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12.地区合同錬成大会終わり、決意

 大将戦、この時点で俺たちの負けは確定ではあるが、瀬良垣は全力でいった。

 いきなり真っ向勝負だ。同じタイミングで面を打った。だが、しっかり白の旗が上がる。瀬良垣が一本取った。

 相手は悔しそうに足元に視線を落とす。そして、ゆっくりと構えてまた瀬良垣を睨んでいる。瀬良垣はどんな表情をしているんだろう。

「二本目!」

 瀬良垣の咆哮のような気勢が響く。ダンッダァンと床を踏み込む音が響いた。あの遠間からの縮地のような踏み込み。瀬良垣は勝負をコテで決めた。

 敵の気力を奪うような鬼気迫るコテだった。

 場内に拍手が響く。すごい試合には敵味方関係なく称賛が集まることを知った。


 結果二-二で本数負けをした。


 下がった俺たちを高橋先生と染森が出迎える。

 斎藤も俺も多分すごく悔し気な顔をしていたのだろう。

「負けたことを悔しがれるのは良いことです」

 高橋先生が俺たち一人一人の手を取って重ねさせた。

「勝って反省。負けて感謝ですよ。この負けで明日からの練習はさらに充実することでしょう」


 地区合同錬成大会 優勝は西城高校 準優勝は美浜商業 俺たちは三位になった。



 錬成大会の後半は試合会場の六面中、四面は男子。残り二面は女子で地稽古をすることになった。

誰と組むかは自分から申し込んでも良いし、逆に申し込まれたりもする。同じ学校同士はダメというルールで場内で相手を探す。体育の時間にある二人組になってくださいだった。

 瀬良垣はモテモテだった。

 斎藤と染森、俺はぼちぼちだ。あの西城の選手が俺たちのところに来てくれたのは少しうれしかった。もう相手が決まっていた後だったので、断ったけれど。強い相手に覚えられているというのは自尊心がくすぐられる


 後半はいろんな人の剣道が見られて、試合ができて楽しく終われた。



 そして、帰りのバスの中は疲労もあってか静かだった。

 先ほどまで試合をしていたアリーナを横目に瀬良垣がつぶやく。

「なんかさ、宣が先鋒って間違いなかった」

「うん、須佐って普段大人しいくせに剣道になると戦闘民族化するからな」

 斎藤が笑いながらそう答える。

「斎藤だってやる時はやる男だったな。二回戦のあのコテ マジでかっこよかった」

 俺がそう言うと、瀬良垣と染森がうんうんとうなずく。


「俺も次こそ、試合に出てみたい」

 染森が眉を八の字にしてうつむいた。斎藤が染森の肩を叩いた。

「いてくれたら心強いよ。それにしても、瀬良垣は強かったな」

「美浜商業のエース相手に速攻二本勝ちしてたな」

「なんか、二人が頑張ってるの見てたら僕がやらなきゃってなって」

 瀬良垣は照れ隠しにまた窓の外を見た。

「負けちゃったな」

 俺も窓の外、アリーナを見た。

「でもさ、楽しかったよな」

 三人はうなずいた。バスの中は夕陽色に染まる。

 負けたけど楽しかった。二人の剣道を見るのも、対戦相手をどう攻めるかを考えるのも。何もかもが楽しかった。



 ――だからひとつ決心をした。



 家に帰ると、じいちゃんが台所から「おかえり」を言う。俺は「ただいまー」と言いながら鼻をひくつかせた。今日はカレーのようだ。


 荷物を下ろしてじいちゃんの後姿を見た。

「なぁじいちゃん、話がある」

 俺はじいちゃんの手を引いて、仏間の畳に座ってもらった。その前で手をついて頭を畳に付けて土下座をする。

「じいちゃん、お願いです。俺の部活の指導をしてください」


 前々から考えていたことだった。

 だが、このまま剣道部が存続するかも分からない状態で、外部の人を呼ぶのは無責任だと思った。じいちゃんが教えている小学生の剣道教室だってあるだろう。それにじいちゃんの年を考えると、身内だからと甘えるのは止めようと思っていたのだが。


 今日試合をして、負けて、強くなりたいと思った。

 そのために必要なのは指導者だ。


「宣」

じいちゃんの低い声が頭の上で聞こえる。

「今日の試合、どうだった?」

思わぬ質問に顔を上げて考える。

「……もう少し戦いたかった」

「そうか」

 俺は洗いざらいじいちゃんに事情を話した。部活存続のためには五人必要なこと、だけど今は四人しかいないこと。そのうち一人が初心者で、もう一人はブランクがあること。だけど、みんなで剣道を続けたいと思っていること。じいちゃんは静かに聞いてくれた。


「わしはお前に頼られてうれしい。お前の両親のことも、お前はわしが来いと言うまで助けてほしいとは言ってこんかった。きっと今まで、大人に頼るってことをしたことがないんだろうと思ったよ。お前は一歩引いたところがある。大人に期待してないんよな」


 じいちゃんは俺をよく見ていた。まだ、一緒に暮らし始めて1か月半。父はじいちゃんが苦手で、この家にはあまり来なかった。没交渉と言ってもいいくらい。だからじいちゃんと言いつつ、ほとんど知らない人。最近やっと、おかえりとただいまが自然に出るようになった。

 俺はうつむいて膝頭を見つめる。


「……お前は本気で剣道がやりたいんだな」

「うん」

 じいちゃんの手が俺の頭をワシワシと撫でていく。剣道をする硬い手のひらの感触に、大昔もこんな風に撫でられたなと思いだした。


「……わしが叶えてやる。じいちゃんに任せろ」

「……うん。よろしくお願いします」

 膝に染みをつくった滴をごまかすように、俺はもう一度手をついて深くお辞儀をした。その後頭部をまたじいちゃんがぐりぐりとまぜっかえした。


 その晩は、カレーはカレーでもカツカレーだった。じいちゃんは辛口のカレーを生卵を足して食べていた。たぶん、俺に合わせて辛口にしてくれたんだろう。

「じいちゃん、次からは中辛で良いよ」

「そうか、食べたいものがあれば言えよ」

 そう言うと、じいちゃんは俺の分も卵を用意してくれた。辛みが抑えられてとても美味しかった。



 食事が終わって、テレビの前でくつろいでいるとじいちゃんが昔のアルバムを出してきた。

 じいちゃんが取り出したのは、何年か前の剣道の大会の写真だった。

 俺はそれを見て驚いた。見たことのある顔がそこにいたからだ。

 そして、垂れを見て確信した。うちの部活に必要な五人目を。


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