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21.作戦会議

 次の日、朝練に向かった。

 剣道場にはすでに流星と詩音がいて、やっと現実に戻れた気分になった。思わず近くにいた流星に抱きついて現実を確認した。驚きつつも、流星はそのまま受け止めてくれる。唐突な行動なのにどっしり構えていて体幹がぶれない、さすがだ。

 わざとらしく上げたテンションに流星たちは困った様に笑う。


(あきら)、大変だったな」

 流星が背中をぽんぽんと撫でてくれる。

「うん……もう二度とあの人たちとは関わりたくない」

 本音をこぼすと、詩音は俺の頭を撫でてくれた。

「よく頑張った」

「ありがとう、やっとなんか。日常に戻れた……練習ガンバル!」

 そうこうしているうちに、大河たちも合流し本格的に稽古が始まった。頭をしっかり空っぽにしてただひたすら、まっすぐ振り上げて下ろす。そうしているだけでも気分はすっきりした。


 朝練の時間はあっという間に過ぎ、教室棟へ向かう。

「困ったら俺らにも頼れよ。お金のこと以外なら相談のるから」

詩音が笑う。大河も笑ってうなずいた。

「じいちゃんが、なんかいろいろ手続きとってくれてるみたいでさ。た……大丈夫だよ」

 たぶんを付けそうになって、慌てて止めた。たぶんなんてあいまいな言葉を付けてしまったら、心配が増すのは目に見えていた。なので話題を変えることにする。

「なぁ、それより。もうすぐインハイ予選だけど、その後は期末だ。大丈夫なのかよ」

意地悪く笑うと、皆目を丸くする。

「「あぁ、そこは今回もお願いします」」

 素直に頭を下げるので笑った。少し先でも予定が決まるのは安心する。俺は任せとけって胸を張った。俺は笑ってる……ちゃんと笑って見せないと。



 放課後の練習はひたすら地稽古をした。声を出して、頭を空っぽにしてただ相手に向き合って打ち込む。こうやって相手をしてくれる仲間もいる。ずっとやりたかった剣道をできているのだから俺は幸せだ。それを噛みしめるように打ち込んだ。


 放課後の練習もあっという間だった。

「なぁ、宣。ちょっと話せるか?」

 珍しく智樹が誘ってきた。

 俺はじいちゃんに連絡して、皆と駅前のカラオケに行った。到着したカラオケ屋の前には見知らぬ女性が智樹に向かって手を振っている。小柄で人のよさそうな笑顔をする人だった。たぶん、智樹の彼女かな?と思ったらその通りだった。

 カラオケの部屋に入ると、智樹が立ち上がって頭を下げる。

「彼女の方が俺より大人だから、頼りになるかと思って。勝手だけど相談させてもらった」

 驚いたがすぐに頭を横に振った。

「いや……心配かけてごめん」

「勝手に心配してんだから謝るなよ。俺らは宣がどこかへ連れていかれるのは嫌だから」

 智樹がそんな風に言ってくれることがうれしくてニヤつくと、そっぽを向かれた。


 彼女は事前に調べてくれていて今は同居していないこと。三年間家に生活費を入れず、相手の家に入り浸っていたことは『カンゴジッセキ』と言うのが足りない、いわゆる『ネグレクト』になるんじゃということ。『オレが望んでいないこと』があるため父がいくら一緒に暮らしたいと言っても『子どもの福祉』的に認められないのではないかということらしい。それを裏付けるメッセージアプリのやり取りを時間も含めてスクショしとくと良いとアドバイスをくれた。

「私も専門じゃないから頼りないけど、証拠があればすぐに一緒に暮らせとはならないと思うわ。だから資料作りとか手伝うから、困ったら言って」

とほほ笑んでくれた。

「ありがとうございます。彼女さん」

「ともの友達だもん。手伝うよ。でも、あんまり役に立てなくてごめんね」

 ふと智樹の方を見ると、すごく柔らかな表情をしていた。智樹って彼女にはそんな風に微笑むんだなと思ったらこっちまで恥ずかしくなった。流星は二人の様子を見ながら瞬きの回数が増えていた。卓也はマイペースにデンモクを持って何やら検索してる……ここで歌う気か? 大河のほうはお食事メニューを開いていた。……手を止めているのはスイーツのところだった。

 みんなマイペースで、深刻ぶらないからありがたかった。せっかくだからときっちり、カラオケを楽しんで帰った。


 家に帰ってから智樹の彼女の助言に従い父からのメッセージアプリをスクショして印刷した。それをじいちゃんに渡すと、じいちゃんは読みながら泣いた。

 今は幸せだから……そう言って慰めたいと思うけれど、あの日々はまだ消化できていない。泣いているじいちゃんの背中を見ていることができなくて、自室に引っ込んだ。

それでも今はやみくもに耐えていたころとは違う。今はタダ仲間と剣道がしたい、じいちゃんと一緒にいたい……しがみつくものがあるからそれほど苦しくないんだ。




 その後、父のことは思わぬところでいったん終結することになった。

 『不正受給』が発覚したらしい。詳しくは分からないけど、一緒に暮らすことにはならないと言われた。そして、それを機にじいちゃんが俺の後見人にもなることに決まったそうだ。


 まだ完全に解決したわけではないが、当面は父から横やりが入ることはないだろう。


 夜風に湿り気が混じる。そろそろ、梅雨が近いのかもしれない。


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