


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