13. 五人目の勧誘
空けて月曜日の部活は土曜日が大会だったために振り替えで休みになっていた。
だが、練習はできなくとも、これからのことを話し合うべくこうして剣道場に部員四人で集まった。
話す内容はもちろん、これからのことだ。
「俺はもうそれしかないと思う」
声を落として瀬良垣、斎藤、染森を見る。三人は俺を見返すとうなずいた。
「大丈夫、策はある……!」
手元には一昨日じいちゃんが見せてくれた写真がある。これを見て確信を持った。
「あとはみんなの協力が必要だ」
そうやって膝を突き合わせて作戦会議をしている中、剣道場の扉が開いた。
入ってきたのは、篠宮と信号機頭の青色担当しおん君だ。
二人とも入り口から入ってくる際、しっかりと神棚に向かって礼を取っていた。
……これではっきりした。
「須佐、来たよー。何か用?」
大きく息を吸い込んで、ふたりを真正面から見つめる。
「実は二人にお願いがあるんだ。頼む。剣道部に入ってくれ」
四人ですかさず土下座した。
「え?えええ? なんでオレら?」
「じいちゃんから聞いた。お前ら二人とも俺のじいちゃんの教え子だったんだろう?」
しおん君は視線を泳がせた。
「ばれたかー。まさか、須佐が守屋師範のお孫さんだなんて気づかなくてさ」
しおん君はそう言って頭を掻いた。
「でもさ、オレ本当に家の手伝いしないとダメでさ。放課後の練習とかは無理なんだ」
ごめんと言ってしおん君は頭を下げた。
「いや、しおん君。選手は無理でもマネージャーとか。試合の時の手伝いとかで……!」
染森が言葉を継ぐ。斎藤がうなずいた。
「ルールが分かってるだけでいいんだ。スコア付けてくれたりでも十分」
「むしろ空いた時間ここにきて、しゃべるだけでもいい。せっかく高校生なんだ。高校生らしいことをしたいと思わない?」
俺はわざと「高校生らしい」というその言葉を使った。
「高校生らしい……」
しおん君が小さく繰り返した。俺には少しだけ彼の本音が分かっている。俺だって中学の時、母親が不安定なせいで、まともに部活や友達と遊んだりができなかった。俺はそれを仕方がないと思うことにしていた。母親の世話をするのは息子としては当然だって。しおん君も家族を助けるのは大切なことだとわかっているから、仕方がないと思っていると思う。だけど、部活や友達との付き合いをしたくないわけではないだろう。ただ、自分のしたいことの優先順位を家族よりも下にしているだけだ。
「きっと、楽しいぞ」
「ほんとに練習出られなくてもいいのか?」
「あぁ、男に二言はない」
瀬良垣が言う。
「……わかった」
しおん君は入部を検討してくれることになった。
「それで、篠宮も」
「俺は……ボラ部にも入れなかった人間だぞ?」
そう、篠宮はボランティア部には入れなかった。もともと入部制限のある部だったが、今回はほとんど縁故採用で定員が埋まり、そのことについて抗議したら落とされたということだった。
「俺は篠宮が良いんだ」
「ええ?」
「篠宮。俺はただ剣道がしたいんじゃない。楽しく剣道がしたいんだ。そう思った時、篠宮しかいないって思った」
染森がそっと手を上げる。
「篠宮君、ボラ部を志願したのは女の子と知り合いたいからだって聞いた。剣道も女子と出会えるよ」
「オレ彼女いるよ」
斎藤が手を上げてにやりと笑う。
「剣道着は二割り増しカッコよく見える」
瀬良垣が慣れないフォローを入れる。
「ふはっ、なんだそれ」
「とにかく、二人に……ここにいる剣道部の総意で入って欲しいんだ」
俺たちは四人並んでまた、土下座をした。
少しした後、笑うような吐息が聞こえてきた。
「そこまでされたら断れないな。須佐、入部するよ」
がばっと顔を上げて篠宮を見ると、ちょっと恥ずかしそうな照れた顔をしていた。四人でダッシュして二人に抱きつく。
「ありがとう!大河!!」
「イッキに距離詰めてくるじゃん。宣」
大河は抱き着かれたのが鬱陶しかったのか、すぐにその場に転がされた。皆でギャアギャア言いながら順に抱き着いては投げられるを繰り返した。瀬良垣は踏ん張っていた。
改めて 新生・青波工業剣道部はお互いに自己紹介した。
斎藤智樹 篠宮大河 須佐宣 瀬良垣流星 染森卓也 宮下詩音 だ。
「ちょっと待って、俺だけ仲間外れじゃね? なんで皆、苗字がサ行なん!」
詩音が不満そうに言う。
「詩音は名前がしおんだからいいんじゃね?」
智樹が適当に答える。それに流星と俺が笑う。
「ほんとだ、すごい さしすせそ。揃ってんね」
卓也がマイペースに感心している。
「集まるべくして集まったってことだろ」
大河がカッコつけて言った。
「わざとだったりしてな?」
俺が茶化すと、皆が笑った。
「え? もしかして俺が良いって言ったのそう言う意味?」
大河が俺をまじまじと見つめてくる。
視線を逸らすと、大河が俺にヘッドロックをかけてくる。卓也が止めようとしたが、足がしびれていたらしく体当たりをしてきた。
間違いなく楽しい部活になると心から思えた。
俺たちは六人揃って高橋先生のところへ向かう。善は急げだ。
「おぉ、集まったんですね」
高橋先生は優しい笑顔を浮かべて喜んでくれた。
「須佐君。君のおじいさんが外部指導員としてくる話ですが、保険の手続きが終わり次第来ていただいて大丈夫そうです。どの曜日に来られるか決まり次第、また報告してください」
「え。守屋師範にまた教われんの?」
「うん。やっぱり指導者は必要だなって」
大河と話していると、流星がぶるぶる震えだした。
「なんか、実感わいてきた。本当に高校で剣道ができるんだな。やっぱ、宣を誘ってよかった」
「そうだな」
俺もここまでうまくいくとは思わなくて、少し夢を見てるんじゃないかって思っていたから。
だが、周りを見るとちゃんと皆がいる。
「あ、感動しているところすまないが。来週から中間テストが始まる。赤点をとったら強制的に補講だから部活をしたかったらちゃんと勉強もしなさいよ。特に瀬良垣君」
流星は顔を青くする、高橋先生が変なフラグを立てたなと思った。




