14.中間テストと球技大会
流星の苦手科目は英語らしい。
ためしに犬のつづりを書かせたらinuuuと書きやがった。じゃあ、猫は?nyaaaだった。俺は絶望に膝をつきそうになった。
「どうしてこうなるっ。どうやって入試受かったんだ!!」
流星は視線を逸らして坊主頭を掻く。顔だけ見たらまじめで賢そうに見えるのに、この顔面詐欺め。
そもそも青波工業の中間テストは緩い。というのもテスト前からテスト内容が開示される。それを当日までに覚えて書けば皆が一〇〇点をとれる。なのにだ……毎年平均点は50点という驚きだ。修羅の学校とはこういうものか。
言われてみれば校舎内の落書きにはちょくちょく綴りが違うものや、漢字のおかしいものが多い気がする。
とりあえず、目標は25点。
それだけ取れれば赤点は回避できる。
「ディス!イズ!ア!ペン!」
試しに掛け声を英語にしてみた。ディスで右メン、イズは左メン アで右メン、ペンで左メンを打つ。
流星は素直にそれに従って打っている。剣道場の壁には今回中間テストで出る英単語が貼り付けてあり。目で覚え、耳で覚え、体で覚える作戦だ。テスト期間中は部活禁止の抜け穴とかではない。
じいちゃんはテスト明けの練習から、毎週水曜日と金曜日に稽古に来てくれることになった。詩音の家の手伝いが水曜日休みなのに合わせた形だ。
部員全員揃って練習に臨みたい。そのためには……!
「おい、中村幕府って何だよ。そこもだめなのか!!流星!!」
俺は絶望に吠えた。
流星は良い笑顔でうなずいた。手強かった。だが体を動かしながら覚えるのは性に合っていたらしく。なんとか、平均30点をとったと喜んでいた。流星にとっては今までで一番良かったらしい。
そして、中間テストの最終日は球技大会だ。
これがまた厄介だった。俺の場合はM1-Aなのだが、同じくM2-AとM3-Aは同じブロック……この縦割りをブロックと呼び、試合はブロックマッチで戦う。
ここで得た点数と、体育祭、文化祭の点数を足して年間の青波王を決めるそうだ。
なにがそんなに青波王が魅力的かというと、なんと副賞に賞金が出る。総勢八五〇名いる生徒一人一人から三〇〇円徴収し。25万ほどの賞金を優勝ブロックが総取りできるシステムになっていた。
先輩たちがガチなのはそう言うことだ。勝ったら人の金で焼肉食べ放題。
これほど魅力的な言葉があるだろうか。
だがやる気になったのもつかの間、球技大会は勝ち点のほかに芸術点というのがあることが判明した。
その芸術点の正体……俺たちは先輩が用意した箱の中身を見て絶句した。
中には色とりどりのドレスや衣装が入っていた。
芸術点とはいかに目立つかということらしい。俺たちはキャバ嬢コスプレでサッカーをすることになった。俺はM1-Aのてっぺんだからと強制女装だ。
「わー、宣って迫力美人だな」
ピンクのひらひらのドレスに花飾りを付けている俺を見て、大河がのんきなことを言う。
「大河はなんか……似合う似合う」
大河はチャイナ服だ。お団子っぽいものもつけている。
「二度繰り返すのは、嘘なことが多いんだけど」
その言葉ににんまりと笑顔だけで答えておいた。この地獄には信号機頭の三人組も引き込んだ。詩音は清楚系の白いドレス。らいと君はアイドル風でノリノリで胸にパッドを詰めている。深いスリットの入った赤いドレスのれお君は美人系だった。
「はははっ」
妙に似合っているから笑えて来る。足を見たらげんなりするけど。
俺たちはスカートを持ちあげグラウンドを走りまわった。俺は袴で慣れているからか、あまりスカートに抵抗がない。それに運動は皆、得意だったらしく一年ながら決勝リーグに上がったからヨシだ。これも全部焼き肉のため。
「あれ? 宣?」
テントで休憩をとっていると、知った声が降ってくる。
「……おう」
やっぱり、流星たち三人だった。B組は伊達眼鏡と蝶ネクタイ、半ズボン。さっそくだがこの迷宮入りな状況を解決し欲しい。俺もそっちが良かったな。ジトッとにらんでいると、流星が苦笑いする。
「なんか……似合ってるよ」
流星のフォローがむなしい。
「ヤバイ、写真撮ろう。こういうの俺の彼女好きなんだ!」
智樹が嬉しそうにカメラを俺らに向けてくる。
恥ずかしがる方が恥をかくこういう時は思いきりが大切だ。五人揃って筋肉をアピールした。流星も卓也も腹を抱えて笑っている。事件を起こしてやろうか。この迷探偵どもめ。
「なぁ、宣。二人で撮ろう」
「ご指名ありがとうございまっす!」
流星まで面白がるからファンサを過剰にすると決めた。腕をとって肩に頭をのせる。撮った写真を見せてもらうと、めっちゃ笑顔だった。
「すげーウケる、みんな似合ってる」
智樹と卓也が涙を拭いている。笑いすぎじゃないか?
「まぁ、普段の宣も可愛いからな?」
「ありがと?」
流星からフォローがはいるが、何のフォローだよ。
中間テストも終わって、今日から部活が再開される。
「お前ら放課後覚えてろよ、しごいてやるからな!」
やる気をみなぎらせていたが、先輩たちは手強かった。俺たちは決勝リーグ初戦で負けた。それでも芸術点はかなり上位に食い込むことができた。おかげで怒られない程度の記録を残すことができた。こういう無茶ぶりがあと二回、体育祭と文化祭であると思うと震える。
放課後からやっと、部活らしい部活ができる。剣道場のあの静かで澄んだ空気を思い浮かべる。そこに響く床を踏み込む音と、竹刀がぶつかる音。くっさい小手の匂い。全部嫌いじゃない。
やっと部活として立てたスタートライン。これから本格始動する。




